「Fの悲劇」記事への反論~Fランク大学ってそんなにダメですか?

Yahoo!ニュース 個人の2015年12月30日投稿記事「大学進学率を下げよう!~『Fの悲劇』をなくすために」を読んだ。

大学取材を長くやってきた知見から、同記事への反論を書いていく。

元記事の主なポイント

・日本は、高卒後の大学進学率が5割、その他浪人や専門学校等も含むと実に7割以上の特殊な社会

・OD問題が出るほど、文系エリートの姿は変わった

・「Fランク高校」の生徒たちは就職せずに「Fランク大学」に進学、多額の大学ローンが残り、大卒後就職できたとしても(大学院どころか)ブラック企業に入る(※別記事からの引用を含む)

・問題は、「出口のない学び」を大量に創設してしまったシステム設計側(文部行政から学校経営者まで)にある

・答えは大学進学率をあえて下げ、実践的職業訓練コースを設けて「高卒サービス業のブロ」になる若者を大量に育成すること

・「F」ランク大学は率先してサービス業訓練学校に自らを改革していけばいけばいい。

反論の前に

部分的に頷けるところもあるし、一方でちょっと飛躍しているのでは、と疑問に思う点もある。

記事の論調としては、

「Fランク高校の生徒がFランク大学に進学する。すると、ブラック企業にしか就職できず多額の大学ローンが残る。そういうシステムに問題があるので異常な大学進学率を下げるべき。高校内には実践的職業訓練の教育プログラムを作るべき」

と読めた。

これは私の誤解かもしれないので、著者・田中氏が「そういう曲解をすること自体、おかしい」と言われるなら平身低頭して謝罪・訂正する所存である。

が、私としてはそういう風に読めてしまった。

なんか、色々な話がごちゃごちゃ混ざっていて、Fランク大学(とそれを勧める高校教員)が一方的に悪い、とも読める。

そうかなあ、というところで以下、反論をしていきたい。

反論1:日本の大学進学率は高くない

文部科学省資料によると、2010年時点でOECD加盟国の大学進学率平均は62%。

日本は51%である。

2015年学校基本調査によると、大学進学率(短大を含む)が54.6%、これに専門学校進学率16.7%を足して71.3%。

まあ、これでようやくOECD平均より上ということになる。

が、オーストラリア96%、アイスランド93%、アメリカ74%(アメリカのみ2年制を含む)などどこも高い。

文部科学省資料にはこうある。

「先進国や、近年経済成長を遂げている国は、高等教育政策を重視」

有能な人材を増やすには高等教育政策を重視、つまり、大学進学率を引き上げていくしかない。

反論2:高卒と大卒の生涯賃金の格差は大きい

『ユースフル労働統計2014』には、こうある。

「男性は中学卒1 億7 千万円、高校卒1 億9 千万円、高専・短大卒2 億円、大学・大学院卒2 億5 千万円、女性は中学卒1 億1 千万円、高校卒1 億3 千万円、高専・短大卒1 億6 千万円、大学・大学院卒2 億円となる。学歴が高くなるにつれ生涯賃金も増える」

記事中の生涯賃金額は厚生労働省の賃金構造基本統計調査をもとに集計している。

企業規模などにもよるが、やはり学歴が高いほど、生涯賃金も増加し、格差が生じる。

高校生本人や親が高い賃金を期待して(あるいは別の理由などを含めて)大学進学を希望するのは自然な話、と考える。

反論3:高卒就職のパイ自体が減っている

反論2に対して、

「いや、大企業の高卒求人などを考えれば、Fランク大学からブラック企業に就職するよりも、はるかに生涯賃金は高い」

との再反論は可能である。

先ほどの『ユースフル労働統計2014』でも従業員数1000人以上の大企業の場合、高卒・男性でも生涯賃金は2億円を超える。これは従業員数99人以下の中小企業における大学・大学院卒・男性よりも高い。

実際、地方の高校などを取材していると、就職希望者が存外多い。

が、こうした高校で必ず出てくるのは、「大学進学者>高卒就職者」ではない。

「高卒就職者>大学進学者」(あるいは「高卒就職者>大学進学者>ニート・フリーターその他」)である。

そう、優秀な高校生しか就職できないのだ。

文部科学省学校基本調査によると、高校卒業者の就職率ピークは1961年の64.0%。以降、10年単位で10ポイント程度、下落していき、2003年に16.6%。2015年は17.7%だった。

求人件数も2015年は前年よりも増えて31万6055件あった。

が、1992年(高卒就職率は33.1%)には167万6001件もあったことを考えると、どう考えても少ない

一部の優秀な高校生しか就職できない現状に、さらに大学進学率を下げた場合、どうなるか。

多くの高校生が就職できない事態となりかねないのではないだろうか。

反論4:高校生が高校段階で進路を確定させられるか?

2004年・2005年、2008年~2015年と高校生向けの進路ガイド(付言すれば広告など、なし)を刊行してきた。

その経験から皮膚感覚で話すと、高校生のうち、3~5割は、高校在学中に、進路をはっきりさせられない。

しかも、「夢を持ちましょう、夢を実現できる学校に進学しましょう」とするキャリア教育(悪く言えば「キャリアポルノ」)の悪影響で、「無理にでも進路を決めないと」

と苦しむ高校生は存外、多い。

私のところに進路相談に来る(あるいはメールを送る)高校生もそうした悩みが多い。

日本が職人工芸の世界であれば、高卒、何だったら中卒時点で将来の進路を確定させる必要があるだろう。

が、日本の現状はそうではない。

もちろん、早めに進路を確定させた方がいい職業・業界はある。が、文系学部卒の会社員・公務員の場合、高卒時点までに進路を無理に確定させる必要があるとは思えない。

とりあえず大学に進学、そこで勉強していって(あるいは大学生活を送って)、就職活動をしていく、というルートだってあるはずだ。

著者が言う「大学進学率を下げる」ことにより、高校生は高卒までに進路選択を迫られることになる。

それは多くの高校生にとって幸せなことなのか、はなはだ疑問である。

反論5:Fランク大学はそんなにダメではない

Fランク大学とは、偏差値が付かない状態の大学のことである。

ただ、ネット上では「低偏差値の大学」を含むことも多々ある。

著者がどちらの定義を考えているかは不明だが、ここでは「低偏差値の大学」という前提で話を進める。

偏差値とは、予備校などが出す数値であり、受験の際の目安となるものだ。

あくまでも、大学受験上の情報であり、大学の伝統、就職実績などをすべて反映した数値とはいいがたい。

たとえば、理工系は、受験生の人気が低い(ついでに言えば、優秀な女子高校生がそんなに受けない)こともあって、文系学部よりもどうしても偏差値が低く出てしまう。

河合塾の偏差値で私立大・工学系の最低ランクは35.0。

東海大、東京工芸大、日本大工学部(郡山)、九州産業大などが並ぶ。

こうした大学から「ブラック企業にしか就職できない」と出そうものなら、大学関係者からの抗議文で埋め尽くされるに違いない。

では、文系学部はどうか。

こちらは、やや著者側に分がある、と言わざるを得ない。

ただ、文系学部もFランク大学/低偏差値大学だからと言って、絶望的か、と言えばそんなことはない。

全ての大学、全ての大学教職員とまでは言わないが、学生のことを考えて頑張っている大学や教職員はきちんと存在する。

学生の場所作りと補習教育にこだわった金沢工業大、スパルタ就職指導で急上昇した金沢星稜大、実用英検2級で学費無料とした共愛学園前橋国際大(現在は1年間のみ)、20年以上定員割れが続くのに学生の語学力を徹底してあげる宮崎国際大…。

例を挙げればいくらでも出せる。それをひとまとめにして、挙句に大学進学率を下げた方がいい、とするのは、かなり無理やりではなかろうか。

反論6:ブラック企業就職は大学偏差値とは別問題

大学偏差値が下がれば下がるほど、大企業への就職者は減っていく。

これは厳然たる事実である。

大学偏差値が下がれば下がるほど、ブラック企業と呼ばれるところへの就職者が増える。

これも厳然たる事実だろう。

が、これは学生側の勉強・就活行動(特に企業探し)や大学側の就職指導、親側の企業ブランド重視などが混ざった結果である。

それを「Fランク大学に行くと、ブラック企業にしか就職できない」と読める記事を出すのは、いささか暴論だ。

就活現場をちょっと取材すれば、中小企業同友会、ジョブカフェ、労働協会、新卒応援ハローワークなどの公的機関がいくらでも優良な中小企業を紹介するイベントを開催している。

あさがくナビ、ジョブラスなど就職ナビサイトでも優良な中小企業を紹介しようとしている。

こうしたイベント・サービスをきちんと使えば、Fランク大学だろうとどこだろうと、優良企業に出会える機会はある。

それから、学生の努力次第では、Fランク大学から大企業に逆転内定を得た、という事例だってある。

一方、難関大出身者であっても、気が付いたらブラック企業に入社していた、という事例だっていくらでもある。

反論7:「Fの悲劇」より「専の神隠し」こそ問題

著者が言う、「実践的職業訓練を提供できる教育システム」「サービス業訓練学校」を突き詰めて考えると、現状では、専門学校がもっとも近い。

私は、この専門学校進学が相当な問題をはらんでいる、と考えている。

専門学校の中にも、優良なところはある。

が、問題は高校でのキャリア指導と連動した、いわゆる夢追い型の専門学校だ。

声優、アニメ、漫画、動物、ファッション、美容、スポーツなど。

こうした専門学校は高校生の夢を煽るだけ煽る。

しかも、就職できるし、大学よりも学費が安い、と宣伝するあたりもうまい。

これに高校生やその親がコロッと騙されることが多々ある。

が、こうした専門学校は、大学よりも中退者が多い、就職支援が大したことない、就職できても実はコンビニのバイト並みだった、教育内容とは全く無関係のブラック企業だった、ということが実によくある。

しかも、大学はまだ情報公開が義務化されているが、専門学校はそんなことはない。全くのブラックボックスで、ごく少数の優良な専門学校を除くと、内実が全く分からない。

言うなれば「専の神隠し」。

夢から覚めたときは、高い学費を払うだけ払ってムダだった、という現実である。

Fランク大学を非難するなら、こうした夢追い型専門学校こそ非難されるべき存在、と私は強く考える。

反論8:で、システムが変わる間に高校生はどうすればいい?

反論1~7、全て、私の方に非があり、著者の言い分が正しいとしよう。

大学については、2015年、すでに文部科学省の有識者会議が

「質の高い専門職業人を養成するため、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関(専門職業大学など)を創設」

することを提言している。

これは著者の主張に通じるものがある。

今後、実現していく可能性もある。

が、そこで私が気になるのは、こうしたシステム変更だけではない。

システム変更が進むとして、変更前、つまり、今そこにいる高校生はどうすればいいのだろうか。

特に、学力が足りずFランク大学(低偏差値の大学)にしか進学できない高校生は。

専門職業大学など、文部科学省がやる、と言っても、専門学校が昇格する程度で、既存の大学がわざわざ「降格」を選ぶとは思えない。まして、大学進学率を引き下げるためのシステム改編となると、どれだけ時間がかかるのだろうか。

そして、その間、高校生は置いてけぼりにされる、と。

著者と同様、高校生に関わる私としては、それはなんか違うと思う次第だ。

では、Fランク大学(低偏差値の大学)にしか進学できない高校生はどうすればいいか。

実に簡単なことで、1年間留年をする、実質・5年制を選択する、というものだ。

さらにFランク大学(Fランク以外の大学も)は、留年者を支援する制度を整備すればよい。

この「大学5年制」化、大学関係者を含め、実に評判が悪い。

私としてはそれが不思議なのだが、その辺も含め、次回に譲るとしたい。

また、著者・田中氏を含め、Fランク大学の是非についてご意見・ご批判等をいただければ幸いである。