ユニクロ: 潜入調査で明らかになった中国・下請け工場の過酷な労働環境

室内が超高温のため、上半身裸の作業を余儀なくされるユニクロ・中国下請工場の労働者

■ ユニクロ下請け工場に対する調査の実施

香港を拠点とするNGO・Students & Scholars Against Corporate Misbehaviour(以下、SACOMという)は、東京に本拠を置く国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)、中国の労働問題に取り組むLabour Action China(中国労働透視)との共同調査プロジェクトの一環として、中国における工場従業員の労働環境について2014年7月から11月に渡り、潜入調査を含む、事実調査を行った。

調査対象となったのは、日本のファッションブランド、ユニクロ、その主要な製造請負企業であるPacific Textiles Holding Ltd(以下、Pacificという)とDongguang Luenthai Garment Co. Ltd(以下、Luenthaiという)の2社である。。

Pacific とLuenthaiはどちらもユニクロにニット生地とアパレル製品を供給している下請企業であり、両工場はそれぞれ南沙区と東莞市に位置している。

潜入調査を含む主要な調査はSACOMが担い、ヒューマンライツ・ナウもフォローアップ調査を実施、

今年の1月11日に、SACOMが調査報告書をリリースした。

報告書の和訳は、こちら

報告書原文(英語)は、こちら

から、みることができる。

調査報告書は写真入りでわかりやすいので是非一読していただきたい。

■ ユニクロ~ ファストファッションの製造現場で何が起きたのか

ユニクロは、世界に1000店舗以上展開しており、高品質の商品を安価に販売していることでよく知られ、世界各国に事業を展開している。通常、品質を低下させずに安く生活必需品を製造するためには、人件費を安く抑えなければならないとされていることから、労働者の権利が確保されているかということが私たちの懸念であった。

ところで、ユニクロに関しては、既に、ジャーナリストの横田増生氏が、国内店舗や中国の生産委託工場における過酷な労働環境を告発する記事「ユニクロ帝国の光と影」(2011年3月刊)を発表。

これに対し、(株)ファーストリテイリングは、発行元の文藝春秋に2億2000万の損害賠償を求めて名誉毀損訴訟を提起したが、最高裁は2014年12月9日にユニクロ側の上告を退けている。

ただし、柳井社長は過去はともあれ、現在のユニクロは、ブラック企業というのは全くあたらない旨、昨年12月下旬の就職説明会でも述べていたようだ。

しかし残念なことであるが、今回のSACOMによる上記2工場の調査の結果、中国の生産拠点に関して、労働法規への違反が確認され、労働者の権利が深刻に侵害され、安全対策の十分でない劣悪な環境下で労働者が過酷な労働を強いられている状況が確認された。

■ 調査の結果明らかになった過酷な労働環境

調査報告書によれば、調査の結果、明らかとなったのは、極めて過酷な労働者の労働環境であった。

特に、早急な対処が望まれる最も重要な課題は以下のとおりである。

1.長時間労働と低い基本給

報告書によれば、Pacific および Luenthai は基本給をそれぞれ月額1550人民元及び1310人民元としているが、これは広東市および東莞市における最低賃金であるという。

一方で、広東市や東莞市における2013年の労働者の平均的賃金レベルはそれぞれ月額5808人民元、2505人民元であった。

そのため、時間外労働が月給の中で重要な割合を占めている。

次に、問題なのは、時間外労働時間数である。

Pacificで月平均134時間、Luenthaiで月平均112時間の時間外労働と推計され、異常に長い。

Pacificにおいては、労働者の一部は「時間外労働の任意申請書」に署名するよう要求されており(自発的なものだという強要)、申請書には時間外労働時間は119.5時間と記載されている。これは、明らかな法律違反だ。

また、報告書によれば同工場では、時間外労働に対する残業代は法律で定められた、通常賃金の2倍の割増ではなく1.5倍の割増賃金しか支払われていないという。

2.リスクが高く安全でない労働環境

報告書によれば、労働環境は大変過酷なものである。

工場内の異常な高温、あふれる排水、化学物質の使用や臭気、換気設備や事故防止等の対策の欠如、労働者へのプレッシャーなどすべてが、労働者の健康と安全に深刻なリスクをもたらしている。

Pacificでは、労働者の作業台からの転落事故が頻発することを調査員は目撃した。

さらに、同工場では排水が作業現場全体にあふれているという。

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このように、床が滑りやすいことにより、転倒し、身体不随になるような労働災害を引き起こす可能性があるし、機械は漏電のリスクが高い。2014年7月には機械からの漏電で労働者が死亡しているとの報告もあったという。

そして、深刻なのは、工場内の異常な高温であろう。報告書に以下のくだりがある。 

調査員は、仕事中多くの男性労働者が上半身作業服を着用していないことを確認している。女性労働者の制服も汗でぬれており、夏季の室内気温は約38℃にまで達しているが、エアコンはない。

出典:調査報告書

聞き取り調査に答えた労働者は「あまりの暑さに夏には失神するものもいる」、状況は「まるで地獄だ」と話した。こうした状況に対して、高温手当てというものが支払われる場合がある。しかし、1日7ドル、月に100~150ドルがこれにあたるが「実際無意味に等しい」と労働者は話す。

出典:調査報告書

さらに、染料部門はさらにひどいようだ。

作業員は染料タンクから非常に近いところで作業している。染料タンクは運転時に非常に高温になり、100-135℃にまで達することもある。作業員は染料タンクのそばに立って、タンクから重い生地を取り出さなければならず(写真6参照)、生地の重量は、600キロにまで及ぶ。室温は38-42℃にまで達することから、作業現場では、作業員が上半身に作業着を着用せず作業しているのがよく見受けられる。さらには、作業員が高温の染料タンクのそばで作業しているにも関わらず、染料タンクを囲む囲いやゲートはないため、労働災害による怪我のリスクが増加している。

出典:調査報告書

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さらに、この「高温」と切り離せない関係のものとして、化学物質の健康影響リスクで挙げられよう。

染物の部署では異臭を伴う有害な化学物質(PTEG、PT200など)が使用され、労働者は強い臭気のなかで作業を余儀なくされているが、換気の設備はなく、異常な高温のため労働者は防護措置を講ずることができないというのだ。

報告書には以下の記載がある。

生地を染めるために、様々な種類の化学物質、溶剤、染料、顔料などが使われており、調査員は作業現場が非常に強い刺激臭でみたされていることを確認した。しかし、換気設備は全く機能していない。 (報告書添付の)写真14から、A569 PTEGやA203 PT200というラベルが使用されたものには刺激が強く有毒な化学物質が含まれていることが確認できる。PTEGは繊維を脱脂するための薬品である。写真14には、目や肌に対する刺激が強いとの指摘がある。もし労働者が吸引などした場合には毒を体内に取り込む結果にもなりえる。PT200は必要な染料の量をコントロールする薬品であり、繊維に均等に吸収される。写真14はこの薬品についても目や肌には強い刺激性があることが示されている。工場側は労働者にマスク、グローブ、専用スーツなどの防護キットを必要に応じて提供しているものの、実際にはどのような物質を扱うかによってそれらを着用するかどうかが決まる。しかし、防護キットの使用の有無に関する最終判断は労働者本人となっており、染色作業場の室温は40度という高温に達するため、実際労働者は着用を選ばない。結果的に、こうした防護キットは全く使われていないようである。

出典:調査報告書

化学物質への曝露による労働者への健康影響が深刻に懸念される。

3.厳しい管理方法と処罰システム

報告書によれば、Pacificでは、労働者を処罰するため、58種類の規則が制定されており、そのうち41の規則は罰金制度を含んでいる。罰金制度は労働者と商品の質をコントロールする方法として頻繁に使われる。実際、各々の作業場には、労働規程には定められてない罰金制度と規則があり、作業場のホワイトボードに書いてあるだけのものもある。たとえば、編物のフロアでは、製品の品質を管理維持するために、数々の罰金が用いられており、商品に品質上の欠陥が見つかったり、編み機によごれがあったりした場合は、その労働者に一日の生産ノルマを達成した際に出される割増金から罰金が差し引かれる(罰金の額は労働者の行った行為によって異なるが約50~100人民元の間である )。Luenthaiでも、罰金制度は罰として利用されている。

しかし、中国の労働契約法上、このような処罰は認められていない。

4.労働者の意見が反映されない。

2つの調査対象となった工場には、労働者が、労働条件におけるさまざまな問題に関して意見を提出したり苦情を申し立てることができるような機関やメカニズムが何ら用意されていない。Pacificでは、企業労働組合主席選出弁法第6条で「企業行政責任者(行政副職を含む)、パートナー及びその近親族、人的資源部門の責任者及び外国籍従業員は、本企業の労働組合主席候補者としてはならない。」とされているにもかかわらず、組合長を管理部門長が兼任している。Luenthaiにおいては、工場レベルにおいて労働組合は存在しないが、労働者委員会と労働関係課(employee relation department)が存在する。しかし、これらは労働者が声をあげる場として活用できるものではない。

■ 改善の勧告

調査を踏まえ、SACOMおよび、ヒューマンライツ・ナウは、製造業者および(株)ファーストリテイリングに対し、以下のことを求めている。(ステートメント)

製造業者2社に対する勧告:

・中国労働法に基づき、最低でも週に1日以上の休日を労働者に与え、月の時間外労働時間数を36時間以内におさめること

・労働者の健康及び安全に関して、適切な訓練、保護、及び健康診断を提供すること

・中国労働法の規定に従い残業代を支払うこと

・労働者の尊厳を守るため、経営方式を変革すること

・労働者が定期的に休憩を取ることができるようにすること

・製造工程で用いられる有害な化学物質から労働者の健康を守るため、必要なすべての対策を講じ、その対策と実施状況を公表すること

(株)ファーストリテイリングに対する勧告:

・製造業者に対して適切な援助をし、労働環境の改善を促すこと

・同社の企業社会責任ポリシーを遵守すること

・製造業者が直接・民主的な労働代表を選任することができるようサポートすること

・製品の製造業者に関する情報を開示することで透明性を維持すること

■ 海外下請け工場はブラックボックスでよいのか~企業の責任

マックの異物混入事件などで、再び、企業の責任が注目を浴びている。

海外の下請け工場等で製造している製品などについて、果たして食の安全性と品質確保のために、どこまで責任を尽くしているのか、企業の監督体制が問われている。

同様に、海外の下請け工場などで奴隷労働・児童労働・搾取的労働により、労働者の人権を侵害していないのか、ということも企業には問われている。特にファッション産業は海外下請け工場での過酷な労働が問題とされている。

2013年、バングラデシュでは、ラナプラザという、縫製工場が密集したビルが崩壊する事故が起きた。ビルに亀裂が起きてもお構いなしで、怖がる労働者に労働を強要した結果、ビルの倒壊で1000人以上の縫製労働者が犠牲となった。多くは若い女性だった。

バングラデシュ ラナプラザビル崩壊
バングラデシュ ラナプラザビル崩壊

私たちが目にし、購入するブランド、その製造過程はどうなっているのか。これだけ安い価格で衣服を購入できる陰で、工場の労働者はどんな過酷な労働を強いられているのか。私たちは普段、そうした工場にアクセスすることはなかなかできないし、その実態はブラックボックスのようだ。しかし、それではいけないのではないか、そこから今回の調査プロジェクトはスタートした。

こうした下請け企業を使ってビジネスをしている企業は、下請けを通じて利益を得ているのであり、下請け工場の人権問題に負の影響が起きた場合、何ら責任を負わないとはいえない。「CSRと人権」が叫ばれているが、自社、そして下請け労働者の人権・特に労働法規の遵守は企業の人権に関わる義務の最も重いものである。

国連では、2011年に「ビジネスと人権指導原則」が採択された。

http://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/

この原則によれば、企業には、サプライチェーンにさかのぼって人権侵害に関し相当の注意義務を負うという「デュー・ディリジェンス義務」が課され、さらに、

「企業は、負の影響を引き起こしたこと、または負の影響を助長したことが明らかになる場合、正当なプロセスを通じてその是正の途を備えるか、それに協力すべきである。」

ことが義務付けられている。

ファーストリテイリングには、国連の指導原則に従って適正な解決を期待したい。

ユニクロは定期的に工事用に立ち入り検査をしていたようであるが、それではなぜ今回のような事態が続いてしまったのか、検証し、実効性のある対策をとる必要があるであろう。

また、アジアで共通してみられる傾向だが、生産現場の労働が過酷な実情の背景には、ブランド=バイヤーが熾烈な低価格競争の犠牲を生産現場に強いており、安全で権利を保障した労働環境を実現するに足るだけの価格での買取りを保障していないことが多い。

(参照:ヒューマンライツ・ナウ バングラデシュ調査声明)

果たして本件ではどうだったのかも注目したい。

また、安易な「とかげのしっぽ切り」のように問題がクローズアップされた工場への発注をやめるやり方も、実は大量の失業者を生み出すという問題があることを指摘しておきたい。

■ ユニクロ(ファーストリテイリング) の反応

ヒューマンライツ・ナウは、本調査報告書公開に先立ち、2014年12月中に報告書日本語訳を(株)ファーストリテイリングに送付し、「2015年1月8日までに事実関係について誤りがあれば連絡がほしい」旨伝えている。

同社からは、事実関係について、同年1月9日付電子メールにて「ごく一部ではありますが報告書の内容に誤解ではないかと思われる部分もございました」との言及があったが、それを越えて事実関係の訂正要請はなかった。(株)ファーストリテイリングは独自に調査を実施し、報告書に書かれた事実関係のうち、いくつかの点が事実であることを確認しているという。

ヒューマンライツ・ナウは「誤解ではないか」との点について具体的な主張があれば、書面で送付することを求めているところだ。

(株)ファーストリテイリングは、対応をしていくとの見解を表明しており、私たちとしても今後(株)ファーストリテイリングに対し、積極的な対応を求め、協議の機会も持っていきたいと考えている。

■ 本件に関する記者会見等

今回の調査報告に関し、作成にかかわったSACOMの代表者が今週来日し、記者会見、イベントに出席する。

記者会見

1 開催日時:2015年1月15日(木)13時半より

開催場所:厚生労働記者会

(千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館 9F会見場)

2 開催日時 :2015年1月16日(金)15時半より

開催場所 :日本外国特派員協会(予定)

東京都千代田区有楽町1-7-1有楽町電気ビル北館20階

出席者 いずれの会見も、SACOM代表者/ ヒューマンライツ・ナウ代表者

※ なお、SACOM代表者は個別取材も受け付けています。

報告会のご案内

◆ファストファッション - 《安さ》の裏側にあるもの

日時 1月17日(土) 19:00~21:00(18:30開場)

場所 文京区男女平等センター 研修室A

交通 地下鉄「春日」「後楽園」から徒歩10分

地図 https://www.bunkyo-danjo.jp/access.aspx

資料代 500円

問合せ アジア太平洋資料センター(PARC)/ ヒューマンライツ・ナウ

詳細は以下参照・http://hrn.or.jp/activity/event/post-313/

本件: 【取材等のお問い合わせ】

ヒューマンライツ・ナウ事務局 (担当:落合)

電話:03-3835-2110 Eメール:info@hrn.or.jp

※ 特にイベントはどなたでも参加することができる。この問題は消費者の問題でもある。安価な製品の陰で何が起きているのか、消費者としてできることは何か、是非足を運んでいただき、みんなで議論が出来ればと考えている。

最後になるが、これからもこうしたNGOによる調査活動は続いていくだろう。今回はたまたまユニクロ関連の中国企業であったが、ほかのブランド、また縫製産業以外の分野の製造工程に関する調査を実施する可能性もある。

ヒューマンライツ・ナウとしてもできる限り柔軟に様々な団体と連携して、こうした調査を続け、改善を促していきたい。