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持続可能な医療のための10年プラン(1)

加藤秀樹構想日本 代表

日本の医療財政は破綻しかかっています。しかし単に医療への税金投入を減らしても(診療報酬の削減など)、何の解決にもなりません。医療のしくみを変えて、患者にとっても、医師、病院にとっても、財政にとっても“WIN,WIN”にすることはできるのです。その案は以下のとおりですが、これはまた、医療先進国が共通して目指す方向でもあるのです。

構想日本は、先月「『地域健康管理医(家庭医)』を軸とする医療改革10年プラン」を発表しました。この提言を作成した背景や提言のポイントを、インタビュー形式でわかりやすく解説します。

― なぜ医療制度の改革なのですか?

かつて主な病気といえば感染症や急性疾患でした。現在の医療制度はそれらを抑えこむものとして発展しました。そしてそのシステムは功を奏し、また社会の発展に伴う衛生環境の改善により、病気の内容が大きく変わっています。長寿命化が急速に進み、総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は、1950年の5%から、2000年、介護保険制度導入時には17%、現在は25%に達しています。この割合はさらに高くなり糖尿病や高血圧など生活習慣病に対する医療ニーズはますます大きくなるでしょう。

生活習慣病など高齢化に伴う病気は、原因、病状、治療の関係が感染症より多様、複雑で、生活環境の長期観察などが求められます。検査したら答が出るようなものではありません。ところが日本のほとんどの医師は、病気毎、臓器毎の教育を受けていて、一人の人間を長期間全人的に診察し、見守る(家庭環境、職場環境などを含めて)仕組みになっていません。そこで患者は医師の診断、治療に満足できず、フリーアクセス(詳細後述)の故の「ドクターショッピング」を生み、それが病院勤務医の過酷な勤務状況や2時間待って2分診察といったことの背景になっています。そして、それらの経済的なツケが、とどまることを知らない国庫医療費の増大として残されているのです。

このように現在の医療制度と日本人の病気や健康状態とのミスマッチが根底にあるのです。いわば都市型生活・長寿社会に重心を置いた医療制度に早急に変えていくことが求められているのです。

― 具体的にどんな問題があるのですか?

主な問題は、「患者」「医療機関」「国(財政)」それぞれについて、次のようなことです。

1.「患者」の問題

  • 医師は経験、専門のいかんを問わず開業して、何科でも標榜することができる(自由標榜、詳細後述)。そのため、患者は自分病気に対する的確な診断、治療を受けることができる医師がどこにいるかわからない。
  • 誰を「主治医」としてよいかわからないため、とりあえず「信頼」を求めて大病院へ行くと、長時間待って診察は短時間、検査中心ということが多い。
  • 高齢者にとっては介護と医療を分けることはできないが、制度は別の為、高齢者やその家族が継続的に安心できるケアを受けにくい。

2.「医療機関」の問題

  • 患者が病状に関わらず自由に医療機関を選べ、また、大病院志向が強いため、軽度な病気に対しても大病院、専門医療機関が医師のレベルに関係なく対応せざるをえない。
  • その結果、大病院とりわけ患者ニーズの大きい診療科ほど、勤務医の多くが過酷な過重労働に陥り、勤務条件の改善がままならない中で医師不足状態の原因となっている。
  • 高齢者に対しては病気の予防や健康維持を指導することが重要であるが、そのような行為が診療報酬上であまり評価されておらず経済的なモチベーションが働かない。

3.「医療財政」の問題

  • 患者のフリーアクセスなどを背景とした検査・投薬の重複、高額化の結果、海外の主要国では支出されないような「ムダな」医療費がかさむ傾向が続いている。
  • 医療費は保険分を含めて総額38.4兆円(平成24年度)で、しかも高齢化の進展と医療の高度化により毎年1.5%~3.9%程度増加している。

― これらの問題と制度との関係はどうなのでしょうか。

大きく3つの制度的な背景があります。

(1)診療科の自由標榜と主治医の不在。日本の大学の医学部では、臓器や疾病毎に専門的な知識を習得させることに重きを置いています。そしてその養成課程、臨床研修を経れば誰でも自由に診療科(内科、外科など)を標榜し、開業することができます。その結果、臓器や疾病の「担当医」はそれぞれ存在するものの、患者を全人的に診るいわゆる「主治医」は制度上いません。

(2)フリーアクセスと患者の自己診断。現在の制度では、患者はどの医療機関にかかるか自由に選択ができます。しかし、それは患者自身が疾病と受診先を自己判断(例えば「これはたぶん心臓の病気だから○○病院に行こう」といった)しなければならないということでもあります。

(3)介護保険制度と医療保険制度が別の制度であること。本来、医療、介護、福祉は境界線がはっきりと決まるものではなく、とりわけ高齢者の場合相互に関係が深いため、垣根をこえて全人的なケアを行う必要性があります。しかし、それぞれ別の制度なので、例えばリハビリテーションのように両制度にまたがるような内容では、適切なケアが提供しづらい状況です。

そして以上のすべてに大学での医療教育(医療行政が厚生労働省所管であるのに対して、教育は文部科学省所管であることにも留意)と、診療報酬体系のあり方がかかわってきます。

続き(これらの問題に対する解決策)は近日更新予定

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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