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こうして決まる!新幹線の「名づけ」

伊原薫鉄道ライター

2015年3月の長野~金沢間開業をめざし、工事が進められている北陸新幹線。昨年秋には、使用される新型車両「E7系・W7系」の概要も発表となり、白を基調に「空色」と「銅色」のラインが入ったデザインを目にした方も多いことだろう。12両編成の列車には、東北新幹線E5系「はやぶさ」で話題のプレミアムブランド「グランクラス」も導入されるほか、乗り心地の向上を図るためのアクティブサスペンション機構や、洋式トイレへの温水洗浄便座の設置など、より快適な旅が楽しめるよう工夫されている。

そして5月31日からは、いよいよ北陸新幹線の「列車名」募集が開始された。ひょっとすると、あなたの考えた名前が新幹線の名前に採用されるかも?

○新幹線の愛称は「公募型」が多い?

初代新幹線・0系。「ひかり」は地名にもなった。写真は定期運転最終日の「こだま」
初代新幹線・0系。「ひかり」は地名にもなった。写真は定期運転最終日の「こだま」

実は、新幹線の愛称が公募により決定されるというのはそれほど珍しいことではない。昭和39年に初めての新幹線として運行を開始した「ひかり」「こだま」も、開業前に愛称募集が行われた。約56万通もの応募の中から「ひかり」は堂々の第1位となり、速達型特急の名前として採用されたのである。また「こだま」はこの募集で第10位の得票数だったものの、新幹線の開業前に東京~大阪間で運行されていた、日本初の電車特急の愛称が「こだま」だったこと、「こだま」=「音」を連想し、「ひかり」=「光」とともに超特急の愛称としてふさわしい、などの理由で採用されたと言われている。

愛称募集が行われた例としては、他に秋田新幹線「こまち」(得票数第1位)などがある。新しいところでは2011年にデビューした九州新幹線「さくら」(得票数第1位)と東北新幹線「はやぶさ」(得票数第7位)でも実施された。ちなみに「はやぶさ」選考の際は、得票数の上位であった東北特急伝統の愛称「はつかり」「みちのく」などを抑えての採用となっている。

○「出世魚」ならぬ「出世列車」

九州ブルトレから東北新幹線へ転身を遂げた「はやぶさ」(写真:齋藤正紘氏)
九州ブルトレから東北新幹線へ転身を遂げた「はやぶさ」(写真:齋藤正紘氏)

このように、列車愛称が公募で選ばれるパターンが存在する一方、もう一つ多いのが「当該区間を当時走っていた列車名を採用するパターン」で、いわば「出世魚」ならぬ「出世列車」とでも言えるケースだ。具体的には、東北・上越新幹線で走っている「やまびこ」「とき」「つばさ」などや、長野新幹線「あさま」九州新幹線「つばめ」がこれにあたる。さらに、東北・上越新幹線の「あおば」「あさひ」などは、その列車の運行開始時には走っていなかったものの、過去に走ったことのある列車の愛称から選ばれている。また、九州新幹線「みずほ」は、かつて東京~九州を結ぶブルートレインの名称として使用されており、廃止から16年あまりを経て、区間短縮?での復活となった。

ブルートレインといえば、公募型で出てきた「さくら」「はやぶさ」も元々は東京~九州を結ぶブルートレインで使われていた愛称だ。「さくら」は「みずほ」とともに再び九州へ戻ってきたと言えるが、「はやぶさ」は渡り鳥らしく?一気に東北地方へと渡り活躍することとなった。長年親しまれてきた伝統的な愛称だけに、使用に際してJR東日本はJR九州へお伺いを立てたという逸話も残っている。

○「のぞみ」=「望み」?

初代「のぞみ」300系新幹線。2012年に惜しまれつつ引退した。
初代「のぞみ」300系新幹線。2012年に惜しまれつつ引退した。

ちなみに、これまで紹介した2パターンに当てはまらないのが東海道新幹線「のぞみ」で、愛称募集などは行われず、またその運転区間と特に関係もない名前が採用されている。「のぞみ」の愛称決定には諸説あり、当時の経済情勢(バブル崩壊が始まった頃)から、日本の将来に「希望=のぞみ」を、というものが個人的にはよく聞く説である。もっとも、さかのぼれば「のぞみ」はかつて南満州鉄道で採用されていた列車名で、なんと同一区間を走る列車に「ひかり」という愛称も付けられていた。平成の時代に、この2列車が海を渡って再び同一区間を走ることになるとは、よもや思わなかったに違いない。

○第1位が採用、ではない!

こうやって見てみると、やはり日本を代表する列車・新幹線ゆえに、愛称募集が行われた場合でも得票数第1位のものが必ず選ばれるということではなく、その地域・路線に縁があったり、イメージ的にふさわしいものが選ばれているようだ。今回の北陸新幹線列車名募集でも、「応募された列車名は応募数による決定ではなく、ご応募いただいたすべての列車名を参考にさせていただき、新しい新幹線にふさわしい名前を選考いたします。」との記載がある。とすれば、あなたならではの、独創的な愛称が採用されるかもしれない。

「新幹線の車窓から」や「列Q」の著者である、フォトライターの栗原景さんは「近年は伝統ある寝台特急の名前を復活させるなど、様々なケースが生まれている。「北陸へ行く列車といえば昔からこれ」といった、従来の発想にとらわれない方がいいと思う。地元の人も、斬新なネーミングを期待しているはず。」と語る。

自分の考えた愛称が、新幹線の愛称として採用される。鉄道ファンならずとも、なんとも夢のある話ではないか。〆切は6月30日となっており、パソコンや携帯電話・スマートフォン、はがき等での応募が可能。ぜひ皆さんも、応募してみてはいかが?

北陸新幹線の愛称応募はこちらのwebサイトから。

「北陸新幹線列車名募集」(専用サイトへ移動)

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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