Yahoo!ニュース

自治体の現場 ~銚子市、V字回復への挑戦~

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

関東平野の東端に位置する町、千葉県銚子市。67000人のこの町では、財政危機を打破するための「戦い」が昨年から繰り広げられている。

昨年度、銚子市は赤字団体に陥る危機を迎えていた。赤字団体とは、自治体の歳出が歳入を上回った自治体のことを意味するが、どの自治体も基金(貯金)を切り崩したり、一般会計から特別会計への繰出しの先送りするなど、あらゆる策を使って回避をする。平成24年度決算における赤字団体は0、23年度は泉佐野市と青森県鰺ヶ沢町の2団体のみであった。

財政悪化の要因

なぜ銚子市の財政がそこまで悪化したのか。色々な意見はあるが、整理すると主に以下の要因だと考えられる。

1.10年間で9000人の人口減少による税収減(地方税約1.2億円、地方交付税約12億円減)

2.高齢化の進展による扶助費の増加(10年間で約18億円増)

この2つは全国の地方都市でも同じ傾向であるが、銚子市のこの4年間の人口減少率*は全813市の中でワースト50に入るほどだ。その理由には、以下の財政悪化なども起因しているとも推測できる。

3.千葉科学大学誘致に伴う整備費の負担(合計78億円)

市が誘致し2008年に開学。当時の市との協定により、整備費は全額市が負担(維持管理コストは大学負担)、土地は市からの無償貸与となった。学生が居住することによる経済効果なども当然あるが、現時点において財政負担が大きいことは事実である。

4.市税の収納率の「異常な」低さ(全国平均93.7%のところ、銚子市は24年度86.1%)

銚子市は漁港の町として栄えたため、1軒当たりの面積が大きいと聞く。であれば固定資産税が高くなる。市民税は前年度所得で算出されるため景気が悪くなって所得も下がれば、税金も下がるが、固定資産税は所得とは関係ない。さらに、銚子市は空いている土地が少なく民間での土地・家屋の売買が少ないと言われている。固定資産税額の評価のもとになる路線価は売買実例価額なども算定基準に入るため、売買実績が少ないと過去の価額から変わらず高止まりしているとも聞く。

5.市立病院への市費投入の負担(24年度は約15億円)

これが最も大きな要因であろう。一時は全国的にも話題になった。

当時の市立総合病院は経営状況が悪く、市の財政調整基金(貯金)を切り崩し病院の赤字補てんをしていたが、2008年には基金が底をつくことがわかり、その年の9月に当時の市長が病院を休止。その後市民グループがリコールの署名を集め、翌年3月に解職請求投票、そして可決(リコール成立)。出直し選挙で誕生した新たな市長は、指定管理によって病院を再開したものの、患者数が増えず経営状況も変わらず(この間、再び基金を崩しながらの病院運営)。昨年5月の市長選挙で現職が落選、新たな市長が誕生。

ただし、上記だけなく、個別の事業の執行において、大部分が前例踏襲で行われてきたことや、その背景として市の職員の危機感が決して高かったわけではないことも忘れてはいけない。これらは、後述の事業仕分けを実施していた時に感じられた。

「行財政改革審議会」というエンジン

ここからが「戦い」だ。

昨年10月に「行財政改革審議会」を設置する(私はオブザーバーとしてこの審議会にすべて参加)。

第1回の審議会でいきなり第一次答申。まだ執行してない予算を一旦すべて凍結し、可能なものは執行停止、先送りするという内容。その結果、市の予算の50%にあたる約118億円を留保し、約8億円を執行停止。

その後、計9回にわたる審議会開催によって、以下の成果を生み出すことになる。

・市税の未収金対策の強化により、収納率の増加(25年度の収納率は88.6%)

毎回の審議会で報告を課した。初めのうちは担当課もあまり発言したがらない雰囲気だったが、収納の見込み額が増えてくるにしたがって発言にも強みが増した。目に見える変化であった。収納率2.5%増加による財源効果は2.4億円にのぼる。

・事業仕分けによる歳出削減(対象事業のうち、約2億円の削減を26年度予算に反映)

12月21~23日という暮れも押し迫った時に、仕分け対象計106事業、仕分け人は総勢35名という、近年には例のない大規模な実施。仕分け結果の反映度合いも、最高レベルとなった。

事業仕分けで際立ったのは、市民の危機意識であった。仕分けの議論は構想に穂選定の外部の人間がするが、評価は銚子市民が行った。その際の市民のコメントや終了後のアンケートの記述などから、市の財政状況を自分事として捉え、本気でこれからの行政のあり方を考えていることが垣間見えた。

・市立病院の指定管理委託料の減額(10億円⇒5億円)

先述の通り、財政悪化の「大ダマ」であった病院運営。公立病院は決して効率性だけで論じるものではないが、他の自治体病院に比べて職員数の比率が非常に高かったり、23年度まで東京に事務所を構えていたりなど、市民サービスを変えずとも削減できるところがあった。病院を再休止せずに持続可能な運営にするための議論が展開された。

この審議会は半年で9回開催した。私も複数の自治体の審議会に参加経験があるが、これほどのハイペースはあまり例がないし、何よりも初めからシナリオが用意されているわけではなく、まさに審議会が「ガチンコ勝負」の場であった。メディアの関心も高く、毎回ほぼ全社が傍聴、翌日の新聞紙面は毎回大きく取り上げられた。

上記の取組みによって、今年度の予算は特殊要因**を除くと約14億円の減少となった。

今年度が正念場

私は、今の銚子市は、V字回復の「兆し」が見えてきたと思っている。しかし、まだ「兆し」である。なぜなら、まだまったく安心できないからだ。赤字団体を逃れた要因として、介護保険、国民健康保険事業会計への繰出しを今年度に先送りしたこともある。さらに、25年度末の基金残高は何と160万円(24年度末は5500万円)。個人の貯金かと思える額しかない。

今年度が正念場である。ピンチはチャンスにもなりうる。そして、銚子はその要素を持っている。今年も9月27日、28日(土、日)の2日間、事業仕分けを実施する(詳細は、http://www.city.choshi.chiba.jp/sisei/kaikaku/jigyoushiwake_2014.html)。

「兆し」が外れて見事な「V字回復」ができれば、全国のモデルになる。是非とも、銚子に注目をしてほしい。私も当事者意識をもって協力していきたい。

* 2010年の国勢調査による人口と本年8月の住民基本台帳による人口の比較。対象は813市(23区含む)。

**国の政策による予算措置(国からの補助)によるもの(臨時福祉給付金等、小・中学校耐震改修、消費税関連等システム改修)及び災害復旧関連事業

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

伊藤伸の最近の記事