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ドラクエ炎上を助長してしまったAppleとGoogle ―ドラクエMSL炎上を振り返る(1)

井上明人ゲーム研究者

先週、『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』(以下、ドラクエMSL)への批判が燃えに燃え盛った。批判がなされたのみではなく、金銭的にも一部ユーザーへの返金措置が行われた模様で、ソーシャルゲーム界隈に戦慄が走る事態となった。

今回の炎上の批判の矛先となった同ゲームの運営元であるスクウェア・エニックス側から、ユーザー全員に対する非常に丁寧なお詫びがなされた結果、2014年2月9日現在ではほぼ事態は沈下に向かっている。

確かにスクウェア・エニックス側に問題はあったのだが、今回の炎上の要因はスクウェア・エニックス単体の問題であるよりは複合要因であるというように業界関係者の間では見られている。ざっと挙げると(1)スクウェア・エニックス側の手落ち (2)ソーシャルゲーム業界全体の構造的問題 (3)2ちゃんまとめブログ等ネットメディアの構造的問題 (4)Apple・Googleの返金対応措置の問題 とおそらくこの4つの要素がそれぞれに悪い方にファインプレイをしてしまった結果として、引き起こされた問題ではないかと考えられる。(1)~(3)の要因については、今回の問題を扱った他の記事でも扱われているが、(4)についてはまだ、あまり触れられていない。

結論から言えば、AppleとGoogleの今回の対応は、消費者にとっては問題ないが、スマートフォンアプリ提供者にとっては、炎上リスクが極めて高いものであるということを露呈してしまった。多くのIT関係者にとって「対岸の火事」では済まない事態となっている。AppleとGoogleには今回の事態を受けて、早急に運用ポリシーの改善を試みてほしい。

今回の炎上の全体像を確認しつつ、何が起こったのかを追ってみたい。

■炎上の経緯

ことの次第は以下のような展開だった。(経緯をご存知の方は読み飛ばしていただきたい)

(A)1月29日、Youtube動画からのプチ炎上

「ドラクエ 返金」でのリアルタイム検索結果。炎上のタイミングが伺える。
「ドラクエ 返金」でのリアルタイム検索結果。炎上のタイミングが伺える。

1月23日 ドラクエMSLがiPhoneおよびAndroidにて配信が開始される。その後4日間で100万ダウンロードされ、良い意味で大きな話題となった。

1月29日 YoutubeにドラクエMSLの動画がアップロードされ、一部でやや話題となる。動画の内容は、ドラクエMSLをプレイしながら3万円ほどの課金をしてドラクエMSL内で良い戦力となるモンスターを味方チームに組み込むための「ふくびき」を60回連続で実際に引いてみるものを実況するもの。

実際に60回連続で引いてみたが、最強レベルのモンスターはまったく当たらず、3万円をつぎ込んでもなかなかいいモンスターを味方につけることができないというものだった。

2月3日 先述のYoutubeの動画が「ドラクエ新作のガチャの確率がヤバ過ぎるとネットで大炎上?」というタイトルとともにネットメディアにて紹介される。 

(B)2月4日「appleからの返金」で、2ch「返金祭り」へ

2月4日 2ちゃんねる内に、ドラクエMSLの返金スレが立つ。(この時点ではよくあるクレームの一種だった。そもそも、オンラインゲームやソーシャルゲームのメジャータイトルの多くにクレームを入れる人々のスレッドが存在している)。

このとき返金すべきだ、という論理は次のようなものだった。

  1. 500円で1回引ける相場より高額のシステムにも関わらず3万円引いても最強クラスのモンスターを味方につけることができないという「渋すぎる」確率のガチャであること
  2. それにも関わらず、ふくびきをする際に、「金の地図(最強クラス、準最強クラス)」を8割の確率で取得できるかのような誤解を与える図像が存在させていたこと
  3. 加えて、「8割の確率で、金の地図が取得できるように思わせかねない」図像の表示を、途中で告知もなく「5割程度の取得が可能なように思わせる」図像の表示へと切り替えており、運営サイドはこの表示が誇大広告になりうるものだと認識していることを示している
  4. よって、誇大広告ないし、優良誤認により、消費者は意図せずにお金を使わされる構造になっており、スマホ向けゲームのappleないしgoogleに対して返金を求める。

その後、返金スレにて、「Appleからの返金があった」との画像付きの報告書き込みをきっかけに、スレが一挙に伸びる。ほどなくして、「Googleも返金を認めた」という報告が2ちゃんねる内で報告され、さらにスレが加速する。返金を求めるスレであるため、そもそものスレの論調は運営に対するネガティヴな意見が多かったが、「Appleと、Googleがドラクエのやり方が誇大広告であると認めたんだ!!!」という形となり、スレが加速する。

(C)2月5日、各所で紹介され、本格炎上へ

2月4日 夜から翌朝にかけて複数の2chまとめブログにて前述のスレが解説付きで紹介され、ここからさらに炎上が加速。同日中に、他の2chまとめブログ及び、各種ウェブメディアがドラクエの「返金騒動」を伝える。2ちゃんねるスレ内の論調に対してある程度中立的な報道も少なくなかったが、2ちゃんねる内の論調をまとめる形で経緯をまとめた報道が増える。

2月5日 深夜、ドラクエMSLで緊急メンテナンスが1時間ほどなされ、サービスが一時停止。ふくびき機能が緊急停止される。

2月6日 深夜 ドラクエMSLで緊急メンテナンスが6時間ほどなされ、サービスが一時停止。翌朝、ほぼ全プレイヤーに対して「金の地図ふくびき」を行うための資金となるジェム(ゲーム内仮想通貨)のうちふくびきに利用されたジェムが全返還される。

また、ゲーム起動直後に、今回の「まほうの地図ふくびきについてのお知らせ」が自動的に表示された。丁寧なお詫びの言葉と合わせて、a.ふくびきにおける提供割合、及び内容を見直すこと、b.及び、その提供割合を明記すること。c.また各メニューの名称、デザインを変更する予定であることが示される。

・2月7日 問題となった炎上自体はほぼ収束に向かう。開発チームからのお知らせ第二弾が公開され、具体的な仕様変更の中身が公開された

・同日、この問題が他のソーシャルゲームにも飛び火しはじめ、『黒猫ウィズ』といった他のゲームタイトルについても返金措置が起こりはじめる 

・2月9日 ドラクエMSLふくびきが復活

■AppleとGoogleが「悪質」であると認定??高速に行われた払い戻し。

今回のドラクエMSLの案件が大きく炎上するきっかけになったものの一つは、間違いなく「AppleとGoogleが、今回の件に関して払い戻しを求めるユーザーに、例外的な処理として、払い戻しを行った」という事実が聞こえてきたことである。

これは、炎上の重要なターニングポイントとなった、2月4日の2ちゃんねるスレの伸び率を見てもらえればわかる。

(参照元:筆者調査&作成)
(参照元:筆者調査&作成)

ドラクエMSLの返金を求めるスレは、同日の13:28ごろに立てられたものの、スレッドの伸び率は、14時、15時まではパッとしていない。「糞スレに来てしまった」などとの書き込みもあり、話題そのものが盛り上がっていなかった。

ここに火をつけたのが、16:19と、16:31の2つの書き込みだった。

32 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2014/02/04(火) 16:19:29.90 ID:9ZUs3zec0

○○様

お問い合わせいただきありがとうございます。 

iTunes Store Supportの○○○がお手伝いさせていただきます。 どうぞよろしくお願い致します。

ドラゴンクエストモンスターズ内でのアイテムについて、事前告知と異なる内容で販売されていたとのこと、お楽しみになられるところ困惑されていらっしゃることと存じます。

いただいた注文番号での課金について払戻をさせていただきました。

こちらは iTunes Store 利用規約の例外対応をさせていただいている旨ご了承ください。

クレジットカード会社を経由して返金させていただきました。返金は翌月または翌々月となりますので、ご利用いただいたクレジットカード会社の明細をご確認ください。

アドオンアイテムは各アプリケーション開発会社より内容や価格が設定され開発元のサーバーよりダウンロードが行われます。  次回同様の事態が起こった場合は、再度、告知内容とアイテムに相違がある問題について、事実をご報告ください。

ご不明な点がありましたらいつでもお知らせください。 どうぞよろしくお願い致します。

くっそ対応早過ぎわろたwwwwwwwwwwww

返金請求して50分しか経ってねーぞwwwwwwwwww

早過ぎてビビるわwwwwwww

本スレに書いちゃった

そして、その12分後の16:31に、さきほどの書き込みがメールが送られてきた画面をキャプチャした画像が「証拠」として付きで投稿される(画像は現在すでに削除されている)

40 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2014/02/04(火) 12.69 ID:9ZUs3zec0

>>33

http://i.imgur.com/4Y4xUVF.jpg

15:26送信

http://i.imgur.com/NcSDBB1.jpg

16:12返金

早過ぎて恐い

Apple凄いわ

払い戻しの申請から、返金対応のメールが送られてくるまで、46分。確かにappleの対応は早かった

この書き込みの直後から、スレの勢いは確実に加速しはじめている。ただ、この書き込み以後、「俺はAppleに問い合わせたけど、『iTunes ではなく、開発者が管理しております。そのため、iTunes Storeでは、詳細を確認することが難しい状況です』って言われてまだ返金されてない」という趣旨の書き込みもあがり、証拠の捏造なのではないか、風評被害なのではないかというガセなのか、どうかということをめぐる議論の盛り上がりで、どうどう巡りをしている。

ただ、「ガセなのではないか」というツッコミを入れる書き込みが20時にはほぼなくなる。そのダメ押しとなったのは、19:05と、19:10の下記の2つの書き込みである。

240 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2014/02/04(火) 19:05:34.82 ID:JyD6aPu+I

パソコンつけるの面倒だったからiTunesから問い合わせ送ったら返金できた

え?48時間以内に4800円帰ってくるとか マジかよ

252 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2014/02/04(火) 19:10:26.03 ID:7odMY7Pd0

泥勢だけど、返金申請してみた

直後にGoogleサポートからの自動送信メールが来て、1000円課金が数件払い戻ししなりましただとさ

どういう事なのこれ

そして、19時代から20時にスレは二度目の再加速をみせる。そもそも平日の夜で、多くの人が帰宅してネットにつなぎはじめる時間であるということもあるが、ちょうどそのタイミングで、「AppleもGoogleも返金申請に応じた」という事態が2ちゃんねる上で確からしい情報として広まりはじめた。

21時には、Googleからの返金メールの中身も晒された。

758 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2014/02/04(火) 21:44:22.47 ID:MRKicwgl0

いつもご利用いただき、ありがとうございます。

Google Play にてご購入の Android アプリの払い戻しをご希望とのお知らせをいただきました。今回のご購入につきましては、検討いたしました結果、Google の払い戻しポリシーに対する今回限りの例外として \2,000 を返金させていただきます。

この払い戻しは、購入時に使用されたクレジットカード/デビットカードまたはキャリア決済への自動返金で行うこととなります。今回の取引でお支払い方法を利用されたかを確認される場合、また払い戻し状況を確認される場合は  をご覧ください。

また、GoogleはAppleと違って全額返金ではない、という書き込みが数多く見られるが、なかには何度もGoogleにゴネた結果として「33%返金から全額返金になった」という者も最終的には現れる。

スレのメインの論調は、AppleとGoogleの対応の速さを褒めたたえ、AppleとGoogleが今回の案件を誇大広告、優良誤認であると認めたに違いないという議論が主流を占めるようになっていった。

■AppleとGoogleはドラクエMSLを悪質だと認定してはいなかった…!?

2ちゃんねる内の議論および、それを元にした報道では、AppleとGoogleがドラクエMSLの手法を「誇大広告、優良誤認」であると認めたかのような印象が与えられているが、結論から言うと、AppleとGoogleが組織として、踏み込んだ判断を行いドラクエMSL内の手法を悪質だと認定したという事実はほぼ確実に存在していない。

悪質だという認定自体があったのではなく、存在したのは「悪質だと認定したように解釈してもおかしくない」状況だった。

AppleとGoogleが組織として内容の判定をしていない、ということがどうしてわかるのか。

まず、Googleに関してはすでに「ねとらぼ」からの問い合わせに答えて

個々のアプリについてコメントすることはできません

出典:ねとらぼ

と回答しており、個別のコンテンツの内容について組織として踏み込んだ判断を明らかにするつもりはないということを明らかにしている。

Appleに関しても、ほぼ同様の態度が見られ、2月4日時点からすでに、「恐れ入りますが、アプリケーション内のご購入商品は、iTunes ではなく、開発者が管理しております。そのため、iTunes Storeでは、詳細を確認することが難しい状況です。 」という返事を一部のユーザーによせている。

明らかに炎上状態に突入したのちの2月7日あたりから、ユーザーからの返金に対応する場合においても、「アプリケーション内のご購入は開発元により管理されております。ドラゴンクエストモンスターズの広告に対するご意見、ご質問、また本件の問題の解明をして頂く様、開発元へ直接ご報告頂きます様ご案内しております。 」との文面がテンプレートとして貼られていると報告するものがほとんどとなっている。(Googleに関しても、現在では、「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」のお問い合わせにつきましては、 恐れ入りますが、「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」運営事務局へお問い合わせください。 」という対応に切り替えている)

すなわち、AppleとGoogleはいずれも、ドラクエMSLの手法について悪質なのかどうか、という踏み込んだ判断はしていない。むしろ、現時点では、AppleとGoogleが「悪質だと判断している」という解釈をされるのは迷惑だという気持ちが伝わってくる対応に変わっている。

悪質だと判断していないということは、彼らは別の基準でユーザーからの払い戻し申請に「例外的に」応じたということだ。

■なぜ、AppleとGoogleは「例外的」に払い戻したのか:迅速に申し立てに応じることの合理性

AppleやGoogleが「例外的」に払い戻しに応じるケースは、すでに多数ネット上に報告されている。日本語圏、英語圏問わず、さまざまなケースで払い戻しに応じているようだ。

Appleの判断基準がグローバル基準かどうかはわからないが、昨年、とある有名な歌手が同性愛者への差別主義者なのではないかという疑惑が持ち上がった。この疑惑が本当なのかどうかは、論争的で事実はよくわからない状態であったが、その際に、少なからぬ消費者が「あんな差別主義者の曲を買ってただなんて!そんな人にお金を払うつもりはなかった!Appleさん、払い戻しをお願いします」という申し立てがあり、それに対してもAppleは「例外的」な案件として返金に応じたとされている。

Appleはそういった論争に踏み込んだ判断をしたのか?ということが、それ自体インパクトを呼んだが、とにかくAppleが論争的な案件において、払い戻し対応を行うことは、これがはじめてではない。

AppleやGoogleの「例外的」な払い戻しをする際の運用ポリシーは明らかではないが、実際に時間をかけた検討を行わずに、客側からの払い戻し等に応じる企業行動に合理性があること自体は昔から知られている。

たとえば、経営の名著として名高い、小倉昌男の『経営学』(日経BP,1999)には、現場の迅速な裁量でもって、家庭向け宅配ビジネスにおいて、顧客の申し立てに応じるべきである理由が次のように書かれている。(文中に出てくるSDは、現場の配達員である「セールスドライバー」の略)

「SDの荷物事故処理権限を三十万円までに広げた時、私は、SDとセンター長に次のように指導した。これからは事故を発見したら、翌日にはSDが現金を持ってお詫びに行き、即時に解決してほしい。そうすれば、事故の起きたことは仕方ないとしても、お客様は解決のための誠意を組んで許して下さるだろう。しかも損害は小さくなる――。

この損害が小さくなるだろうという点が、よくわからなかったらしい。時間をかけて折衝すれば、損害額はいくらか安くなるかもしれない、という声が多かった。そこで再度説明した。つまりお客様の示した金額を信用して翌日SDが支払えば、損害額はその荷物の価格で済む。もしセンター長が一月もかけて折衝したら、損害額はその荷物の価格にプラスして、センター長の給料、更に上司の支店長の給料が上乗せされることになるのではないか。だからSDが翌日お客様に支払うのが一番安上がりである、と。」

出典:小倉昌男『経営学』(日経BP,1999) pp182-183

個別案件について、さっさとお客さんの言っていることを聞いたほうが、ブランド戦略的にも経費削減という意味でも二重でおトクだということである。このポリシーはそれほど珍しいものではない。

AppleとGoogleがこの小倉昌男の示している方針とまったく同じポリシーで実質的に「例外」ポリシーを運用しているかどうかは、定かではないが、今までの対応をあらってみると、彼らがこのポリシーに類似したポリシーで対応を行っている可能性は高いだろう。

■悪質な「ゴネ得」「クレーマー」にどう対応するか

ただ、このポリシーには言うまでもなくいくつかの問題点もある。

いわゆる「ゴネ得」、「クレーマー」と言われるタイプの顧客の言いなりになってしまいやすいということだ。そういった悪質な消費者の人数が少ない場合や、悪質な消費者が「ゴネれば返金してくれるぜ」とか言いふらさない限りは、このポリシーは合理性がある。

一つの対応方法は、「もう一度、似たようなクレームをつけてきても対応しませんよ。その場合は、あなたを悪質な客だとみなしますよ」というやり方である。実際、Appleの場合、過去の例では、払い戻しを申請してきた消費者に対して「今回一度に限って、例外的に対応します」という念押しをいれた上で返金対応をしている事例が多く、こうしたクレーマーに対する予防措置がとられている。今回のドラクエMSLの案件では、個別の返金報告によってAppleからのメールの内容が違うので断言は難しいが「今回のみ例外的に」としているものもドラクエMSLの事案では多数みられたようだ。

ネット上を検索してみると、数年前から「Appleから、例外的に払い戻し処理をしてもらえました」というブログ記事を見つけることは容易だが、多くの記事では「今回の、僕の払い戻しは、例外的に対応してもらえたということで、他の案件でも似たような形での払い戻しがなされるかどうかはよくわかりません。」という注意書きをしているものがほとんであり、「Appleが本当は対応してくれなくても仕方ないものを、わざわざ対応してくれた」という文脈で話をしていることが多い。

これは、AppleやGoogleの意図する「例外的に」という表現がほぼ意図どうりに伝わっている案件だろう。

■炎上状態では問題をうみやすかった「例外」という表現

ただし、残念ながらドラクエMSLの件での「今回のみ例外的に」という文面は非常にわかりにくい表現となってしまっていた。

今回ドラクエMSLの払い戻しをAppleとGoogleに申請した消費者は、「AppleとGoogleが、ドラクエMSLは悪質だと認めた」から「よし、返金お願いしよう」という形で、返金申請に踏み切った消費者は多かったようだ。

だが、Apple/Google側の文脈をまともに考えるのであれば、AppleがドラクエMSLが悪質だと判断したから払い戻しに応じた、というよりも、顧客サービスの一貫として「今回のサービスにご満足いただけなかったということで、お客様の言い分はわかりましたので、初回のみ例外的に払い戻しいたします」という対応だったと取るべきだ。

というか、2月4日の16時ごろのAppleから返金申し立てへの対応は、たった46分間で行われている。どう考えてもそれ以上の水準の検討はしていない。

しかしながら、「今回のみ例外的に」という表現は、

(1)「ドラクエMSL」というアプリの中身が「例外的」に悪質だと認定したのか

(2)それとも「お客様の申し立てが初回であり、かつ理屈として、まあ、わからなくもない程度のものなので」、お客様個人に対して「例外的」に払い戻し対応を行ったのか。

ドラクエMSLの事例は何が例外なのか、いまひとつよくわからないという状態を生んでいた。炎上状態の案件で、社会的義憤に燃えている文脈のある状態では、はっきり言ってよくわからない。「え、だって、あれが悪質だってみんな言ってるじゃん。だからAppleもそれを認めてくれたんでしょ」というように考えやすい状態が整っていると、<俺の申し立て>が例外なのか<サービスの悪質さ>が例外なのか、まったく判断がつかなくなる。

その上、「Appleが返金してくれるってよ」ということを言いふらすのは邪悪なクレーマーの行動ではなく、カギ括弧付きの「社会的正義」にのっとった行動という意識に変わるため「Appleが返金してくれるってよ」という言葉は、容赦なく拡散してしまった。

AppleとGoogleの「例外」的な対応は、彼らの意図とはおそらくまったく違う方向で解釈され、広まってしまい、炎上を助長させてしまった。

■問われる炎上時の顧客対応

これは、Apple、Googleの固有の問題ではなく、既存の顧客対応のあり方が、炎上時においては逆に作用してしまうという怖さを示したケースだというべきだろうApple,Googleの顧客対応は炎上事例以外では、むしろ良い対応方法であったといってもいい。顧客対応の改良案はさまざまな形で考えうるだろうが、Apple、Googleには業界のリーダーとしての模範を示してほしいと思う。

また、今回、払い戻し申請を考えているユーザーの方は、「今回、例外的に払い戻し」が認められた場合、次に本当に払い戻しをしてほしいという場合に、その申請が却下さやすくなる可能性が高まってしまうこと、および払い戻しの仕組みをあまり考えずに利用すると既存の払い戻しの仕組みの枠組み事態を壊してしまう可能性を考慮の上で、行動してもらいたいと思う。

そして、最後に今回の事件を報道した各メディア関係者は、「AppleとGoogleが悪質だと認定した」かどうかについて慎重な態度をとった記事もみられたが、AppleとGoogleが悪質性にお墨付きを与えたという書き方をしてしまった方も少なくなかった。より慎重な取材をのぞみたい。

次回(2)に続く

ゲーム研究者

1980年生。ゲーム研究者。立命館大学講師。現在、ゲームという経験が何なのかについて論じる『中心をもたない、現象としてのゲームについて』を連載中。著書に『ゲーミフィケーション』(NHK出版,2012)。ゲームの開発も行い、震災時にリリースした節電ゲーム『#denkimeter』でCEDEC AWARD ゲームデザイン部門優秀賞受賞。ほか『ビジュアルノベル版 Wikipedia 地方病(日本住血吸虫症)』など。

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