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小さいうちに身につけておかないと”手遅れ”になる、たったひとつのスキル。

五百田達成作家・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

4月はもうすぐそこ。新生活を機に、新しいことに挑戦したい、子どもに挑戦させたいという気持ちが芽生える季節です。

突然ですが、あなたは子供の頃にどんな習い事をしていましたか?

ピアノ、バレエ、そろばん、テニスなどなど…誰しも一度はこれらの習い事の経験したことがあることかと思います。しかし最近は、これら「王道」とも言うべき習い事とは異なる、新たな習い事が注目を集めています。

習い事としてのプログラミング

いま流行している新たな習い事…それは、「プログラミング」です。

プログラミングとは、コンピューターやアプリケーション、システムを動かすための“指示書”を専門の言語を用いて作成するスキル。ホームページを作成したり、アプリを作ったりすることも広い意味でプログラミングと呼ばれています。

誰もがパソコンを使えるようになったいま、ITスキルを身に付けることは21世紀を生きる上で避けて通れない、という考えを持った親たちが、早々に子供たちにプログラミングを学習させようとし、多くのプログラミング塾が登場しているのです。

大人も子供もプログラミング

大人の間でもプログラミング学習は大きな注目を集めています。私の知人にも実際にプログラミング塾に通ったり、或いはインターネット上で無料受講できる講座などで独学するなどして学習している人が何人もいます。

さらには、ハッカソンと呼ばれるプログラミングを用いたビジネスコンテストのようなものが各地で次々と開催。知り合いの東大生(女子)は、女子大学生のみが参加できるハッカソンを企画したところ、多くの学生が参加して大盛況だったとのことでした。

高給アルバイトの条件にも

さらには、独学でプログラミングを学び、IT企業でサービスの開発をするアルバイトをしている学生もいて、「IT系の仕事が増えている中でエンジニアの数は足りていない。だから学生でもプログラミングが出来ると高い時給で雇ってもらえるんです」と胸を張る彼も、実は経済学部に所属するいわゆる文系学生。今や「プログラミング=理系の人がやるもの」ではありません。子供もやるし、文系の人もやる。そんな時代がもう始まっているのです。

「これからは海外だ! 英語を勉強しないと会社で生き残っていけない!」「いや、中国語だ」「いやいや、インドだ」などと言われていたのは昔のこと。どんな国相手でも通用する言語、それこそがプログラミング。ITの21世紀において、ごくごく基本的な能力として身に付けていることが期待される時代が来るかもしれません。

・・・って、本当?

と、ここまでは、とても一般的なお話。「なるほどなあ、これからはプログラミングか!」「よし、子どもに習わせないと!」と思ってもらうのが本稿の目的ではありません。

「英語が話せないとグローバルに活躍できない」「いやいや、これからは数字だ。数字を読めて、統計学を学べてこそ、ビジネスマンだ」といった言説は、あとをたちません。そんな中で登場したプログラミングブーム、なるほど、いい線を付いているように見えます。

それでも、私はこのように、なにかのスキルを得ることで道が開ける、あるいは、これからの時代あるスキルがないとやっていけないという論調には、いくつかの理由から、一貫して懐疑的です。

まずは、そうしたスキルは手段でしかないから。

英語を話すことは、目の前の人とコミュニケーションするための手段に過ぎません。逆に言うと、目の前の人と普通にやりとりできるなら、英語なんて必要ないわけです。なのに「英語ぐらい話せないと」と、英会話スクールに大枚をはたいて鍛えた英語力を、どこでどうやって発揮するのかわからない、という人がほとんどではないでしょうか。

誤解して欲しくないのですが、それが無駄とはまったく思いません。きちんとお金を出して塾に通えば、見地も広がるし、人生に意欲的にもなれます。純粋に楽しいし、世界が広がる予感もうれしい。

それでも、そこで身につけたスキルによって、即、魔法のように道が開けるわけではない。そんなことはオトナなら誰でも知っていることです。

次に、「〜〜がないとまずい」という恐怖訴求は、話半分に聞いておいたほうがいい、ということもあります。人は知らないことを恥じるし、そこを突かれるととたんに弱くなる傾向があります。わからない・知らない→恥ずかしい→習う。その点、プログラミングは多くの人にとってなじみがないし、そのくせ「なんとなくこれからの時代必要そう」な感じも実に絶妙。だからこそ、よくよく考えないといけません。

さらに、私が信じているルールが、「なんだって、必要に迫られたら、どうせ身につけざるを得ない。逆に、必要じゃなかったら、なにをどうやったって、身にはつかない」というものです。

突然海外に住むようになったら、ある日、日本語を話せない恋人ができたら。そうしたらもう、四の五の言わずに英語を身につけざるを得ないのです。でないと、やっていけないから。本当のスキルとはそうやって、後付けで身につくもの。履歴書に1行書くぐらいのレベルなら、ちょっと勉強して身につくかもしれませんが、本当に使えるスキルには「必要は発明の母」の”母”が欠かせないのです。

習い事の本当の意味

なにかを習うというのは、学ぶ内容・ジャンル自体に意味があるのではなく、その行為に意味があります。

意を決してそこに取り組む姿勢、ゼロからなにかを習得する喜び、好奇心を共有する仲間との時間、知らなかったことへ目を開く視野の広さ。

それが身につけば、サッカーでも書道でも、英語でもプログラミングでも、子どもでもオトナでも、なんでもいい、構わない。

ですから、先ほどの主張と矛盾するようですが、いまプログラミングが流行していることは、とてもいいことです。興味があるなら学ぶといいでしょう。知らないことをそのままにしておくとモヤモヤするなら、学べばいい。そのための機会はたくさん用意されています。学ぶことで、発見と喜び(あるいは既視感と失望)があることは間違いありません。

ですが、それを学びさえすれば道が開けるというのは甘い幻想。百歩譲ってそういう幸運なケースがあったとしても、「それを学ばなかったからキャリアが全く閉ざされる」「これからの時代、このスキルがなかったら圧倒的に不利」というのは、なるべく穏当に言って、ウソでしょう。

現在たまたま英語もプログラミングも必要のない仕事についているから言える戯れ言かもしれませんが、まさに必要がないからこそ、胸を張って言えます(あるいは、一度、ホームページを自分で作ろうと思い、独学で挑戦し、泣きべそをかいた経験があるから、言える、とも言えます。その経験を踏まえて、いまでは気心の知れた、センスのいい、腕のたつ、プロフェッショナルに依頼しています。もちろん、この「頼む」というのも、人生においてとても重要なスキルです。残念ながら学校では教わりにくいタイプのスキルですが)

子どもが身につけるべきたったひとつのスキル

必要になったら、必要になってから身につければいい。

逆に言うと、いつなんどき、どんな内容でも学んで習得できるような「学ぶクセ」と「学ぶ技術」だけを、子どもには身につけさせればいい。それが身につけば、ジャンルはなんでもいい。むしろ、小さいころは興味の幅を広げるために、いろいろ手を出すといい。

新たに登場してきたプログラミングは、そのひとつに過ぎない、ぐらいに捉えるのが健康的でしょう。あなたはどう思いますか?

(作家・心理カウンセラー 五百田 達成)

作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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