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癌と診断された妻のためにチームを離れたNHLのGKが、2か月ぶりの復帰戦で妻に捧げる完封勝利!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
オタワのGK クレイグ・アンダーソン(Photo:Jiro Kato)

近年のNHLは、集客が見込める上、カナダの公共放送局(CBC)で毎週2試合の生中継がある土曜日に、多くの試合を組んでいます。

昨日(現地時間)も13試合が行われ、30チームのうち、26チームが試合を行いましたが、その中で最も強い想いを抱いて試合に挑んだのは、オタワセネターズのGKクレイグ・アンダーソン(35歳)に他ならなかったはずです。

▼2か月ぶりの白星

2011年2月にコロラド アバランチから移籍してきたアンダーソンは、すぐさま守護神の座を託され、昨季までの5年間で(=フルシーズン在籍した年数)、チームを3回プレーオフへ導く原動力になりました。

そんなアンダーソンが、昨夜のホームゲームで、ニューヨーク アイランダーズが放った33本のシュートを全てセーブし、完封勝利を達成。

実に2か月ぶりとなる白星を手にしました!

▼「妻が癌と診断された」

守護神なのに「2か月ぶりの白星」と聞けば、「ケガをしていたの?」、それとも「スランプだったの?」という声が聞こえてきそうですが、アンダーソンが白星から遠ざかっていたのは、ケガでも、スランプでもありません。

今季のアンダーソンは、開幕からの6試合中、5回先発して4勝1敗。オタワの好スタートに貢献!

ところが、10月28日のカルガリーでの試合にアンダーソンの姿が見られず、チームに同行していなかったため、複数の現地メディアは、「負傷した可能性も?」と報じていました。

しかし、アンダーソン自身の口から、そんな憶測を払しょくする理由が語られました。

「妻のニコールが癌と診断された」

ためだったのです・・・。

妻が癌と診断されたアンダーソン(Rights of Jiro Kato)
妻が癌と診断されたアンダーソン(Rights of Jiro Kato)

▼妻の病状を公言した翌日に完封勝利

メディアに対して、重い口調で事実を告げたアンダーソンは、気丈にも翌日のエドモントンでの試合に先発して、見事に完封勝利をマーク。

涙ぐむ守護神の下にチームメイトが集まった傍らで、この試合のファーストスター(=ベストプレーヤー)に選ばれたアンダーソンへ、敗れたエドモントンのGKからも、拍手が送られていました。

▼アンダーソンを強力にサポートしたオタワ

11月に入ってからも、何度かアンダーソンがチームを離れる日が見られました。

しかしオタワは、アンダーソンの行動に制約を加えることは全くせず、代わりに、ピッツバーグペンギンズで出場機会に恵まれていなかったGKのマイク・コンドンをトレードで獲得して、アンダーソンが不在でも戦える布陣を構築。

アンダーソンは、その後もチームに帯同できない試合が、たびたびあったあと、12月3日の試合を最後に先発はもちろん、バックアップGKとしても名前が見られなくなりましたが、それでもオタワは、アンダーソンの気持ちを汲んで強力にサポートし続けました。

というのも、チームが初めてファイナルまで勝ち上がった2007年に、ヘッドコーチ(HC)を務めていたブライアン・マレー(74歳)も、「ステージ4」の癌と診断されながら、今も尚、シニアディレクターの職に就いて、オタワを支え続けていたからです。

▼妻に捧げる完封勝利

再びチームに合流したアンダーソンは、昨日のホームゲームで、2か月ぶりに先発。

昨年12月5日以来の出場ながら、アンダーソンはブランクを全く感じさせないプレーを披露して、今季4度目の完封勝利を収めました。

昨年10月末に、妻が癌を発症したことを打ち明けた翌日の試合と同様に、ファーストスターに選ばれたアンダーソンは、ホームアリーナのスタンドから湧き上がる大きな声援に、感無量の様子!

▼妻からのメッセージ

そんなアンダーソンの活躍を見ていた妻のニコールは、自らのツイッターに、こんな言葉を記していました。

バレンタインデーより少し早い 「I love you !」 のメッセージをもらったアンダーソンは、これからも、チームのために、ファンのために、そして最愛の妻のために、ゴールを守り続けます!

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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