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ハリウッド、今度はLGBTで批判

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:Duits.co/アフロ)

今年2月に開かれた米映画の祭典アカデミー賞で、演技部門の受賞候補者に人種的マイノリティーの俳優が一人も選ばれず、激しい批判を浴びたハリウッド(米映画業界)だが、今度は、性的マイノリティーへの配慮が不十分だとして、再び批判を浴びている。

性的マイノリティーLGBT(ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー)の権利向上に取り組む団体GLAADはこのほど、主要な米映画会社が、それぞれの作品中にLGBTをどれくらい登場させているか、あるいは作品の中でLGBTをどう表現しているかなどを調査し、結果を公表した。

米国では、映画やテレビドラマ、テレビCMは、世論や子どもたちに与える影響が大きいとして、市民団体などがその内容を厳しくチェックしている。そのため、例えば、喫煙や飲酒のシーンは、厳しく制限されている。LGBTに関しては、そのとり上げられ方によって、LGBTに対する社会の理解や見方が変わったり、当事者が傷ついたり可能性があることから、LGBT団体は、公正で現実を正しく反映した表現をするよう求めている。

GLAADによる映画調査は4回目で、大手映画会社7社が昨年1年間に公開した映画が対象だ。

調査によると、対象となった126作品のうち、LGBTが登場している作品は17.5%にあたる22作品で、割合は前年とまったく変わらなかった。22作品の中に登場したLGBT役は計47人。前年の20作品中28人に比べ、大幅に増加した。

この数字だけを見れば、ハリウッドでのLGBTの存在感は増しているとも言えるが、GLAADは、その中身を問題視している。

LGBTを笑いのネタに

例えば、同じLGBTでも、人種的マイノリティーのLGBTが登場する割合は、32.1%から25.5%にダウン。また、ゲイ(男性同性愛者)が登場した作品が77%であるのに対し、レズビアン(女性同性愛者)が登場した作品は23%にとどまるなど、偏りが激しい。さらには、出演といっても、脇役やチョイ役がほとんどで、22作品中16作品は、出演時間が10分未満だった。

特にGLAADが問題視しているのは、コメディー作品などで「安っぽい笑いをとるため」に、LGBTに対する「明らかに侮辱的な描写が顕著に復活している」点だ。具体的な作品名まであげ、こうした演出はLGBTに対する無知や偏見を助長すると強く批判している。

これらの問題点を踏まえ、GLAADはハリウッドに対し、人種的マイノリティーのLGBT、障がいを持ったLGBT、田舎で暮らすLGBTなど多様なLGBTの姿を公正に正しく描き、社会のダイバーシティー(多様性)の現実を反映した作品づくりを心掛けるよう要請している。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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