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ワールドカップメンバー決定。ザックの落ち着きと強気と……

川端康生フリーライター

サプライズはなかった

カワシマ、ニシカワ……とGKから始まったメンバー発表は、「イノハ」で小さくどよめき、「アオヤマ」でもう少しどよめき、「オオクボ」でさらに大きくどよめき、その余韻の中、「サイトウ」でもう一度どよめいて終わった(本当は23人目、「オオサコ」が聞き取りにくくて、最後にざわついたのだが、それはともかく)。

配られたリストを眺めての第一印象は、ザッケローニは落ち着いているな、ということ。

今日のようなホテルでの会見にかかわらず、試合前後のインタビューでも言葉を荒げることはもちろん、表情を変えることがほとんどない。

そんな精神的な安定だけでなく、サッカー監督としての思考も極めて安定している。メンバー選びに関しても、大きなブレがないから、結果として大きな“サプライズ”もやはりない。

「大久保」は確かにこれまでほとんど招集されていなかったが、昨季(そして今季も)最多得点者である。なぜ選ばれなかったのか不思議なくらいの選手だったから「サプライズ」という言葉はしっくりこない気がする(ここ数日、テレビをはじめとしたメディアが「サプライズ候補」と煽っていたが、「候補」なのだからさほどの「サプライズ」ではないだろう)。

個人的に驚いたのはむしろ「斉藤」の方だった。土曜日の新潟戦でもキレを感じなかったし、調子がよさそうには見えなかったから、<攻撃的なポジションで好調な選手を切り札として入れる>=ジョーカーとして選びにくいかなと思っていたからだ。

だが、それにしても候補であったことは間違いないから、4年前の「川口」のようなサプライズ!ではなかった。

ザックの安定感

品川のホテルで行なわれた発表からの帰路、改めてメンバーリストを眺めながら感じたのも、やはりザッケローニの安定感だった。

これまでの選手選考(チーム構成)がそうであったように、今回もまた各ポジション2人ずつ、つまりレギュラーとその交代要員でチームを組んでいるからだ。

つまり「11人」×2(+第3GK)の23人。並べればこうなる。

GKが「川島」と「西川」(それに権田)

CBが「吉田、今野」と「森重、伊野波」

SBが「長友、内田」と「酒井高徳、酒井宏樹」

システムでいえば、ここまでが4-2-3-1の「4」だ。

そして「2」(ボランチ)が「遠藤、長谷部」と「青山、山口」

「3」が「本田、香川、岡崎」と「清武、斉藤、大久保」

最後に「1」トップが「柿谷」と「大迫」。

誰かが怪我をしたり、疲れたり、出場停止になったとしても、単純な選手交代でリプレースできる顔ぶれ。

ワールドカップにおいても、ザッケローニ監督は浮つくことはない。これまでと同じようにやっぱりそんなメンバー構成を組んだのである。

ザックの自信と強気

もちろんメンバー選考は、現実にはそれほど単純ではない。

ゲーム(大会)中には、同ポジションでの交代だけでなく、試合展開や相手に応じてシステムを変える必要も出てくるし、またポジションが同じであってもそれぞれの選手の個性は異なるから、起用や組み合わせのオプションは実は無数にあるからだ。

「23人」という限られた枠の中で、だから監督は迷う。

ザッケローニもこう明かした。

「悩みどころとして、ボランチを1枚多く連れて行こうかどうしようかと……」

具体的に言えば、細貝(もしかしたら中村憲剛だったかもしれないが)を入れるかどうするか、で悩んだということなのだろうと思う。

しかし、ザッケローニはこう続けた。

「……しかし(ボランチを1枚加えると)FWを一枚削らなければならなくなる。だから私としては攻撃的な選手を選ぶことにした」

強気である。

これまでワールドカップに臨む日本代表の考え方は、<チャンスはそう多くない、少ないチャンスを何とか得点に結びつけ、少得点試合に持ち込んで勝つ。そのためにまずは失点しないこと>だったと思う。

「これまで」の大会がすべてそうだったとは言わないまでも、本番直前に4バックから3バックに(つまり守備重視に)変更したり、守備重視のMFを多用したりするところから、ワールドカップでの戦い方を考え始めてきた。

しかし、ザッケローニにそうした発想はないようだ。

ボランチを増やすかどうか迷ったが、それではFWを削る必要が出てくるので……のくだりを彼はこう結んだ。

「……主導権握りながら日本のサッカーをするにはこのメンバーだと。ブラジスで日本代表の成長を(世界に)証明したい」

相手に合わせるのではなく、あくまでも自分たちのサッカーをすること。そうすれば、勝てる。そんな自信を持っているのである。

そういえば「最大のミスは、相手にビビってしまうことだ」とも言っていた。

表面的には穏やかで温厚な印象だが、ザック監督、相当に強気なのだ。

もしも内田が万全なら……

家に帰ってテレビのニュースを眺めながら、もう一度今回のメンバー選考について考え巡らせているうちに思ったのは、当落線上にいた数名の選手たちを分けたのは、もしかしたら海外組の故障、特に「内田」の状態だったのではないかということだ。

(ちなみに「豊田」はザックの中では早くからなかった気がする。ハーフナー・マイクをたびたび試し、ことごとくうまくいかなかったことで「大きな選手」の選択肢は消えていたのではないか)。

海外組の3人の故障にうち、「吉田」については森重で穴は埋まる。特徴でいえば、スピードが不安視されている吉田と一長一短なレベルに森重は成長しているように見える。いずれにしてもこの二人は当確だった。

「長谷部」についても山口がレギュラーポジションを奪ってもおかしくない状況にある。もちろん長谷部のキャプテンシーは唯一無二のものだから、23人から外すことはあり得ない。言い換えれば、彼のコンディションがどうであれ、長谷部、山口ともメンバー入りしたということだ(吉田、森重と同じように)。

問題は「内田」だ。

もしも彼が万全であったなら、内田と長友のSBは不動。とにかく二人が同時にピッチからいなくなることは考えにくい。

ならば、SBのバックアップとしては、両方の(つまり右も左も)できる「酒井高徳だけ」という選択肢もあったと思う(実は酒井宏樹に僕は大きな期待をしていたのだが、最近の代表でのパフォーマンスは残念としか言いようがない)。

つまり、もしも内田が万全だったなら、ボランチをもう一枚加えることができた。そうなれば細貝(あるいは中村)……。

いや、すでにサイは投げられた。「もしも」の夢想に意味はない。

ついにメンバーが決まった。1ヶ月後、ワールドカップが開幕する。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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