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進路相談24・女子中学生が官僚志望と話したら親に怒られた!

石渡嶺司大学ジャーナリスト

親は官僚でなく薬剤師といい張る!

質問:私は中学校3年の女子です。

今日は進路について質問させて下さい。

私は官僚になりたいと思っています。

私は県内でも東大合格実績一位、二位を争う、いわゆる進学校に通っています。

その影響で、担任の先生だけでなく、学年主任の先生、教頭先生までも、

「東大に入れそうだし、目指してみたら?」

と言ってきます。

私の両親にその話をすると、

「学校なんかの言いなりにならなくていい。あなたは薬学部に行きなさい。」

と言われました。

「嫌だ、私は官僚になりたい。東大に入って官僚になる」

と反論すると、

「いずれ結婚して出産すれば、仕事を辞めることになる。官僚だと一度退職するともう官僚には戻れない。その点、薬学部に行き、免許を取るといつでも仕事を再開できる」

と半ば怒り口調で言われました。

官僚になったら本当に仕事を再開できないのでしょうか?

また、薬学部に進み免許を取るといつでも仕事を再開できるのでしょうか?

文系・理系のクラス分けが来年、4年生(高校1年)になってからあるので、文系・理系の選択も絡んでいます。アドバイスをお願いします。

以下、鬱陶しい回答です

回答:

中3で官僚志望とのこと、すごいですね。

頑張っていただきたいと思います。

最後のまとめ的なコメントですが、これで終わり、と言うわけではなく、ものすごく長くなるのでお付き合いを。

ご質問は、結婚・出産・育児で休職(ないし退職)した場合、官僚・薬剤師、それぞれ復職できるかどうか、この2点ですね。

その前に、あなたとあなたのご両親の間には、女性のキャリア像について食い違いがあります。

ここをはっきりさせないと、水掛け論になりますので、合わせてご説明させてください。

あなたのご両親、あなたが中3であることから、おそらくは私(1975年生まれ)と同じ世代か、それより上10年くらい(1960年代生まれ)かと思います。

この世代で、しかも地方だと、知っている女性のキャリアが相当限定されてしまいます。

地方の親世代、女性キャリアの見方は限定的?

まず、このあたりの世代で女性のキャリアに関するポイントを並べてみます。

・1985年、男女雇用機会均等法制定(総合職の誕生)

・1991年、バブル崩壊→以降、1995年ごろまで女性総合職の採用者数、激減

・就職氷河期で短大卒→一般職の採用者数が激減

・一般職に対する差別雇用への訴訟が1993年から相次ぐ→民間企業で一般職への採用を減らすようになる

・就職氷河期(1992年以降)は女子学生の就職難から、実学系学部(薬学部、医療系学部など)が人気となる

・官僚(現在は国家公務員総合職、当時は国家公務員1種)は東大卒男子が中心

人事院統計(昭和63年/1988年)によると、1種18324人中、女性は657人

男女雇用機会均等法の制定とそれに伴う総合職の誕生は、中3のあなたからすれば、教科書に載っている程度にすぎません。

が、これは女性のキャリアの歴史を考えるうえでは大きなターニングポイントとなりました。

もちろん、評価できる部分もあるのですが、罰則規定がない、社員育成などは企業任せなど色々と問題もありました。

その結果、1992年以降の就職氷河期で女性の総合職は一気に採用停止とする企業が続出します。

こうしたポイントを見聞きしている世代だと、女性のキャリア像は、

・一般企業も公務員も結婚・出産でキャリアが途切れるのが基本

・一般企業総合職ないし官僚に女性が就職した場合、結婚しないままキャリアを積んでいくか、結婚・出産で退職、そのまま専業主婦となる

・看護師や薬剤師など医療職だと結婚・出産・育児でキャリアを中断しても復職しやすい

・首都圏居住だと、マスコミなども医療職と同様、復職しやすいことを知っている

・地方公務員・教員の業界に詳しい人だと首都圏か地方在住かにかかわらず、医療職と同様復職しやすいことを知っている

というあたり。

あなたのご両親の場合、上記3点は知っていて下記2点は知らない可能性があります。

薬剤師はキャリアを復活させやすい

さて、ここでご質問の2点目。薬剤師は復職しやすいかどうか。

結論から言えば、復職しやすいです。

たぶん、あなたの近所のドラッグストアなどで働いている薬剤師さんは女性が多いはずです。それに、新聞の求人欄などを見ても、よくパートで募集しているはずです。

これは厚生労働省の平成24年(2012年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況ではっきり出ています。

薬剤師の総数は20万5716人、うち男6万8944人、女13万6772人と女性が6割近くを占めています。

注目は「50~59歳」の男女比。男性1万2571人に対して女性3万202人。

これは、あなたのご両親が言うところの「仕事の再開」、つまり復職しやすいことを示しています。

現在、薬学部は6年制ですが、かつては4年制でした。4年で薬剤師の資格が得られるので女性でも就職しやすかったのです。

しかも薬学部卒のうち、男子学生は製薬メーカーのMR(営業職)に就職することもあり、そうなると調剤薬局・ドラッグストアはどうしても女性中心にならざるを得ませんでした。

人数が不足しており、だからこそ、結婚・出産・育児でキャリアが中断した女性薬剤師も復職しやすかったのです。

付言すれば、他の医療職、特に看護師については女性がもともと多かったこと、業界団体が政治にも関わったこともあり、権利向上にかなり尽力。そのため、看護師も薬剤師と同様、女性にとってはキャリアを復活させやすい職種になっています。

つまり、ご質問の2点目についてはあなたのご両親が正しいと言えます。

また、1990年代以前の世代、かつ、地方で女性のキャリアを限定的にしか見聞きしていないご両親の認識からすれば、官僚はもちろんのこと、民間企業も女性はキャリアを復活させにくい職種です。

就職したらそのまま結婚せずにキャリアを続けるか、あるいは結婚したらリタイアするか、どちらか、というのが正しい世界観でした。

官僚も民間企業も出産したらキャリアは終わり?

では、1点目のご質問、「官僚はキャリアを復活させられるか」について。

これもまずは統計から。

1988年(昭和63年)に、1種採用者数に占める女性比率は6.5%、それが2013年(平成25年)には、25.0%まで上昇しています。

ここまで上昇したのは、

・優秀な女子学生が官僚を就職先として考えるようになった

・民間に比べてまだ女性差別・格差が少なさそう(に見える)

・女性の官僚だけでなく政治家なども注目を集めるようになった(政治家になるには官僚が近道)

・単に男子学生(特に東大男子)が官僚以外を志望するようになった

などが考えられます。

待遇ですが、残業等で結婚・出産・育児によるキャリアの中断・復活がしやすいか、と言えばまだ発展途上の段階です。

ただ、安倍内閣が女性登用を政策として看板にしており(ウーマノミクスなんて言い方もあります)、そのためには、女性の官僚が働きやすい環境を整備する必要があります。

女性の官僚側からもそうした働きかけがあり、今後の改善が見込まれます。

あなたは現在、中3とのこと。就職まで9年後、その間には待遇や働き方など、大きく変わるでしょう。

というわけで、この点では、あなたの直観・志望の方が正しい、ということになります。

さて、あなたも正しい、あなたのご両親も正しい、となると、どちらの選択を取るのか、という話になりますが。

どっちも正しい、じゃあどうする?

私のアドバイスは、あなたの中学校の先生や教頭先生などと同じく、官僚を志望しているならそりゃあ東大じゃないの、というものです。

となると、問題はあなたのご両親です。

前提条件として整理しますと、

・娘の幸せを考えている

・親はときとして(あるいは相当部分)、自分の意見を子に押し付けやすい

・官僚を含むキャリア観は1990年代以前のもので正直古い

この3点があります。

あなたは、今、絶賛親子喧嘩中なので客観視できないと思いますが、1点目はどの親でも同じです。

仮にそうでない親がいるとすれば(もちろん、たまにいますが)、あなたの場合だと、中学校の教員・教頭などに

「うちの娘に余計なこと吹き込むな」

と怒鳴り込み、ついでに他校への転校を強要するとか、高校以降の学費を出さずに

「勝手にしろ」

と兵糧攻めをするとか、いろいろあるはず。

ま、そこまで踏み切る親はなかなかいませんし、あなたのご両親も違うはず。

2点目、これはもうそういう運命と割り切ってください。というか、大体の家庭では良くある話です。

「うちの親はなんて分からず屋なんだろう」

と嘆いていた子どもが大きくなり親になると、今度は子にそう思われる、これ、高確率で起こり得ます。

これはあなたも私も例外ではありません。

私は今のところ、独身ですが、将来結婚して子供ができた場合、たぶん、子から分からず屋と思われるだろうことは今から覚悟しています。

もちろん、そうならない可能性もありますが、私はキャリアの専門家として、これまで多くの事例を見てきたので確率論的にはそうなるだろうとあきらめています。

3点目、これはあなたのご両親に問題あり、と言えます。

ただし、首都圏・関西圏など女性のキャリア像がどんどん進化している地域ならまだしも、女性のキャリア像が限定される地方だと、あながちご両親の問題だけ、というわけでもありません。

感情論の応酬、それだけで大丈夫?

さて、あなたが官僚志望(そのための東大志望)を突き進めるためにはどうすればいいか、ですが。

これも答えは簡単です。女性のキャリア像が大きく変化しており、官僚も結婚・出産・育児でキャリアが中断しても復職しやすい環境に変わりつつあることを調べて、ご両親を説得することです。

あなたにとって厳しいことをお伝えすると、今のご両親とのやりとりは文面から拝見するに、感情論の応酬です。

官僚の仕事は、感情論で押し切るのではなく、理をもって相手を説得することにあります。

あなたがあなたのご両親を説得できないのであれば、あなたは官僚としての適性があると言えるでしょうか。

もちろん、理をもって説明しても聞き入れられない、ということもあります。

しかし、あなたなりに女性のキャリアの変化を調べてみてください。

そのデータから

「女性のキャリアはこのように変化している。そして官僚になっても結婚を放棄するというわけではない。官僚になって~ということをやってみたい」

などと理と情を合わせて話して説得してみてはどうでしょうか。

データと熱意を合わせて話せば大体の親は折れるはずですし、それでもダメならそれはそのときです。

一応、ネタ本として、ちくまプリマー新書・海老原嗣生『女子のキャリア』、それと漫画ですが、育児をしながら働く女性社員が主人公のエッセイ漫画『働きママン』(おぐらなおみ、メディアファクトリー)をお薦めします。

東大志望のまま薬学部、医学部という手も

それと、あなたが理数系科目もある程度できて、さらに成績を伸ばす自信があれば、文系クラスではなく、理系クラスを選択。

そこから、東大理系を目指す、という方法もあります。

東大の場合、2年間は教養課程。その後、文系・理系とも成績などを元に所属学部が決まります。

その際、受験時に選択した科類に拘束されず、他の科類が想定している学部に進学することも可能です。

たとえば、薬学部は理科2類ですが、ここから文科1類が想定している法学部に進学、という具合です。

これを傍系進学と言います。

さすがに枠は少なく、好成績であることが求められますが。

理系を選択して、安心させておいて、3年の進学振り分け時にこっそりと文系を選択、という方法もあります。

それから、薬学部に進学、そこから、厚生労働省の薬系技術職員を目指す、というのも手。これも官僚なわけで。

もう1点、東大理科3類→医学部を選択。そこから、厚生労働省の医系技官を目指す、という手もあります。

あなたが正しいか、あなたのご両親が正しいか、どちらの進路選択が良かったか、それはわかりません。

しかし、二者択一というわけでなく、第三、第四の選択だってある、それが進路選択です。

さらに男子中高生と異なり、女子中高生の場合、

・女性のキャリアモデルが大きく変化し、まだこれからも大きく変化していく見込み

・親・親戚を含め、女性のキャリアのロールモデルが男性ほどはっきりしていない

・親世代は地方を中心として過去のキャリアモデルを信じている

などの違いがあります。

これはハンデと言えばハンデで、誰も飛び方をよくわかっていないのに、崖から飛び降りる、そんな決断を迫られることもあれば、男子中高生がのんびり決めても特に問題ない中、女子中高生は男子中高生以上にあれこれ考えたり、親に説明しなければならないのです。

しかし、私はハンデとは思いません。

大きく変化していく時代では、男性女性問わず、状況に応じる力が問われます。

中高生のうちから、そうした機会に接するのは不本意かもしれませんが、いい勉強になるのではないでしょうか。

最後に、ヒラリー・クリントン女史の2008年敗北宣言をご紹介しましょう。

同年、アメリカ大統領選挙の民主党予備選で1800万票を獲得したものの、バラク・オバマ上院議員に激戦の末、敗北した女史はスピーチをします。

アメリカ大統領選候補者の敗北宣言は、敗者の哀しみが現れているものですが、女史のスピーチは違いました。

威厳にあふれ、かつ、女性のキャリアの未来を示したすぐれたスピーチです。

「私たちは今回、最も硬く、最も高い場所にあるガラスの天井を打ち破ることはできませんでしたが、みなさんのおかげで、その天井にはおよそ千八百万もの亀裂ができました。天井から射し込む光はかつてないほど明るく、私たちみんなの心に、次はきっと、この道のりはもう少し歩きやすいものになるだろうという希望と確信を与えてくれます」

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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