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アルベルト・ザッケローニ監督記者会見。「ベースを崩すつもりはないが、新しい選手も試してみたい」

川端暁彦サッカーライター/編集者
険しい表情で記者の質問に応じるザッケローニ監督

「大迫、高橋の復帰は単なるローテーション」

アルベルト・ザッケローニ監督は11月7日、日本代表のメンバー発表記者会見に臨んだ。「自分たちのベースを崩すつもりはない」と強調しつつも、「新しい選手を試してみたい」と非レギュラー組の抜擢を示唆した。また原博実技術委員長は「(10月の遠征結果について)悔しい思いはみんなにあります。これ以上ない良い相手とやれるチャンスを逃さずに、思い切りの良い試合をやってほしい」と語っている。

会見では記者から最近の結果に関する厳しい質問が連続するなど、ザッケローニ監督が“ちょい怒り”モードになる場面も見られた。今回のトピックとなった大迫勇也と高橋秀人の復帰については「ほかに試したい選手がいたので、ローテーションしていただけ」と簡潔に語っている。

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アルベルト・ザッケロニーニ監督記者会見

――はじめに。

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「10月の2試合に冠しては有効利用できなかったという思いを強く持っている。一般的にはフレンドリーマッチと呼ばれているが、こういう試合はテストの場であり、テストマッチという言葉のほうがふさわしいように思う。プレーの精度、スピードなど通用するか、どこに課題が出るのか分かるためにこうしたテストマッチがあると思っている。10月の遠征では攻撃のパートに不満があった。一方で守備に関してはまあまあできたと思っている。攻撃のインテンシティ、プレーの精度が足りなかったのではないか。

原委員長とも相談して2度の欧州遠征での4試合を企画したのは、国際経験を積むため。残る2試合に関してはオランダが(FIFAランクで)8位、ベルギーが5位の素晴らしい相手。先の欧州予選でもトップ3に入るようなパフォーマンスを残している2チームだと思っている。ドイツだけがオランダよりも勝ち点を稼いだ結果となったが、オランダは得失点差が「29」。オランダより優れたチームはなかったとも思っている。そういった相手に対してどこまでできるか個人的にも楽しみである。オランダは非常によくつないでくるチームで、ベルギーはフィジカル面の能力を発揮してくる。勇気と団結力を持ったチームをこの2試合にぶつけていきたいと思っている。

W杯まで残された時間は少なくなってきた。この2試合が終われば、3月のシングルマッチデーの試合しか残されていない。テストマッチを戦った上で、どういった課題が出るのか。それに対応していきたいと考えている。テストマッチを行うにあたって、自分たちのプレーを最大限に出すことが大事だし、できるだけ主導権を握るような戦い方をしていく必要がある。それをして初めて、どういったところが通用する、通用しないというところが分かってくる。冷静に自分たちの力をテストしにいきたいという思いが強い。当然ながら、理想のチームバランスを追求するために自分たちの持っているすべてを出してトライしていきたいと思っている。10月の試合までは『攻撃は良いものの、守備は悪い』という状況で、10月の遠征ではそれが逆になった。守備をしながらしっかり攻めに出るバランス、あるいは攻めながらしっかりリスクマネジメントをしていくということ。そうしたバランスを取っていきたい」

――本田選手を中心に攻撃のバリエーションを増やしたいと試みていたようですが、逆にこれまでやってきたことができなくなってきた。そうした部分についてどう思われますか?

「こうした時代なので、丸裸に研究されることも想定しなければならない。よりバリエーションをもって、相手に的を絞らせないようにしないといけない。またどこで数的優位を作るのか、どこでスピードを上げて勝負するのかといったところも考えていかなくてはならない。もちろん、相手ディフェンスラインを広げてスペースを作ったうえで相手ゴールへ向かっていくということは基本になってくる。選手たち自身が話し合ってプレーを合わせていくということもポジティブだし、それを監督のところに持ってくるのはありだと思う。ただ、対戦相手を分析したうえで選手を選ぶのは監督の仕事だし、どういった方向性に向かうのか決めるのは監督の仕事だ」

――この遠征で選手の選抜、テストは終了という考えでしょうか?

「W杯に行くグループは正直に言って、まだ決めていない。年が明けてJリーグやそれぞれのリーグでの戦いが重要になってくる。やはり心身ともにトップフォームにある選手こそがW杯に行くべきだと思っている。この3年間、たくさんの選手を呼んできたわけですが、それをこの遠征を最後にやめるつもりはなく、恐らく3月の親善試合にも新戦力を加えることになる。欧州のリーグとJリーグを並行してモニタリングし、常に情報を収集している。今回は入っていない選手がまた入ってくることもあるし、また実際に興味を持って観察している選手がいることも事実。ポジションによっては候補の選手が非常に多いパートもある。就任したころと比べると、チョイスの幅が広がってきたなという思いがある。これは非常にポジティブなサインだと思うし、W杯に行きたいという者はたくさんいるんだなと思っています」

――この遠征は結果より内容という考えでしょうか? 一部では「結果が欲しい」と言っている選手もいるが、その考えのギャップについてはどう思われますか?

「結果によって自信を増すという考えもあるが、時に内容によっても自信は高まっていくもの。自分たちのやりたいことをやれたとなれば、自然と自信となるわけです。内容が悪くて結果が出るケースもあるが、長い目で見れば良いプレーをしているチームこそ結果を残せると思う。クオリティとインテンシティを90分出し続けるチームを作ることができれば、結果も付いてくる。サッカーやスポーツの世界だけでなく、他分野でもすることだと思うが、何か仕事が一つ終わったあとには、その分析をしなくてはいけない。その方法は二つあって、一つは結果論。結果を基に分析していく。もう一つは原因論。何を狙ってそれが通用したのか、できたのかを探っていくという方法だ。自分としては後者を採用したい。勝っているときにはすべてうまくいっていて、負けているときはすべてがダメという考えをする人もいるが、監督としてはそうした結果論に左右されることなく、何が起こっていて、何ができたのかという“原因”を探っていくこと。それこそが監督に求められる仕事だと思う。10月の試合について言えば、守備については良かったと思うし、インテンシティとスピード感が足りなかったと分析している。特にベラルーシ戦について言えば、ピンチは失点の1度だけ。25mの距離からのシュートを決められた、それだけだ」

――柿谷がずっと無得点だが、その原因をどう考えていらっしゃいますか。また一部の選手は「ボランチが柿谷を観ていないからだ」とも言っているが。

「ほかのFWもそうだが、柿谷はもっとこのチームに馴染んでいく必要がある。代表チームの宿命でもあるが、日常的に一緒にトレーニングできるわけではない。ボランチに限らず、合わせる時間というものが当然必要になってくると思う。柿谷は日本人選手的ではないところがある。Jリーグを観ていても感じることだが、日本サッカーはコンビネーション、つなぎで相手ゴールに迫っていくという文化があると思う。彼の場合は一発で裏に抜けるプレーが好きだし、抜けるタイミングというモノも持っている。チームメイトも彼の特長を理解し、生かしていく、そういう時間が必要だ。もちろん、中盤に下りてきてコンビネーションに絡むプレーも持っている選手だが、周りの選手も彼の個性を理解しないといけない」

――高橋と大迫が復帰となったが、その理由を教えて下さい。

「この二人については9月、10月と良いパフォーマンスを見せていたから呼んだ。この前の遠征については、ほかに観たい選手がいたのでローテーションしたということに過ぎない。二人ともまた手元に置いて観てみたいと思ったというだけのことです。誰のこともわすれていないし、代表スタッフはすべての選手を観に行っているし、その門戸はすべての選手に開かれていると思っていただきたい。最終的なメンバーについては5月の時点まで待っていただくしかない」

――選手たちと監督の方向性が違ってきているのではないでしょうか。それにこの結果だと、クラブチームであれば、ほかの監督を探し始める状況ではないかと思います。監督としては『結果はW杯で出す』というつもりなのでしょうか。

ちょっと怒り気味で記者の質問に応じるザッケローニ監督
ちょっと怒り気味で記者の質問に応じるザッケローニ監督

「選手と方向性が違うとはまったく思っていない。10月の試合についてもリズム、インテンシティが出せなかったゆえに結果が付いてこなかっただけだと思っている。当然、選手たちが自分たちの中で話し合って監督に意見を言うのは非常に良いことですし、もっとやってほしいと思っている。そのうえで監督としては解決策を導き出してあげるのが自分の仕事だと思っている。選手は各々違ったチームでやっていて、それぞれの成功体験は違っている。それ(個別の成功体験)をそのまま代表チームに当てはめようとしても無理がある。私としては、この時点では結果より内容が大切だという気持ちが強い。過去、われわれが結果を求められた大会は4つあった。つまりアジア杯、W杯予選、東アジア杯、そしてコンフェデ杯だ。この中で勝つことができなかったのはコンフェデ杯だけではないか。この数試合のテストマッチで勝つのが、われわれの目標ではない」

――この遠征で当たるのは非常に強い対戦相手ばかりだが、戦い方やフォーメーションを相手に合わせて変える意向はあるのでしょうか。

「われわれは常に自分たちのアイデンティティーを持ち、大切にしなければいけないと思っている。日本人の特長を生かしたサッカーをしていかなくてはいけない。対戦相手に応じた微調整というのは当然あるわけだが、自分たちのベースを崩すつもりはない。技術力をもって激しく相手ゴールに迫っていくサッカーというのをやることだ」

――今回の遠征では1試合目、2試合目で変化を付けようといった考えはあるのでしょうか。

「10月のゲームに関しては、二つの異なる対戦相手にベースを崩さないでどこまでやれるかということを考えていた。11月については自分たちのベースは崩さないものの、新しい選手を使っていきたいなと考えてる」

新練習着も発表

新たに発表された練習着の横でフォトセッションに臨むザッケローニ監督
新たに発表された練習着の横でフォトセッションに臨むザッケローニ監督

会見に先立ち、アディダスジャパンから日本代表の新しいトレーニングウェアも発表された。現行の明るい黄色をイメージしたものから一新、ブラジルの空をイメージしたという鮮やかなブルー(ソーラーブルー)が特徴となっている。また、写真では分かりにくいが、パンツの裾の部分がタイトになっているのも特徴で、より動きやすさを追求した結果なのだとか。

日本代表のトレーニングウェアは、原則として1年ごとに更新されており、このウェアも1年間にわたって使われることになる。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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