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「先生が、絆なんだよ!伝統なんだよ!と言っていた」組体操事故の被害生徒が馳文科相に怒りの手紙

加藤順子ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士
2014年5月に組体操の重大事故が起きた東京都北区立小の体育館(青い屋根の建物)

学校で相次ぐ組体操事故について、高層化の規制や中止の対策をとる動きが今月に入り相次いでいる。重大事故を防ぎにくいとされるタワーやピラミッドを中止することにした大阪市教委に続き、千葉県柏市と流山市の教委が小中学校での組体操の全面中止を決定。松戸市も中止を検討していると報じられている。特に、小中学校の校長会が地元の病院の救急医が発表した組体操事故の実態をエビデンスとして規制を判断した松戸市教委の例は、他の地域にも大きく影響を与えそうだ。

そんななか、2年前に小学校で組体操の練習中に後遺症の残るほどの大けがを負った中学生が、馳文科相に宛てて手紙を書いた。「先生が 絆だから! 絆なんだよ!」と言いながら練習をさせていた実態を明らかにし、相次ぐ組体操事故について国に無責任な検討で済ませないよう強く求める内容がつづられている。手紙はすでに大臣側にすでに渡っており、書いた本人の許可を得て、文末に全文を記載した。

国も、地方に慎重な姿勢を求める方向で動きだしてはいる。5日には、馳浩文科相が衆議院予算委員会での初鹿明博議員(維新)の質疑に対し、「重大な関心をもって、このこと(組体操の中止)について文部科学省としても取り組まなければいけない」と答弁し、国として調査や規制をしないとしていたこれまでの方針を転換。鈴木大地スポーツ庁長官も22日の会見で、安全な実施に向けて国が一定の方向性を示すこともやむを得ないという考えを示した。

16日には、超党派の「学校管理下における重大事故を考える議員連盟」が結成され、現役の文科大臣を含む与野党の3人の大臣経験者も顔を揃えた。すでに2回の勉強会を開き、組体操事故の実態が広く知られるきっかけをつくった名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)や、学校体育を所管するスポーツ庁の学校体育室、組体操を実施する都内の小学校の校長らから話を聞き、馳文科相に手渡す要望書をまとめた。

議連が24日に予定している具体的な申し入れ内容は以下の4点。

  1. 段数の低い場合でも死亡や障がいの残る事故が発生していることなど、具体的な事故の事例、事故になりやすい技などの情報を現場で指導する教員にまで徹底すること
  2. タワーやピラミッド等の子どもが高い位置に昇る技、飛んできた子どもを受け止める技、一人に多大な負荷のかかる技など、大きな事故につながる可能性がある技については、確実に安全な状態で実施できるかどうかを学校においてしっかりと確認し、出来ないと判断される場合には実施を見合わせるよう、各教育委員会に求めること
  3. 小学校での事故の件数が相対的に多いことや小学校高学年は成長の途中で体格の差が大きいことに鑑み、特に小学校においては、当該学校の子どもの実情を踏まえつつ、危険度の高い技については特に慎重に選択するよう、各教育委員会に求めること
  4. 平成元年12月29日の閣議決定により、それまで国が地方公共団体に求めていた子どもの体育活動中の事故については、その発生を国が把握し全国の学校に情報提供するとともに今後の施策の参考とするため、地方公共団体が国に報告することを検討すること

同議連は、名古屋大の内田良准教授がインターネットで集めた巨大化する組体操への規制を求める2万筆を超える署名も添えて、提言を提出する予定だ。

大臣宛の手紙を書いた生徒の母親は、国や国会議員が組体操の事故に関心を示すようになったことを評価する一方、あくまでも危険な技の実施への熟慮を求めるに留まる議連の申し入れ内容について、「組体操ありきで現場の判断に任せるのか」「組体操の問題だけでいいのか」と落胆を隠さない。その背景には、事故後に学校や教育委員会から受けた教育行政ぐるみの隠蔽の問題がある。

事故に遭った生徒は、東京都北区の小学6年生だった2014年5月、組体操の練習中に崩壊したタワーの下敷きとなった。左腕に広範囲な大けがを負い、中学1年になった現在も後遺症に苦しむ。学校は、母親の求めに応じて担任が事故当時のタワーと教職員の配置を図示した文書を被害児童を通じて手渡しただけで、被害者や保護者に対して事故当時の説明を直接行わなかった。

保護者がせめてもとの思いで、保護者会で事故について報告するよう学校に求めると、学校は保護者会で実際の事実とは異なる内容を説明した。校長が区教委に提出した事故報告書にも、事実と違う記載が複数見つかった。こうした事態に不信感を抱いた母親が都教委や区教委に助けを求めると、「学校からの報告が全て」として、担当者は取り合おうとしなかった。

事故は組体操で起きたが、被害者側にとって事故は一連の対応の問題の始まりに過ぎなかった。直面したのは、原因となった組体操を規制したり、国への事故報告の仕組みをつくるだけでは収まらない教育行政の構造的な問題だった。

事故直後から学校や教育行政の対応をつぶさに見てきた被害生徒の手紙は17日、議連を通じて馳文科相側に渡された。鉛筆や消しゴムを長く持ち続けることができない腕で書かれた手紙の内容は、学校側に事故の実態を隠蔽されたことに対する怒りや、地方教育行政上、学校設置者に対して「中止」の指示や指導を明言できない国の態度に対して、子どもながらの疑念が込められている。

馳文科相は23日の定例会見で、組体操事故について、災害共済給付金の請求があった事故情報を蓄積している日本スポーツ振興センターに、障がい事例の分析を進めさせていることを明かし、議連からの提言や自治体教委の判断を踏まえた上で、3月中には国としての方針を明示すると話した。これまでにない大きな動きではあるが、組体操事故の防止は、学校事故の取り扱いに共通する課題のごく一部分だ。むしろ組体操やスポーツ事故に関する国や議員の動きが活発化したことで、学校管理下での事故をめぐる事後対応の構造的な問題が解消に向かい始めたかのように錯覚してははならない。

以下は、組体操事故で大けがを負った生徒がつづった馳文科相への手紙。

はじめまして。突然のお手紙ですみません。

私は2014年5月12日(月) 小学校6年生の体育の授業で運動会で行う組み体操の4段タワーの練習をしていました。

先生が 絆だから!絆なんだよ! これは●小学校の伝統なんだよ! と言っていました。

しかし練習中に事故が起きました。

私は4段タワーの最下段で四つん這いになっていました。上から2段目と最上階が一緒に立ち上がろうとした時、3段目も一緒にバランスを崩しタワーが崩壊して私の体に上からドワーっと落ちてきました。

急に体にものすごい重圧がかかってきてその時死ぬかと思いました。すっごく怖かったです。

体を動かす事が出来なくて力が入らなくて、今までに感じた事のない痛みが全身にきて息をするのも辛かったです。私は悲鳴をあげてしまいました。あの時の恐怖は今も覚えています。

私は左手首靱帯損傷、左肘の脱臼、骨折をしました。

手術室に入る前の不安や恐怖から大泣きしました。手術が終わって説明出来ないくらいの痛みがきました。そんな痛みをもう誰にもさせたくないです。あの苦しみや痛みをこれ以上誰かがしなくてすむようにして下さい。

生まれて初めての手術と入院、痛みや不安や恐怖。事故の場所から私や家族の人生も変わってしまいました。受験を予定していましたが、それも出来る状態ではなくなりました。

小学校生活、最後の楽しい思い出つくりは何もありませんでした。

音楽鑑賞会、ミュージカル、遠足、修学旅行、プール、バレーボール…。全て失いました。

たくさんの普通に出来ていた事が出来なくなる苦しみがわかりますか?!

食事や着替え、トイレやお風呂、鉛筆を持ってノートに書く、消しゴムで消す事が出来ない。

普通に毎日やっていた事が授業が生活が出来なくなる苦しみがわかりますか?!

卒業までに3回の手術をしました。母が卒業証書は右手だけで受け取れるようにと一緒に練習してくれました。本当に辛い毎日でした。

でも、あの時、事故にあったのが私だけでよかった。と思いました。

今も、いつくるかわからない痛みにたえる日々を過ごしています。傷も一生残ります。母に五体満足に生んでもらったのにひどいです。

事故の時、体育館で担任の先生や校長先生につかれた嘘。信じられません。

体育館の床に倒れたまま聞きたくなかったです。

そこまで事故を隠し守ってでもやる組み体操の意味は何ですか?

やる意味は伝統という言い訳だけだと思います。

学校で守るのは私達子供の命だと思います。

事故の数だけ子供達被害者がいます。これ以上被害者を増やさないで下さい。

学校は同じ過ちを繰り返さないでほしい。

無責任な対応をしてきたから、たくさんの被害者が出ました。その被害者の数だけ未来を将来の夢やたくさんの可能性を学校の先生が私たちからうばってきたわけです。

一人でも事故がおきたら国が直ぐ危険な事です。と、対応をしてくれていたらと残念におもいます。

組み体操を続けるならこれからは責任を国がとってくれるのですか?

無責任な検討はしないで下さい。組み体操は学校でやらなくていいことなので種目を変えて下さい。

行進なら日本体育大学の人たちもやっていてすごいです。

中学入学前、中学の校長先生から「体育の授業で実技はやらないと点数は0点です。」と言われました。酷いです。

私だってやりたくても出来ないのに…。

時間を元に戻してほしい!

私の心の傷と体の傷は一生もって生きていきます。

この国は私達子供に対してこれからも酷い国でありつづけるのでしょうか?

今の日本は思いやりのない国だと思います。

(●は学校名。一部の改行は筆者が掲載にあたり調整した)

ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士

近年は、引き出し屋問題を取材。その他、学校安全、災害・防災、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。災害が起きても現場に足を運べず、スタジオから伝えるばかりだった気象キャスター時代を省みて、取材者に。主な共著は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『下流中年』(SB新書)等。

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