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【代表合宿2日目:午前練習レポート】戦術練習で見えてきた“ハリル式ゾーンプレス”のコンセプト

河治良幸スポーツジャーナリスト
追加招集で2日目から参加となった鹿島の永木亮太(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

国内組を集めた代表合宿は2日目に入った。午前と午後の2部練に分けて行われてるが、午前練習から早くもゾーンプレスを意識した戦術練習を実践。ハリルホジッチ監督は勝負の2年目に強い意欲を示している。

快晴のもとで行われた午前練習は1時間半ほどだったが、戦術を意識した密度の濃い内容だった。米本拓司(FC東京)が週末のJリーグで負傷したため、初日の別メニューだけでクラブに戻り、追加招集で永木亮太(鹿島アントラーズ)が2日目から参加した。

軽いグラウンド周回からGK3人は専門練習に移り、フィールドの22人が12人と10人に分かれた。内容は下記のとおり。

【1】12人練習

縦30M×横ペナ幅(約40Mを4分割して横の守備ゾーンを設定)で4人1組で3列を作り、中央の4人はフラットな関係で長さ10Mほどのロープ3本を4人で握る。前後の4人×2が横パスをつなぎぐ間に一定の距離感でスライドし、かけ声とともに1人がボールホルダーにアタック。それに応じて左右の2人は斜め後ろのポジションで幅を縮めてカバー。左右のサイドの場合は内側の選手が斜め後ろに同様のポジションを取る。動き方が掴めてからロープを外し、攻撃側は横につなぎながら縦パスを狙う。

【2】10人練習

15M×15Mほどの範囲に3−4−3の陣形を作り、中の4人はフラットに並んで縦パスをカットする。前後の3人×2組はそれぞれ3人が2タッチ以内でボールをつなぎ、5本以内に縦パスを入れなければならない。

なお【1】にはハリルホジッチ監督は付きっきりで指導に当たり、【2】はボヌベイ&モアンの2コーチが見る形で、【1】よりも少しリラックスした雰囲気で行われていた。【1】の方がよりチーム戦術を意識しているためだが、共通するコンセプトは高い位置で相手のビルドアップにプレッシャーをかけながらも、距離感のバランスを失わずに守備の穴を空けないことだ。

強くボールに行く選手とカバーしながら二次的なプレスに備える選手を段階的に作っていくことで、高い位置から連続的にプレッシャーをかけることができる。ボールに行く選手の左右が斜め後ろにポジションを取るのはドリブルのカバーもあるが、斜め前のパスコースを切るためだ。ちなみにロープは引っ張ると10Mほどと見られるが、フラットに並んでいる時はたわんだ状態で持っているため、横幅は5M間隔ほどを意識していると思われる。

ハリルホジッチ監督は就任当初から守備は「高い位置」「中間の位置」「低い位置」に分かれることを説明しているが、このチャレンジ&カバーの基本理念はどの位置であっても大きくは変わらないはず。ここに来て”ゾーンプレス”という言葉を使い出したが、それはとにかく数的優位でボールを奪いに行くことではなく、ゾーンの組織を崩さないままプレッシャーをかけてボールを奪うということ。ボールを奪いに行くところ、ステイして縦を切るところを明確にすることで、相手にかけるプレッシャーとリスクの管理を選手たちが組織として共有できる様に意識付けを行っていきそうだ。

同時に守備練習と攻撃練習をセットにしているのも興味深いところで、戦術練習の中でも常に攻撃側と守備側を作ることで、攻守一体の意識付けを徹底する狙いがある様に思われる。なお2つの練習は途中でメンバーを入れ替えたが、週末のJリーグで腰を痛めていた金崎夢生(鹿島アントラーズ)だけは両方とも12人練習に参加。溌剌とした動きを見せ、特に守備でのプレスが目立っていたが、これらの練習を終えた時点で米倉恒貴と共に、大事を取ってインターバル走に移行した。

最後はゴールとGKを付け、”ゾーンプレス”を意識した戦術的なハーフコート・ゲームを行った。白(ビブス)と青(ビブス無)に分かれ、白は4−2−3−1、青は4−3−3で、攻撃側は1タッチ&2タッチのパス回しから縦パスを入れて仕掛ける意識、守備側は【1】の練習で意識付けされた距離感とポジショニングを互いのシステムの中で発揮することを意識していた。布陣は以下の通り。

◆白 4−2−3−1

ーーーーーー浅野ーーーーーー

宇佐美ーーー武藤ーーーー小林

ーーー柏木ーーー遠藤航ーーー

車屋ーー丸山ーー森重ーー植田

ーーーーーー西川ーーーーーー

◆青 4−3−3

ーーーーーーー興梠ーーーーーー

ーー永井ーーーーーーーー齋藤ー

ーーー遠藤康ーーーー柴崎ーーー

ーーーーーーー永木ーーーーーー

藤春ーー槙野ーーー昌子ーー塩谷

ーーーーーー東口(林)ーーーー

戦術ベースのゲームとはいえ、やはり目を見張るのはプレースピードの速さだ。ハリルホジッチ監督は就任当初から意識付けしてきたことではあるが、ほとんどが代表合宿を経験している選手たちということもあり、イージーなミスはかなり減っている印象がある。ただし、守備のプレッシャーも組織的で厳しくなっており、縦パスを入れるのにはやや苦労している様子が見られた。

守備に関しては所属クラブのやり方から変更点を確認して応用をきかせれば良いので、基本的な動き方ができてくれば、あとは強度や継続的な集中、セオリーを破られた場合の対処などが重要になってくるが、攻撃面はベースのスピードが上がると正確性を保つことに意識が行き、柔軟な判断がしにくくなってくる。ただ、スピードに慣れてくれば、その中での判断に余裕が生まれたり、時には速度を落とすなど、応用も利かせやすくなる。

今回は3日間でチームの方向性を再確認し、守備を中心に戦術理解を高めることが主な目的だろうが、欧州組が合流する二次予選の残り2試合、さらに先の最終予選に向けて、今回の合宿に参加した選手たちがどこまで高い意識を持ち帰れるかが、彼ら自身の代表定着とチームのレベルアップにつながる。筆者としてさらに取材を通してハリルホジッチ監督の狙いと選手の意識をチェックしていきたい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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