Yahoo!ニュース

AV女優が日経新聞記者でもいいじゃないか!

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

【追記】実に痛快な本人からのコメントがLivedoor NEWSに掲載されている。

『「AV女優」の社会学』の著者は、「偏見を鑑みて」などという言い訳の裏で、どこかで自分の著作を読む偉いオジサンたちを「巨乳で馬鹿っぽいAV女優が書いたって知ったらどんな顔するの?」と嘲笑するような気持ちは持っていなかったと言えるだろうか。であるとしたら、これは大いに議論・批判されてしかるべき問題である。「日経記者がAV女優」であることよりも「鈴木涼美がAV女優」であることのほうが余程大きな問題を孕んでいる、と私は思う。

「文春」に“AV女優歴“を暴かれた元日経記者・鈴木涼美が緊急寄稿!

http://news.livedoor.com/article/detail/9327280/

KNNポール神田です!

思わずこの時代錯誤のニュースを見てとても腹立たしく思った。

単体で10作以上をリリースしていたAV女優が、先月まで日経新聞記者だったことが週刊文春の取材でわかった。この女優は、2004年にデビュー。巨乳を売りに、ロリコンものからSMものまで幅広いジャンルの作品で活躍していた。

元記者は、本誌の取材に「AV出演していたのは事実です。日経新聞を辞めたのは、AVとは関係ない話です」と語った。

出典:人気AV女優は日経新聞記者だった!

しょせん、大出版社「株式会社文藝春秋」であっても、週刊雑誌部門はイエロージャーナリズムである。

電車の中吊り広告で関心を煽り、毎週部数を競う。広告獲得で成績が決まる。結果として、より扇情的であり、刺激のあるタイトルが並ぶようになる。

中吊り広告ではセンセーショナルなタイトルが並ぶ
中吊り広告ではセンセーショナルなタイトルが並ぶ

さらに、発売された記事をネタに今度は夕刊紙がさらに下品に食いつく…。ウェブ版でも同様だ。

日経新聞でバリバリ働く美人記者にAV女優の過去があった─―。発売中の「週刊文春」がスッパ抜いて、新聞業界もAV業界も大騒ぎだ。

AVに出演していた女性記者は、佐藤るりクン(女優名)。慶応の環境情報学部を卒業後、東大大学院に進み、09年に日経に入社。6年半勤めて先月退社した。長らく都庁クラブで都政を取材していたという。都庁クラブに籍を置くライバル紙の記者が言う。「とにかく目立つ記者でした。おっとりした雰囲気なのにボディコンみたいな服装ばかり。胸の谷間を強調するような格好も多かったですね。男性記者は目のやり場に困っていましたが、デレデレ鼻の下を伸ばしている都庁の役人もいました」

出典:AV出演70本以上 東大卒「元日経美人記者」の仰天過去

「仰天過去」「新聞業界もAV業界も大騒ぎ」「佐藤るりクン(女優名)」「鼻の下を伸ばしている都庁の役人」

もう、書いている記者の年代が「言わずもがな」な年齢なんだろう。まさに、死語レトリックの「オンパレード」だ。

そもそもアダルトAV業界ってどうなの?

そもそも、AV女優というのは一職業であり、日本の法令の中でも認められている合法的な職業だ。ブラック企業は多いかもしれないが、反社会的な職業でもないだろう。また、自分の肉体を使って演技をするという仕事も、特定多数な出演者とのカラミが主体であり、性風俗嬢同様にSTD検査も義務づけらている。不特定多数をいとわない素人女性よりも倫理的にも感染症的にも健全ではないだろうか?

AV女優という職業は「AV」という需要があるから成立する事業だ。パッケージビジネスがネットへと変遷している。

シュリンクしているレンタルビデオ業界

2007年に3,600億円あったレンタルビデオ市場は、2010年には2600億円と、1,000億円も市場がシュリンクしている。1/3がアダルトビデオとして考えても、レンタルでのAV市場は、900億円程度の市場だろう。当然、AV女優のギャラもデフレ化している。

さらに、全国レンタルビデオ店3,600店のうち、TSUTAYAは1400店、GEOは1200店と、2社で3分の2以上を占めている。店頭で顔見せするよりもネットで簡単にという側面や違法サイトでの無料公開などで、市場はシュリンクしているが、ユーザーの総消費時間は逆に増えているのではないだろうか?

同様に元・AV女優とい肩書きや経歴を持つ人が、かつての作品をネットで発見されやすい環境も生じている。ネットにおける「忘れられる権利」がないのだ。

なぜ、日経新聞記者や東大卒がAV女優だったら仰天過去なんだろう?

たとえ、元ヤンキーとかヤクザとか、犯罪歴がたとえあったとしても、懲罰を受けたならば、それ以上、個人にヒモづけられた罪はないはずだ。しかし、社会は元◯◯に対して手厳しい。さらにそれが、新聞記者や東大卒というヒモづけがつくときびしくなる。それはエリートに対する羨望の現れと侮蔑の重なった感情だからだ。

AV女優は犯罪ではない。なのに、なぜ、犯罪者と同様に元AV女優という肩書について「仰天過去」となってしまうのだろうか?

おそらくアダルトビデオを一度も見たことがない、お世話になったことがないという男性は非常に少ないと思う。男性の多くが、サービスの受益者でありながら、そのサービスの事業者側にいた人をどこか勝手に侮蔑しているのではないだろうか?。それはどこか話がおかしい。「職業に貴賎なし」という言葉を借りれば、社会のニーズがあり、法律を犯していない限りれっきとした職業なのだ。

イタリアの元・国会議員のチッチョリーナ氏はポルノ女優(「エーゲ海に捧ぐ1979年」)だった。しかし民主的な投票で選ばれた国会議員だ。オーストラリア・メルボルンのデイリー・プラネットは、売春宿チェーンだがオーストラリアで店頭公開し資金調達を行った。

江戸時代、おおらかだった日本の性文化が、戦後勝手に隠微で陰湿で社会悪のようにガラパゴス的に進化してきているような気がしてならない。世界と比較しても日本だけが、こっそり利用していながら、偏見に満ちているのだ。日経新聞でも、政治家でも、教育者でも、NHK職員でも、公務員でも、AV女優がなってはいけないという法律もない。面接で通るかどうかは別だが…。しかし、元キャバクラ、元性風俗、元水商売というだけで、損をしている女性は少なくないだろう。

まずは、職業に対しての偏見と、過去の経歴を公人でない人まで暴くジャーナリズムそのものに対して、強気をくじき弱気を助けるメディア精神そのものがないことが問題だ。

新聞の読者は、東大卒の記者だから記事を読むのではない、記事として新聞社の報道姿勢を代弁していれば良いのだ。ゆえに元の職業がなんであれ、記者の資質とは関係ない話だ。まるで、どこかの週刊誌が政治家の出自を暴いて叩く構図と一緒のことだろう。

人の弱気をくじき売上をあげるなど、一番卑劣なジャーナリズムではないだろうか?

同じメディア業界に身をおくものとして恥ずかしい限りだ。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事