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学歴フィルターを公表しろ、と言われても大学ができていないし~学歴フィルターシリーズその2

石渡嶺司大学ジャーナリスト

学歴フィルターネタ、盛り上がっていますね

学歴フィルターネタがヤフトピに上がったようで盛り上がっています。

藤代さんの記事「学歴フィルターに怒る前に就活生がやるべきこと」は、さあ、これから書こうと思っていたネタを先にとられたのでウラミ骨髄……、いや、冗談です。

良記事なので、大学生の方は参考にどうぞ。

学歴フィルター公表論があるようです

さて、6月5日現在、学歴フィルターネタで、Yahoo!個人の記事となっているのは、山口浩・駒沢大教授の「『学歴フィルター』を公表したらよい」です。

これは、ちょっと賛同できません。

というわけで、暴論めくが、強引に主張しておく。「学歴フィルター」を設けるなら、企業はその旨と、実際にどんな「フィルター」を設けているかを公表すべきだ(ぱっと見たところ、日本郵政グループの採用ページには「学歴フィルター」の存在を伺わせる説明はない)。「当社の社員を調査した結果、学歴と業務上のパフォーマンスには関係があるので、有力大学出身者を優先します」でも、「社長の出身大学の学生は優遇」でも、なんとでも決めて公表すればよい。各大学ごとの応募件数と採用人数の実績も公表するとよりわかりやすい。就活サイトあたりが代行して公表してくれるとさらに便利だ。

もし隠しておきたいと思うなら、そんなことはやるべきではない。

出典:「学歴フィルター」を公表したらよい

山口教授には申し訳ないのですが、これはかなりの暴論です。

もっと言えば企業の空論、もとい、机上の空論にすぎません。

厚生労働省のガイドラインに学歴は該当なし

出身地、国籍、性別、思想・信教などで採用の是非を決めることは差別行為です。

これは、男女雇用機会均等法などの法律で定められていますし、厚生労働省のガイドライン「公正な採用選考について」にも明記されています。

<a.本人に責任のない事項の把握>

・本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)

・家族に関すること(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)

・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)

・生活環境・家庭環境などに関すること

<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>

・宗教に関すること

・支持政党に関すること

・人生観、生活信条に関すること

・尊敬する人物に関すること

・思想に関すること

・労働組合・学生運動など社会運動に関すること

・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

<c.採用選考の方法>

・身元調査などの実施 (注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)

・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

しかし、大学名・学歴については、いずれも該当しません。

「企業には『経済活動の自由(憲法22条および29条)』が認められています。最高裁判決では、これを根拠に、企業の『採用の自由』を広く認めています(三菱樹脂事件・昭和48年12月12日判決)。そのため、採用時の学歴による選別が、違法になるとは考えられないのです」

※回答は山田長正弁護士

出典:弁護士ドットコム 2014年4月29日記事 就活生の進路をはばむ「学歴フィルター」 企業の門前払いは「違法」でないのか?

就活・社会人生活と大学受験は違うわけで

大学名・学歴による差別は合法です。

そもそも、山口教授に限らず、大学生の中にも、就活での選考は公明正大であるべき、と頑なに考えてしまう学生がいます。

もちろん、公明正大であるべきですが、それでも選考結果は、一見すると公明正大に見えない場合が多々あります。

それ、学歴フィルターでしょ、というものもあれば、顔採用とか、コネとか、体育会系などで優遇されたでしょ、というケースも。

そして、そういうケースは実際、ゼロではありません。

こうした個別事例をもって、

「就活はタテマエが横行していて、ウソばかり」

「正直な自分は損をした」

とつぶやく学生がそこそこいます。

つぶやくのは勝手ですが、だから何なんだ、と。

損をした、と騒いで自分が得をするならいくらでも騒いだ方が得をします。

しかし、実際はそうはなりません。

学歴フィルターで損をした、と感じたのであれば、損をしたと騒ぐ前に、自分が得をするよう行動すべきです。

山口教授のお説ごもっともですが、経済活動の自由を認めた憲法を改正するなり、学歴差別禁止法を制定しようとしたところで、どれだけ賛同者がいて、果たしてどれだけ時間がかかるやら。

就活とは、大学受験と違い、公明正大だけではありません。社会に出た後と同じく不条理、不公平なことはいくらでもあります。

大学だって、似たようなものでしょ?

そもそも、民間企業に限らず、大学の教員採用・昇進だって、似たようなものです。

筒井康隆の名著『文学部唯野教授』までさかのぼらなくても、『大学教員 採用・人事のカラクリ』(櫻田大造、中公新書ラクレ)などにもある通り、コネ・情実などで決まることもあります。

あるいは、どう考えても学歴でしょ、という面も。

試しに、山口教授が所属する駒沢大グローバル・メディア・スタディーズ学部の教員(教授、准教授)の経歴を確認しました。

東京大3、筑波大3、京都大1、ダラム大1、ICU1、立教大1、慶応義塾大1、大阪大1、上智大1、オックスフォード大1、ロンドン大1、名古屋大1、不明1

大学学部偏差値で一番下の大学でも立教大。いずれも、難関大がずらりと並んでいます。

企業に対して、学歴フィルターの公表を迫るのであれば、まず、駒沢大グローバル・メディア・スタディーズ学部が教員採用についての学歴フィルターを公表するところから始めたらいかがでしょうか。

大学業界では、かつてない取り組み、日本最長学部名の学部に属する山口教授のご英断をお待ちしております。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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