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豊洲移転延期の妥当性について

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

豊洲市場の移転延期の妥当性について考えてみました。

すでに引っ越し予定だったものを延期するので、莫大なコストが発生します。こちらの日経新聞の記事では「損害額は100億円を超す可能性がある」とあります。都民一人あたり800円ほど負担することになるのですが、そのコストに見合うメリットが延期によって得られるかは疑問です。

小池知事が上げた延期理由は以下の3点です。

1.安全性の懸念払拭

2.巨額・不透明な費用の検証

3.情報公開の徹底

おときた駿@ブロガー都議会議員(http://blogos.com/article/188873/)より引用

1.安全性の懸念払拭

土壌や大気の調査はすでに完了しており、地下水の調査は追加で自主的に行なったものです。地下水についても、今のところ問題はみられず、基準をクリアできる見通しになっています。これまで繰り返してきた調査に新しいデータが一つ加わるだけですから、この調査の結果を待てば、安全性の懸念が払拭できるというような話ではありません。「食の安全は100%でなければならない」というなら、雨漏りやネズミなどの大問題を抱える現在の築地市場は即刻使用停止ということになるのではないでしょうか。

2.巨額・不透明な費用の検証

もちろん、予算の使い方に関しては、徹底的に検証していただきたいと思います。ただ、建築費用の使い方は、都と建築業者の間の話ですから、市場で働く水産関係者には無関係です。現場で移転作業を進めながら検証をしても何ら問題がないはずです。検証を理由に、移転を延期するのは合理性を欠きます。莫大な税金を投じた設備を、政治的な理由で使わせないというなら、それこそ無駄ではないでしょうか。

3.情報公開

「反対している人がいるのは、都の説明が不十分だからだ」という批判があります。そこには、説明が十分であれば全員が納得するという前提があるのですが、私には全員が納得する計画が存在するとは思えません。もう何十年も議論をしてきたけれど、意見の一致は見られなかったし、このまま何年立ち止まっても、反対する人は反対し続けるでしょう。

築地市場の移転についての歴史はこちらにまとめられています。築地市場の老朽化は酷い状態で、もう限界です。にもかかわらず意見がまとまらない理由は、築地市場(特に水産仲卸)は個性が強い個人事業主の集まりで、総意というものが存在しないからでしょう。築地市場は、会社ではなく、巨大な商店街のようなものです。個人商店がひしめき合い、その中には、派閥もあるし、それぞれの懐事情も違う。全体の意見を調整するのは困難を極めます。みんなが100%納得する移転計画などそもそもあり得ません。

移転に当たって都は低金利の融資制度を整えているのですが、あまりにも経営が悪いところへは融資ができません。返済のあてがなく、焦げ付くことがわかりきっているところに税金を投入するのは難しいからです。移転できないことが確定的な人は、移転に対して反対の立場をとります。全員が首を縦に振るのを待っていたら、いつまで経っても何も出来ないのです。

築地市場の移転は、強引さがなければ進められません。しかし、強引に進めればいろんなところから反対意見がでるのは避けられないという構図があります。どういう風にやろうと非難されるので、誰も手を付けたくないのだけれど、すでに先延ばしも限界という厄介な代物なのです。何とか話をまとめて、引っ越しが目前に迫ったこのタイミングで、鶴の一声でちゃぶ台返しですから、準備をしていた業者の心中を察するに余りあります。

まとめ

今の築地市場を使い続けるのは限界だし、豊洲以外の有力な選択肢は見当たりません。おそらく、半年後ぐらいに、予定通り豊洲に移転をすることになるでしょう。小池知事もそのつもりのようですね。土壌の安全性については、これまでに得られていた情報から大きな変化はないだろうし、移転に反対している人たちはこれからも反対し続けるでしょう。指摘されている使い勝手の悪さについても、半年で大きな改善は難しいでしょう。

延期のコストに見合う成果が得られるかは、はなはだ疑問です。橋下さんの「どうせ移転する築地に小池さんが莫大な労力をかけるのはもったいな過ぎる」という指摘は的を射ていると思います。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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