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女性だって野球がしたい!  大リーグ球団が史上初の女性のための野球キャンプを実施。

一村順子フリーランス・スポーツライター
みよ、この勇姿。表情は真剣そのもの。(写真はレッドソックス球団提供)

ソフトボールではなく、軟式野球でもなく、野球がしたい。しかも、世界最高峰メジャーリーグの施設で…。そんな野球好きな女性の夢を叶える初の試みが実現した。大リーグのレッドソックスが米国時間の1月14日から17日まで4日間の日程で、キャンプ地フロリダ州フォートマイヤーズで女性だけを対象にした「ウーマンズ ファンタジー キャンプ」を行った。MLB球団主催の女性対象野球キャンプは史上初だという。

ズラリと並んだロッカーに掛けられた憧れのユニフォーム。(レッドソックス球団提供)
ズラリと並んだロッカーに掛けられた憧れのユニフォーム。(レッドソックス球団提供)

参加者は20代から50代までの48人。大リーガーがシーズン到来に備えて2月中旬にキャンプインするより一足早く、野球をこよなく愛する女性陣が集まった。ホーム&ビジター用の名前入りユニフォームや練習着を支給され、ロッカーが割り当てられる。早朝6:30からクラブハウスが開き、朝食後8:30からミーティングという1日のスタートはメジャーキャンプとほぼ同じだ。コーチ陣はレ軍の監督も務めたバッチ・ホブソン氏やトロット・ニクソン氏を始めとした往年の元選手たち。初日からストレッチ、キャッチボール、野手は打撃&守備練習、投手はブルペン投球などマンツーマン指導が行われ、2日目からはメーン球場を使って2日間で計5試合を行う。レ軍OBや球団関係者も参加する親睦会や夕食会などフィールド外の行事も満載。費用の方は、現地3泊4日で送迎と朝昼食付きで参加料1人1999ドル。昨夏販売されると早々と完売した。参加資格は特になく、18歳以上なら誰でも参加できる。憧れの施設で憧れの選手たちと接する目的で申し込んだファン目線の参加者もいれば、現役選手としてトレーニングを続けている選手目線の参加者も。本場メジャーのキャンプ場で野球漬けの4日間を過ごした。

メジャーのオープン戦を行うジェットブルーパークで試合。(レッドソックス球団提供)
メジャーのオープン戦を行うジェットブルーパークで試合。(レッドソックス球団提供)

この記念すべき第1回キャンプに参加したオハイオ州在住の日本人、福沢秋后(あきさ)さんに話を聞くことができた。福沢さんは物心着いた頃から、プロ野球と高校野球の大ファンで大学時代は(男子)野球部のマネージャーを務めた。ある日、マネージャーが打撃練習に参加できる余興があり、生まれて初めて硬球を打ったところ、見事なセンター返しとなった。

「ジャストミートした感覚ですね。あ、これなんだ!と。ソフトボールや軟式ではない、硬球の弾みやバットのしなり。その感触がエクスタシーで(笑)、取り憑かれちゃいました」 

強烈なインパクトを残した初体験を経て、野球にのめり込んだ。女子野球の組織運営を夢見てオハイオ大学の大学院でスポーツ経営学を専攻。卒業後は米国の女子野球のプロチーム「コロラド シルバー ブレッツ」でインターンとして働き、現在住んでいるオハイオ州コロンバスでも女子の野球チームを創立。8年間コーチ兼選手で活動し、自腹を切って打撃マシーンを購入するなど運営面も切り盛りしてきたが、選手集めや練習場所の確保、遠征費用の工面などに苦労してきた。

「20年野球を続けてきた自分が、選手として大リーグ主催のキャンプに参加できたことは、感慨深いものがありました。思ったよりレベルが高かったです。お金さえ払えば、参加できるので、どうなのかなと思っていたけど、皆さん、結構トレーニングを積んで来られている印象です。個人的にはビクター・ロドリゲスさんに打撃指導もして頂きましたし、最高でした。体はあちこちバリバリなんですけど(笑)」

打席に立つ福沢さん。(レッドソックス球団提供)
打席に立つ福沢さん。(レッドソックス球団提供)

日本では、東京六大学のジョディー・ハーラー投手、小林千紘投手が話題を呼び、ナックル姫・吉田えり投手(石川ミリオンスターズ)が注目され、09年には日本女子プロ野球リーグが設立された。一方、かつて、映画「プリティリーグ」でもお馴染みの全米女子プロ野球リーグが1943年から1953年まで活動していた歴史がある米国の女子野球事情はどうか。2014年にはリトルリーグで13歳のモネ・デービス投手が天才少女と呼ばれて脚光を浴び、昨年は、当時16歳のフランス人メリッサ・メイユー遊撃手が、女性として史上初のMLB国際登録リスト入りし、ドラフト対象選手となるなど話題にはなるが、実際の活動や普及状況は、それほど活発とはいえないようだ。世間一般での認知度はまだ低く、スポンサーの確立や選手層の底辺拡大などに課題を残している。「シルバーブレッツ」も、スポンサーの撤退によって4年間でその活動を終焉。現在、野球の本場、米国に女子のプロリーグはない。

「MLBが支援すれば、女子野球に対する認識も変わってくると思います。米国ではリトルリーグは女の子を受け入れていますが、その後、受け入れ先がない。だから、ソフトボールに転向するか、高校や大学では男子に混じってプレーする形になるけれど、それはやっぱり限られてくる。今回の試みが、野球をやりたい女性の環境を整えることにつながって、再び女子のプロチーム設立を目指す先駆けになればいいなと願っています」

30年前までは、マイナーだった女子サッカーも急激に競技人口を増やし、”なでしこジャパン”は多くの国民に親しまれるチームになった。女子ラグビーは1991年からワールドカップを開催し、女子スキージャンプ競技も五輪種目に採用されるなど、女性のスポーツは、近年大きく変わった。「女性にとっては体に良くない」などと根拠のない決めつけで、男性だけとされてきた競技にも、その楽しさに取り憑かれ、より高いレベルを追求する女性が増えている。

「野球の神様は、プロの男性だけのものじゃない。老若男女問わず、野球という素晴らしいスポーツを愛する皆のものだと思っています」と福沢さん。憧れの硬式球を追いかけ、“プレーする野球”を堪能したファンタジーキャンプを終えた女性たちは、いつの日か『野球の神様』が微笑み、ファンタジーが現実になることを信じている。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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