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誰でも簡単にできる新外国人選手の見極め術

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ソフトバンク入団が決まったジェンセン選手のデータもチェックできる

入れ替わりが激しい外国人選手

今やストーブリーグ真っ盛りのプロ野球。MLBほど選手の移籍が頻繁ではないとはいえ、こと外国人選手に関しては毎年多くの選手が入れ替わっている。

最近の傾向は、メジャーである程度の実績を残したベテラン選手よりも、メジャーに定着できていない20代後半のマイナー選手を獲得するチームが多くなっているように思う。

報道だけでは理解しにくい選手の実力

そんな選手たちが日本にやって来ると、メディアはマイナーでの通算成績だけをチェックして、例えば打者の場合なら「マイナー○発男」とか「マイナー屈指の長距離砲」などの肩書きをつけて報じるパターンがほとんど。しかし多くの選手が、前評判通りの成績を残せていないのが実情ではないだろうか。

マイナーリーグは差がある

ここに落とし穴がある。実はマイナーリーグはリーグによって「打高投低」「投高打低」の性質がはっきり分かれており、それぞれのマイナーの成績を単純比較できないのだ。

1つの例を紹介しよう。2011年から2014年途中まで建山義紀投手が米国挑戦していたが、2013年はシーズン途中でチームが変わったこともあり、同じ3Aながら2つのリーグに在籍していた。それぞれのリーグの成績をみると、パシフィック・コースト・リーグ(PCL)では23試合に登板し防御率は4.24だったの対し、インターナショナル・リーグ(IL)では21試合に登板し防御率は1.70だった。同じシーズンでありながらリーグの違いで、これだけの差が生じてしまうのだ。

もう理解してもらえただろう。マイナーの成績を鵜呑みにしてはいけないし、マイナー各リーグの特性を把握した上でないと選手の本質は見えてこないのだ。

公式サイトで簡単にチェック

日本にやって来る外国人選手の場合、基本3Aに在籍していた選手がほとんどなので、この「打高投亭の」のPCLと「投高打低」のILの相違を理解しておくだけでも全然違う。現在ではマイナーリーグの公式サイトで簡単に選手の個人データをチェックできるので、自分が知りたい選手の特徴をメディア以上に細かく把握することができる。

新入団のジェンセン選手は?

先日ソフトバンク入りが決まった、カイル・ジェンセン選手について調べてみよう。

公式サイトで彼の年度別成績をみてみると、一応2011年以降1Aから3Aまで、どのリーグでも毎年20本塁打、5割前後の長打率を記録しているのがわかる。つまりメディアの報道にあるように、「マイナー通算178発の長距離打者」というイメージに近い打者には間違いなさそうだ、という結論を導き出せるわけだ。ただ3Aでの成績はPCLのみなので、打者有利の成績だということは押さえておきたい。

多少余談になるが、この公式サイトではかなり細かいデータも網羅しているので、使い方次第では、さらに詳しく選手の特徴を見極めることができる。

ジェンセン選手の場合だと、基本的にはどのリーグでも2割5分前後の打率しか残していないが、ここ1、2年は左投手に対し抜群の成績を残しており、その分打率が良くなっているようだ。またどのシーズンも全体の打率は低い一方で、得点圏での打率、長打率が飛躍的に上がっており、彼がチャンスに強い打者だというのも即座に理解できる。

公式球にも違いが

さらに付け加えておくと、リーグの特性だけでなくボールの特性も理解しておくと、さらに判断材料が広がるはずだ。

メジャーもマイナーも同じローリングス社製を使用しているのだが、メジャー公式球はプエルトリコ製に対し、マイナー公式球(これはすべて同じ)は中国製なのだ。これもMLB球界では共通認識になっているのだが、メジャー公式球はマイナー公式球よりも飛ばないと言われている。

選手の中には、マイナーで抜群の成績を残しながらも、メジャーではまったく活躍できない場合が見受けられる。もちろん投手の実力差が一番の要因だと思うが、公式球の違いに適応できなかったりもしているのだ。

自分なりの選手評価も楽しみに

こうした裏事情を理解することで、より鮮明に選手の実像が浮かび上がってくる。今後入団してくる外国人選手の特徴を、ぜひ自分なりにチェックしてみると、ますます楽しみが増えてくるのではないだろうか。

ただ日本で活躍できるかどうか、本当に重要なのは、これまで体験したことがない新しい環境にしっかり適応できるかどうかだということは忘れてはならない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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