Yahoo!ニュース

「デカいのにミニ!?」で正解。イマドキのミニのブランド論

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

1月の後半、イギリス・ロンドン近郊で日本でも2月23日に発表予定の新型ミニ・クロスオーバーの国際試乗会に参加した。そこでさらにボディサイズが大型化したクロスオーバーに驚いたのだが、そこには、聞けばなるほど納得の理由があった。

ミニ・クロスオーバーは2011年(海外では2010年)に登場した。その成り立ちは通常のミニのプラットフォームを用いるのではなく、新たに設計された専用プラットフォームを持ち、ボディサイズも全長4105mm×全幅1790mm×全高1550mmという、いわゆるコンパクトSUVの部類に属した。日本車でいえば、日産ジュークがもっとも近いサイズ感であり、クラスとしては欧州Bセグメントの派生版というところだった。

しかし今回の新型クロスオーバーでまず最大の特徴が、全長4299mm×全幅1822mm×全高1557mm(欧州仕様値)と、ひと回り大きなボディを手に入れたことだろう。全長で約200mm、全幅で約30mm拡大された。またホイールベースは75mm長くなって、後席足元も約50mm拡大されている。こうして新型クロスオーバーは、日産ジュークはもちろん、それより少し長かったホンダ・ヴェゼルやマツダCX-3も飛び越え、最近登場したトヨタC-HRとほぼ同じサイズ感を持つに至った。

そう、つまり新型クロスオーバーは欧州BセグメントからCセグメントへと移行して、より上級のモデルになったわけだ。

実はこの背景には、今回用いたプラットフォームが関係する。ミニは既に日本でも発売している「クラブマン」も、欧州Cセグメントにエントリーしており、このときに今回のクロスオーバーと同じプラットフォーム(通常のミニの3ドアや5ドアよりも大きなプラットフォーム)を用いた。そしてこのプラットフォームこそが今回のキモ。これはBMWのコンパクトSUVであるX1が用いているものと共通のものだ。BMWはこれまで、前輪駆動のプラットフォームはミニだけに受け持たせていたが、数年前に2シリーズグランドツアラーを世に送り出したときに、ついにBMW製の新世代前輪駆動プラットフォームを用いた経緯がある。そしてそれはコンパクトSUVであるX1に派生し、その後のミニ・クラブマン、そして今回のミニ・クロスオーバーにも用いられる。

また同時にBMWは、これと前後してミニというブランドをより拡大する戦略を敷いていく。現行の3ドアモデルが登場した際には、同じBセグメントには属すモデルではあったものの、新たな3気筒エンジンを始めとする新世代メカニズムは、BMWとの共通化が進んだものとなったのだった。こうして通常のミニも、以前よりプレミアムな方向を歩み始めた感があった。そうした流れに決定打を打ったのがクラブマンであり、クラブマンはBMW製のFFプラットフォームを用いて欧州Cセグメントへと移行を果たす。そして今回のクロスオーバーでも同様の手法を使うことで、これまでよりも1クラス上のクルマへと成長させた=ミニとしてのプレミアム化が顕著となったのだ。

事実、ミニは決してチープな車ではない。我々の頭の中には、どうしてもクラシック・ミニの小ささと手頃な価格がイメージとして残っているが、現在のラインナップを改めて振り返ってみると3ドアおよび5ドア、コンバーチブルは226〜489万円の価格帯にいる。つまり既に3ドアや5ドア、コンバーチブルでさえもBセグメントの中では極めてプレミアムなモデルなのである。一方で欧州Cセグメントに属すクラブマンは日本では290〜500万円の価格帯にあり、こちらもCセグメントの中で見てもモデルによってはプレミアムな位置付けとなる。

そう考えると、クロスオーバーのボディサイズにも徐々に納得感が出てくる。欧州CセグメントのプレミアムSUVと考えると、なるほど納得のサイズといえるし、その価格帯にも理解が進むようになる。ちなみに間もなく発表される新型クロスオーバーの日本仕様は、なんと当初はディーゼル・エンジン搭載車だけのラインナップとなる。これは日本で販売される現行モデルのクロスオーバーの約9割近くがディーゼルという状況を反映してのことというから、随分と割り切った戦略だ。もっともこの後に、PHEVモデルやJCWなども加わるだろうが、実質的な主力モデルはすべてディーゼルとなる。

実際の新型クロスオーバーの印象については、こちらの試乗インプレッション動画を参照していただければ幸いだ。見ていただければ、新型クロスオーバーがいかにプレミアムな存在かが理解できるはずだ。

しかしながら特にクルマ好きにとって、かつてのミニの幻影は強いようで、こうした新世代のミニたちには「デカい」という言葉が投げつけられているのも事実である。それと同時に価格が「高い」という声も多く聞く。確かにかつてのミニから比べると、現在のミニは大きく立派になり、併せて価格も高くなったため、古きを知るエンスージアストな向きにはピンとこない存在なのかもしれない。

が、しかし! そんな風に成長したミニは、いまや成功を収めたブランドであることも間違いない。BMWがこのブランドを手がけて以降、右肩上がりの成長は止まることを知らず、2016年は2015年度比で見ても16.4%の伸びで、日本で8年連続伸長かつ過去最高となる2万4548台を販売した実績を持つ。つまり、3ドアや5ドアですら既にプレミアム化している状態ながら、以前にも増して売れているモデルなのである。

そしてこれは明確に、世の中のニーズを反映している、というところに話が落ちる。かつてのミニからすると大きく立派な現代のミニはしかし、良く売れている商品というのが現実なのだ。

実際、今回新型クロスオーバーを試乗したが、あらゆる部分にクラスアップを感じる仕上がり。そうして走らせているウチに、筆者もあることに気がついた。

間もなく日本で発表されて価格も明らかになるだろう新型クロスオーバーは、これまでのCセグメントの枠から一歩踏み出してさえいる商品だと。既にクラブマンの日本価格からも明らかなように、クロスオーバーも上級モデルではオプション込みの諸費用込みならば500万円を超えることは想像に難くない。それに対して従来の価値観とミニに対するイメージでみると、確かに「高い」となるが、ボディサイズや内容、プレミアム性を考えるとむしろ、なるほどと思えてくる。

ひと昔前ならば、400−500万円の価格帯ならばBMW3シリーズなどを購入する場合が多かっただろう。しかし今やクルマもユーザーニーズも多様化の時代であり、この価格帯ではBMW3シリーズのようなスポーツセダンも買える一方で、X1などのSUVを始め、様々なモデルが選べる世の中になっている。そうした中に、新型クロスオーバーも存在している。

ひと昔前は価格に対して提供されるクルマの種類が少ない上に、それ(BMW3シリーズなどのベーシックな車系)がプレミアムの答えの主たるものだった。しかし今はこうした価格帯に、様々な選択肢が増えている。つまり新型クロスオーバーはミニでありながら、それこそBMW3シリーズが買えるくらいのユーザーにとっての候補になり得る時代なのだ。

そう考えるともはや「ミニ」という言葉は、クルマそのものの名前ではなくなっていることにお気づきだろうか? そう、「ミニ」とは車名ではなく、今やブランド名と考えるのが自然だ。またそれと同時にこのブランドは、BMWの手によって少しづつ上級移行が図られており、いまやプレミアムなセグメントに片足を入れつつある、と考えるのが正しいだろう。ちなみに日本でも展開されているクラブマンのCMなども以前より明らかにプレミアム狙いであることがわかる。

つまり新型ミニ・クロスオーバーを見て「デカい」「高い」「こんなのミニじゃない」と思ったり言ってしまうのは、イコールでこのブランドのターゲットではないことの証かもしれない。いまこのブランドを支えているのは、自動車の多様性や先進性を素直に受け入れると同時に、その価値に対価を支払えるという、心にも懐にも豊かさを持つユーザーなのだろう。

それだけに「デカいのにミニ」で正解であり、それがイマドキの「ミニ」が構築しているブランドなのだ。

※以下の動画は、筆者が手がけるYoutubeLIVEの番組「LOVECARS!TV!LIVE!」でお届けした今回の新型ミニ・クロスオーバーを取り上げた番組だが、この番組内でも同様の話をしているの参照していただければ幸いだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

河口まなぶの最近の記事