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人手不足 既に死活問題  今後について 

池田恵里フードジャーナリスト
80%以上がパートで占めるスーパー (写真:アフロ)

これまで20年間は低賃金、予想だにしなかった人手不足 出店さえもできない状況

外食産業の人手不足もさることながら、食品小売り業も同様の事態に陥っている。なかには店の運営がままならないという企業もあるほどだ。「人が集まらないことで、将来、倒産という企業が出てきてもおかしくない」という声さえも・・・。

首都圏の食品スーパーでは、「オープンの際、問題となったのが人手不足で、時給1200円で応募しても集まらない事態。急遽、時給1500円にし、何とかオープンにこぎつけた」と言われる。

出店をあえなく断念する企業も

地方はさらに深刻で、人が集まらないということから、食品スーパーの出店予定を見合わせた企業もある。これまで2桁以上、年間、開店していたところが1桁の開店となってしまった。

生産年齢人口が2005年では8409万人で総人口の65.8%を占め、 2013年には32年ぶりに8000万人を割り込んだ。今後、2030年には7000万人を下回るという日本全体の大きな問題が横たわっている。

その一方で人口減であっても、国内の人気業種もあり、「どんどん応募者が来る」と言った企業もあることも事実。食品小売り(流通業)はさえない、不人気業種であるのは、他の業種と比較すると給料が低いこと、小売りの宿命と言えるどうしても不定期な休みとなるのが原因と言われる。

リーマン後、一時期、人余り 長らくの低賃金からその後、一気に・・・

これまで食品小売業は、低賃金によるコスト構造で成り立っていた。商品の搬入、商品設計もある意味、おおまかであっても良しとされた。ちなみにリーマンの後、一時ではあるが、人余りがより顕著となった。外食産業の話になるが、大手の他業種から優秀な人材を獲得するために、高い収入でヘッドハンテイングした外食チェーンがあった。その業界では極めて高い、年収1000万以上にすることで「優秀な人材は、2倍以上の仕事をしてくれ、仕組み構築をしてくれる」と言われたことを思い出す。しかし今では、賃金を上げてもなかなか難しいとされる。そこで外食のみならず、食品小売り業も切羽詰まった状況のなか、各社、取組みが始まっている。

現状の取り組み

  • 採用、その後

この急激な変化に対応すべく、ある総合スーパーでは、「採用センター」を新設し、取りこぼしがないようにしている。採用後では、パートのフォローをすべく、社員をつかせるなど離職を食い止めるようにしている企業もある。とある関西の食品スーパーではフル(8時間)で働くパートには、働く意欲があるため、新店がオープンする5カ月前から研修をしている。

  • 社員教育制度、より明確化

これまでも各社、社員教育に余念がなかったが、更に一人一人のパートアルバイトを離職させないために、よりパートの希望に即した教育制度を設け、昇給するたびに給料に還元し、それ以外にも昇給の機会を増やすようにしているのだ。

段階ごとに賃金を上げていく方法をとるスーパーは以前からあったが、より緻密な評価基準の見直しを手掛け、そのたびに賃金を上げるようにしている。

これだけで抜本的な問題解決になるのか

このように採用、社員教育を徹底させることは大切である。しかしその一方で、賃金を上げることによる人を囲む、離職への防止策をとっても、人口減は止まらない。もちろん、採用応募を長期間かけ、採用後の教育も、以前より、コストがかかってしまう。

因みに東京23区のスーパーのパートは約1000円(昼間)で、1年間で100円アップしている。

そこで参考として

首都圏の某有力食品スーパーの場合、600坪の店舗だと正社員が12から20人、パート比率は大体80%、つまり正社員が15人なら、週2400時間分のパートを雇用しているわけだ。その時給が100円上がれば、年間1248万の経費増となり、同様の店舗が150店舗あれば、18億7200万の増加

出典:激流2014年7月引用

さてこれを現在、2015年、連結23期増益、単体26期連続増収増益し躍進を続けている優良企業の食品スーパー「ヤオコー」に当てはめてみる。142店舗あり、57期では営業利益134億円であり、年間18億7200万がいかに重いかがわかる。

最近ではパートから正社員にするスーパーもあるが、その場合、人件費は2倍となってしまう。

その一方で、これらの事を重々承知の上なのであろう。5円刻みで昇給の際、アップさせる涙ぐましい努力をしている企業もある。

これまで、多くのスーパーは8割以上、パートとなっており、一日平均4時間週5日が多い。商品を適正な時間(昼食に売れる商品、夕食に売れる商品)に売り場に置くことで、当然、機会損失をなくし、お客様に満足してもらえるためにも、パートをその時間帯に合わせて、バックルームに集中的に配置する。つまり、これまでの4時間設定というのは、ある意味、お客様にとっても、店側にとっても、よく考えられたシフト制と言われる。

しかし最近、他の業種に人材が流れるため、「さしあたって、なんとか、とりあえず人を集めたい」その一心で、2時間シフトといった条件をものんでいる企業が出てきている。しかし、ここで忘れてはならないことは、少ない時間でも教育をしなければならない。そのため4時間勤務と同様のコストが発生するのだ。付け焼刃的にも見える。

時間給を上げることで、人手不足を解消できるという論者もいる。しかし日々の日常食を販売している食品小売業は、その先に購入してもらうお客様があり、単価を上げても、昨今のお財布事情を考えると購入してもらえない。価格をアップするにも上限があり、人手不足にあえいでいる外食より価格設定の幅が狭く、より厳しいのかもしれない。つまり簡単にはそうはいかないのだ。

今後について

生産人口は減少していくなか、ではどうすればよいのか。

もちろん、社員確保、教育は必然である。と同時に一見、人の問題とは関係ないように思われるであろう,物流、商品の提案の仕方を今、もう一度、見直すことにより、小売り、外食の人手不足の問題を解決する糸口にもなる。

製造一体型

既に製造一体型を手掛けることでバックルームの人件費を削減し、自社で一括製造しているスーパーもある。

そのうえで、次なる手として・・・

商品の見直し、アルデイ、ピカール そして今後のスーパーの惣菜

スーパー惣菜は、作り置き提案である。そのため時間が経っての提供であり、ドイツのアルデイが行っている窒素充填により酸素によって酸化されず長期保存が出来、この数年、注目されている。賞味期限を長くすることは、人手不足にも一役担うことになる。

昨年、ドイツ「アルデイ」のチルド商品
昨年、ドイツ「アルデイ」のチルド商品

そして昨年、日本にも昨年11月に上陸したイギリス、ピカールの冷凍食品も注目されている。

とはいえ、このまま日本に持ってきても、食文化の違いからなかなか浸透しないと思う。これを日本の食に置き替え、高齢者、単身のニーズ、などに早急に対応した日本版のものが必要となってくる。

更なる食品の進化とは

昨今の冷凍技術は、日々進化の一途をたどっており、鮮度の良い状態で瞬間に凍結することにより、鮮度の維持ができ、これは賞味期間が長く保たれることも意味する。加えて、冷凍することで極力、身体に優しい商品となる。そして人出不足の解消にもつながる。

原料、加工の見直し

原料にもメスを入れることが大切である。これはよく知られていることで、一応、一例として上げると、魚は水揚げから、工場に移動する際、一端、冷凍、その後、半加工したり、カットする際、解凍し、そして冷凍と言った2フローズン。解凍するたびに鮮度が落ちるため、釣り上げたところで加工もしくはカットし冷凍する、所謂、1フローズンにより、鮮度がアップされる。1フローズンは、既に行っている企業も多々あり、畜肉についてもこの観点から改善できる点は残されている。

勿論、為替の変動もあり、海外での加工にするのか、それとも日本でするのか、をも考慮することで、最終、人件費のコストも変わってくる。

つまり川上のところでの制御 これが人手不足をも解消となる。

人口減少に歯止めがかからない今、採用の見直し、社員教育は勿論のことと、同時に、製造、物流の見直しをも手掛ける時期に来ている。既に各企業では緊急を要する問題であり、今後、食品小売り業が大きく変化するきっかけとなると思う。

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フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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