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VWディーゼル不正問題、日本市場にはどう影響する? 

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

既にCEOウィンターコルン氏の辞任にまで発展しているVWのアメリカ市場におけるディーゼル不正問題。日々のニュースで詳細が徐々に明らかにされると同時に、極めて様々な問題に発展していきそうな雰囲気だ。

VWのディーゼル不正問題そのものについては、同業でオーサーの国沢光宏さんが既に記している。また他の報道からも分かるように、今回の不正問題は、日本市場に導入されていない車種における話となっていることもご存知の通り。しかし、何よりも大きいのは不正問題が我々に与えたショックだろう。

私自身自動車ジャーナリストとして、VWはあらゆる部分に優れたバランスの良さと技術力に裏打ちされる高い商品性を実現しており、世界の自動車メーカーの中で見ても優れたプロダクトを送り出していると評価しているだけに、今回の不正問題には心底驚かされた。

こうしたデータや数値に関してはメーカー発表に偽りや不正などないと私自身思っていただけに、商品としての優秀性を思うと極めて残念、と思うのが実際だ…と、自動車メディアに携わる私ですら、なぜにVWほど技術力のある自動車メーカーがこんなことを…と感じるほど。だからユーザーの方やニュースを知った方々の中にはそれ以上にショックを受けている方はもちろん、ネガティブなイメージを持たれる方も相当数のはず。

では、この問題が日本市場にはどう影響するのか? 

まずVWブランドは、日本市場においては輸入車ブランドとして15年連続で輸入車販売台数1位を記録し、日本人にとって、身近で親しみやすいブランドを築き上げてきた経緯がある(だからこそショックが大きいわけだが)。そして4月には「ゴキゲン♪ワーゲン」というキャッチコピーで、日本市場で古くから愛称的に言われてきた「ワーゲン」という言葉を自らが用いて日本独自のブランドコミュニケーション活動をはじめてもいた。そして今後は、2016年の早い段階で日本市場にもディーゼル・エンジン搭載車を導入するとアナウンスされていた。

ただ一方で、気になる動きがあったことも事実。まず日本における輸入車販売台数に関しては、昨年から追い上げを見せるメルセデス・ベンツが、今年の上半期で3万2680台を達成。対するVWは2万9666台で2位となり、このままいくと2015年はついにメルセデス・ベンツが首位の座を獲得するか? と言われていた。そこに来てこの問題が発生したために、今後の販売台数にも少なからず影響を与えることは間違いないだろう。そして、問題発生以前に日本市場での首位陥落が現実味を帯びたからか、2012年に就任した庄司茂社長が突然辞任した。

そうした中で聞こえてきたのは、フォルクスワーゲングループジャパン内でも、現状を立て直そうとする動きがあるということ。詳しくは書けないが、いろいろと対策を講じようとしているのは間違いないことだった。

だが、そんな矢先にこの問題が発生した。そうした中で一番影響があるのはまず、2016年の早い時期に導入をアナウンスしていたパサートのディーゼル・エンジン搭載車だろう。

ご存知のように日本市場では既にメルセデス・ベンツやBMWがディーゼル・エンジン搭載車を投入しており、BMW3シリーズでは販売の大半がディーゼル・エンジン搭載車となっている現状がある。さらにボルボもディーゼル・エンジン搭載車を増やしており、販売も好調に推移している。そしてメルセデス・ベンツは既にEクラスやCLSクラス、GクラスやGLクラス、MLクラスにディーゼル・エンジン搭載車を多数ラインナップしており、今月28日にはCクラスに待望のディーゼル・エンジン搭載車がラインナップされる予定だ。

そうした中にあって、VWもパサートでディーゼルの流れに続こうとする動きがあった。が、今回の不正問題によって、直接の技術的問題ではないものの、日本導入に関しての重要かつ慎重な検討が必要になったことは間違いない。日本に導入予定となっているディーゼル・エンジンに関しては、今回問題となっている古い型式のものとは当然異なる。だが、こうした問題があると、商品そのものが云々ではなく、どうしてもネガティブなイメージが生まれてしまうのは事実だ。果たしてそれを受けて、日本側がどのような判断をするかは気になるところだ。

フォルクスワーゲングループジャパン広報部によると、今後のディーゼル・エンジン搭載車導入に関しては、

「現時点では今回の問題を受けて、様々をわきまえて検討をしていきます」とのこと。もっとも、問題についてまだ日本側でも交通整理をしている状況であるため、今後この問題がさらに大きく影響を与えていく場合には、「導入予定についても検討される可能性はある」という。そしてこの辺りに関しては、「今後しかるべきアナウンスをさせていただきます」とのことだ。

そして今回の問題で、アメリカにおいてはブランドへの信頼が相当揺らいだわけで、その余波が少なからず日本にも影響はする。特に日本市場の場合、ディーゼル・エンジン搭載車は現時点ではラインナップされておらず、実際の商品には何の関係もないが、先に記した販売台数の減速傾向に影響を及ぼす可能性は否定できない。事実、現時点でもフォルクスワーゲングループジャパンには、一般ユーザーからも問い合わせがあり「自分のクルマは大丈夫か?」というようなものもあるという。既にこうした具合でイメージが悪化している状況だけに、あらゆる手段を使って信頼回復に努めることは間違いないだろうが、果たしてどのような動きをとるかについては注視したいところだ。

加えてディーゼル・エンジン搭載車の販売にどのような影響があるかも注目したいところ。現時点では日本市場において、ディーゼル・エンジン搭載車の需要が増えていることは確かだが、欧州では陰りが見えているところに今回のアメリカでの問題が生まれ、欧州でも今後ディーゼル市場が減速していくという見方もある。そうした流れが今回の問題と相まって、日本市場にも波及するか否かは気になるポイントだ。

またこれと同時に、VWだけの問題ではなく、自動車の規制に対する様々な議論や新たな見解が生まれそうだ。これは特に輸入車/国産車を問わずの問題として、燃費テストに始まり、様々な計測等に関しての動きが生まれるだろう。特に国産車の燃費値が、実勢の数値とかけ離れている現状は以前から取り沙汰されていること。この辺りも含めて、自動車に関して新たなアクションが求められている。まだ問題は始まったばかりで、これから様々なことが報道されるとは思うが、これを機に自動車がさらに健全な方向に向かうきっかけであることもまた間違いない。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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