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fc2の公然わいせつはどこから猥褻なのか?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

わいせつな動画や著作権法違反にあたるテレビ番組などの映像が投稿される事件が相次いでいるインターネットの動画投稿サイト「FC2動画」をめぐり、京都府警などは2014年9月30日、性行為のライブ配信を手助けしたとして、公然わいせつ幇助(ほうじょ)の疑いで、サイトを実質的に運営していたとみられる大阪市北区中之島のインターネット関連会社「ホームページシステム」など数カ所を家宅捜索した。

出典:性行為ライブ配信を手助け容疑 「FC2」運営か、大阪の会社を捜索

わいせつ動画や著作権法違反の動画などが数多く投稿され、捜査関係者からは「犯罪のインフラ」とまで呼ばれるようになっていた動画投稿サイト「FC2動画」

出典:「犯罪のインフラ」FC2にメス 運営実態解明なるか

日本のインターネット史に、またひとつ歴史が刻まれた。動画プラットフォーマーに「性行為ライブ配信を手助け容疑」「犯罪のインフラ」嫌疑がかけられたからだ。

YouTubeもかつてはアダルト顔負けの違法サイトだった

かつて、YouTubeがデビューした2005年(今からたったの10年ほど前だ)。他の動画サイトとYouTubeとの違いは、性行為の動画が他の動画サイトよりも、圧倒的に多かった事はあまり知られていない。そして、最も多かったのが、テレビや映画や音楽などのマスメディアの著作権侵害映像だった。毎日、YouTube側の削除とユーザー側のアップロードの果てしない戦いが繰り広げられた。2006年のGoogleによる16億5000万ドル(1650億円)での買収のうち2億ドル(200億円)は著作権侵害の訴訟対策費用に使われた。そして、2013年のYouTubeの広告収入は25億ドル(2500億円)を超えるまで成長した。

「YouTube革命 テレビ業界を震撼させる「動画共有」ビジネスのゆくえ」

現在のYouTubeを見てみると(特に海外)、プロモーションとしてテレビや映画、音楽とのタイアップに積極的に利用されている。また、フェアユース規定などもありコンテンツに関する著作権の侵害という問題そのものよりも、営業権を侵害されないという方向性に向きだしているともいえる。そして、音楽業界においては、ラジオでのヒットチャートや、かつてのMTVのように、YouTubeにアップロードされていなければ、話題にも登らないという逆転現象さえ起きている。

インターネットで誰もが無修正にたどりつける時代

もはやインターネットにおいては、中学生でさえも、海外サイトで18歳以上の規約にYESとタップするだけで無修正のモロ動画が簡単にオカズになる時代でもある(笑)。事業者は定められた承諾をユーザーに手続きさせていることで法的責任からは逃れられる。そこにあるのは青少年に対しての保護という視点よりも事業者保護の視点でしかない。また登録されたメールアドレスには、SPAMが届き、違法アダルトサイトへの勧誘がとめでもなく続く…。

日本の法律における公然わいせつ罪

日本の法律においては、刑法第175条で、わいせつ物頒布 わいせつ物陳列となり、「1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。(平成23年に改正)」とある。

また、「わいせつ行為」「公然わいせつ幇助」においては、刑法第174条において「公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」とある。

「公然」とは =「不特定又は多数の人が認識し得る状態」にあることを言う。

今回、京都府警察本部によると、この会社はインターネットの動画投稿サイト「FC2動画」の会員にわいせつな動画を配信し、有料で閲覧させた公然わいせつほう助などの疑いが持たれている。

そもそも、「わいせつ」とは何なんだろう?

「猥褻(わいせつ 英:obscene)」とは、社会通念に照らして性的に逸脱した状態のことをいう。

「逸脱(いつだつ 英: deviance)」とは、平均的な基準からの偏向の総称のこと。 一般には、単に統計的な意味で出現頻度のごく少ないという意味にとどまらず、その上に「ルールから外れた望ましくない」という道徳的裁定が込められる。

つまり、「公然わいせつ」とは、社会通念に照らし、性的に平均的な基準からの偏向があり、ルールから外れた望ましくない状態の行為が不特定又は多数の人が認識し得る状態にあることをいう。

この社会通念に照らしという点が時代性によって大きく変わる。また、平均的な基準からの偏向も平均が変われば変化する。

人類の創世期からの生殖行為や、帝王切開以外に誕生で通過した経路も、江戸時代の夜這い文化も、すべて現在の日本においては、時と場所をわきまえないと「公然わいせつ」となってしまう。

わいせつな部位の表現としては、1990年代のヘアヌード写真集の裁判で、わいせつの基準は最高裁判所が示した「(1)羞恥心を害し、(2)性的興奮を過度に刺激し、(3)善良な性道徳を害するものである」というのがあるのみであり、ヘアやアナルは性器ではないということからヘアヌード解禁となった。

つまり社会通念に照らしあわされたワケである。

fc2アダルトのビジネスモデル

FC2ライブアダルトは、視聴人数によって表示ランキングが決まる。トップの配信者には2〜3,000人が集まる。ほとんどがマスクやウィッグをかぶった女子が無料でチャットをしながら、有料チャネルへ誘導する。有料は1分あたり、30〜100円と様々だ。配信者が50円と設定した場合、2〜3,000人の1割が流入すれば、1分あたりで1万〜1,5万円の「分給」となる。10分間で10万〜15万円 20分間で20万〜30万円はトップ配信者ならば稼げてしまう。fc2はそこから30%の手数料を取り、配信者に70%を支払うというアップルのApp Storeモデルだ(笑)。

しかも会員側も、チャットでリクエストに応じてくれるアイドルクラスの女子が1分50円としても10分500円、1分100円としても1,000円で10分間、生視聴できるのだ。自分のまったく介在できない無修正アダルトビデオよりもリクエストに応じてくれるリアリティがある方を選ぶ傾向にあるだろう。

数十分で、20万円以上も稼いでいる素人女子は、プロの性風俗嬢よりもプロフェッショナルとして稼ぐ。しかも対人することもなく、性交渉することもない。もちろん、病気も妊娠の心配もいらない。マスクで顔バレの可能性も少ない。自宅のウェブカメラの前で、アノニマスに徹することにより羞恥心も軽減されている。

しかし、トップで稼ぐには、それなりの美貌やスタイルや大胆さが要求される。アイドルやモデル、AV嬢以上に稼げるが、それなりのチャットスキルが必要だろう。AV嬢の1作品のギャラが1日拘束での完全肉体労働で10万円とすれば、これほど割のいいアルバイトはないのだろう。だからこそ、未成年には厳しい障壁をつくるべきなのである。

fc2のトップ3配信者の前日売上
fc2のトップ3配信者の前日売上

前日売上げベスト3をみても、top3の配信者合計で、539,291pt(円)稼いでいる。30%をfc2の手数料とすると16万1,787円をたった3人のトップ配信者から得ているというモデルである。一日あたり何人の配信者がいるかは不明だが、有料会員はすべて前払いでポイントを買っているので、fc2のポイントの退蔵益は膨大なことは確かだろう。

18歳以下に対しての厳しい社会通念を!

インターネット産業は、莫大な便益性とトレードオフの関係性で、18歳未満にもわいせつ行為がすでに開かれてしまっている。fc2.comアダルトの動画配信者たちが、本当に18歳以上なのかを認証する手段は現在どこにもない。

18歳未満の配信者がいるとするならば、自分で利用規約に「YES」するだけなのだ。むしろ、成人には世界に照らし合わせた社会通念を説き、18歳未満には、スマホで本人の年齢確認のできる二段階認証などを義務付けるなどの法整備を社会通念として、おこなうべきではないだろうか?

この世界の文化や社会通念に自由にアクセスできるインターネット時代、無料でわいせつをわざわざ検索しなくても、2ちゃんねるから外部サイトへ移動するだけに、目に飛び込んでくる時代だ。日本独自の「公然わいせつ」というくくりは、社会通念としていささか問題ではないだろうか?

成人向け映画に関しても映倫に30万円の審査料を渡して審査してもらうというのも時代錯誤もはなはだしい。ボカシやモザイクもデジタル処理によってほとんで見えているようで見えない感に至っている。まったく無駄な処理に雇用が生まれているとしかいいようがない。

「公然わいせつ幇助」という嫌疑でしか動けない警察も法治国家ならではだ。しかし、本当に重要なのは、そこではなく、わいせつ社会からの青少年保護育成だと思う。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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