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遺伝子よもやま話「我々の人生と遺伝子の関係とは」

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
photo by Masahiko Ishida

人間の悩みや問題は「心と体」が原因

最近どうも頭の毛が薄くなってきた。子どもが学校でイジメられているらしい。恋人ができないのは太ってるせい? ストレスがたまって不眠症だ。どうして彼は私のことを振り向いてくれないの……。

生きていると、いろんな悩みや問題が起きます。そうした悩みや問題は、個々人で違いますね。

ある人は容姿を気にしたり、ある人は恋に悩んだり、ある人は仕事上の問題を抱いていたりします。他人からみたら、それほど気に病むことはないんじゃないと思われることでも、本人にとってそれは人生の一大事です。だから、完璧な幸せというのは、なかなかない。

ただ、私たちの悩みや問題の原因を探っていくと、自分の心や性格、肉体的なことや体質、つまり「心と体」からきている場合が多いと思いませんか。

薄毛、イジメ、肥満、ストレス、恋愛……。人間関係や恋愛の悩み、容姿や病気の悩み。お金や仕事の悩みはともかく、これらは突き詰めていけば、そのほとんどがその人の心や性格、肉体や健康に関係しています。

自分の悩みや問題を解決するために、私たちはどうしたらいいのか。もしも、私たちの悩みや問題の原因が私たち自身の心と体にあるとしたら、心と体についてよく知れば解決に近づくこともできるんじゃないか、なんて思います。

ところで、私はこれまでいろんな人の話を聞き、記事を書いたり本にしてきました。

その中には「偉人」と呼んでもいいくらい立派な人や有能な人、尊敬できる人もいます。仕事や研究に打ち込んでいる人もいます。

もちろん、ごく平凡な人もいましたが、彼らについて考えれば考えるほど、人間というのは謎に満ちた不思議な生き物だと思います。

こうした人間の行動や「いとなみ」にも、彼ら彼女たち自身を突き動かす原動力があります。それは、科学者なら探求心や好奇心かもしれません。スポーツ選手なら身体能力に対する挑戦でしょう。また。平凡な人にもそれぞれ生きる目的や目指す夢がある。

この地球上には、ウイルスや細菌といった極小の生物から、シロナガスクジラやジャイアントセコイア、山を丸ごとおおうような菌類といった巨大な生物まで、私たち人間を含む多種多様な生物がいます。これらの生物は、生まれ、生きのび、恋愛してセックスし、子孫を残し、やがて食べられたり老化したりして死んでいく。

人間ほど複雑に思い悩んだりする生物はあまりいないかもしれませんが、生物たちも生きるために懸命の努力をし、子孫を残すために戦ったり工夫したりしています。人間の悩みや問題もまた、生き残り、子孫を残すため、探求心を抱いたり挑戦したり夢を持った結果、出てくるものなんですね。

心や気持ちも遺伝子によってつくられる

生き残ったり子孫を残したりするのも、また悩んだり問題を解決しようとしたりするのも、やはり「心と体」に関係しています。

この「心」が、いったいどう生まれ、どういう仕組みで働いているかというのは、まだまだ謎だらけ。でも、私たちの脳や神経などの作用で、心が生まれ、働いているのは確かでしょう。死んでから心が残るかどうかも未知ですが、少なくとも体がなければ心の存在を表現できないのも確かです。

そう言う意味で、心や気持ち、精神、性格といったものも、体や体質という肉体的なものに含まれます。

じゃ、体や体質っていうのはいったい何だということになりますが、それをつくりだしているのは、我々が自分の父母から受け継いだ遺伝子であり、その結果、体や体質を動かしているのも遺伝子なんですね。つまり、心も遺伝子がつくりだしている。

突然、遺伝子なんて言われても、目に見えないし、よくわからないというのが正直なところでしょう。DNA、ゲノム、染色体となると、もうお手上げかもしれません。

ただ、遺伝子があること自体は知っているでしょう。そして、その遺伝子が、生きていくのに必要不可欠なものだということも。

自分の遺伝子は、私たちの父母から半分ずつ受け継いだものです。その父や母も、私たちの四人の祖父母から四分の一ずつ遺伝子を受け継いでいる。そして、さらに曾祖父母、さらに多くの祖先から、私たちは少しずつ遺伝子をバトンタッチされて生まれてきました。

私たちの顔や体といった容姿も、病弱だったり健康だったりといった体質はもちろん、ポジティブだったり気弱だったりといった性格までも、遺伝子によってつくられ、遺伝子の働きに作用されているんです。

ご先祖さまから受け継いできた遺伝子

そして、人間は遺伝子だけでなく、生まれ育った環境によっても大きな影響を受けます。環境は自分の父母や兄弟姉妹、血縁者から与えられたものです。

物事の考え方や価値観、食事の嗜好、道徳や倫理観など、家庭環境の影響は無視できません。まして、大切な就学前の時期、私たちはこうした環境にさらされ続けて育つわけです。

こうした環境も自分の父母や血縁者から大きな影響を受けているとしたら、それもまた「広い意味での遺伝子」なのではないでしょうか。だとすれば、フィジカルな遺伝的な要素と環境要因が合体し、一人の人間の「心と体」が作られていることになるんですね。

私たちの父母も祖父母から与えられた環境に影響され、そうした広い意味での遺伝子は、フィジカルな遺伝子と同様、私たちの父母、祖父母、曾祖父母、多くの「ご先祖さま」から受け継がれてきたものです。

もちろん、何十世代もたてば、共通する遺伝子はほとんど残っていません。環境の影響だって、時代によって変わるでしょう。

でも、その間に生きた血縁者たち、ご先祖さまたちは、広範囲で遺伝的な傾向を共有しています。もしかすると、豊臣秀吉や坂本龍馬の遺伝子が、私たちの中に紛れ込んでいるかもしれません。

ご先祖さまと書くと、なにやらスピリチュアルな感じがしますが、ご先祖さまをどんどんたどっていけば、地球に誕生した最初の生命に行き着きます。遺伝子は、こうして30数億年の歳月をかけ、脈々と私たちに受け継がれてきました。

あなたがハゲなのは遺伝子の影響が大きいでしょうし、学校でのイジメには遺伝子が作用しているかもしれません。太りやすい体質も遺伝的なものです。ストレスの耐性もそう。人間の体質や性格は、遺伝子と生まれ育った環境の両面でほぼ決まります。

広い意味を含めた遺伝子について知ることは、自分自身の心と体を知ることにほかなりません。

それを知れば、遺伝子と環境を与えてくれた「ご先祖さま」を無視できないことに気づくでしょう。遺伝子について知ることは、自分自身について、そしてご先祖さまに考えをめぐらす、いいきっかけにもなるのではないでしょうか。

恐縮ですが、これから「ヤフー個人」のスペースをお借りし、私たちの悩みや問題、そして人生に深く関わる遺伝子の話をしていきたいと思います。もし少しでも興味を抱いていただければ、またもしそうなら本当に気軽に読んでいただければ幸いです。

※タイトルを変更しました 2015/04/18

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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