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NPBには真似できない?ジュニア層獲得に真剣に取り組むMLBの遠謀

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
選手会と手を携えてジュニア層の拡大を目指すロブ・マンフレッド・コミッショナー(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

日本ではジュニア層における野球人口の減少が問題視されるようになっている中、ボストン市とレッドソックスは25日、共同で声明を発表し、2017年にボストン市内にある4つのコミュニティセンター内に、野球/ソフトボール用の室内打撃ケージを設置する計画を明らかにした。

今回の計画に関し、マーティン・ウォルシュ市長は「野球はボストン市民にとって単なるスポーツではなくパッションだ。この施設がさらに市民や子供たちに野球を楽しむ機会を与ええくれることになる。1年を通じて子供たちに野球する機会を与えてくれる施設を建設してくれるレッドソックス基金に感謝したい」と謝意を表している。

市長の言葉通り、今回のプロジェクトはあくまでレッドソックスが中心となって実施されるものだ。米国のプロチームでは地域コミュニティへの貢献活動を行うための基金を設けているのが普通だが、レッドソックスも貢献活動の一環として基金を使用してのプロジェクトになっている。ただ今回はレッドソックス基金に留まらず、MLBと選手会が共同で立ち上げた基金「若手育成基金」も出資したことで、プロジェクトが実現したのだ。

「若手育成資金」とは、米国とカナダでアマチュアの野球及びソフトボールの普及、推進を目指し2015年に設立されたもので、MLBと選手会が合計3000万ドル(約34億円)を基金に出資している。今回も冬季に野球を続けるのが難しいボストンに室内打撃ケージの建設するということで、まさにMLBと選手会が目指している主旨に見事に合致しており、ロブ・マンフレッド・コミッショナーも「ボストンの子供たちに1年を通して“我々のスポーツ”を楽しんでもらえる施設を建設するプロジェクトに貢献でき嬉しく思っている」と歓迎している。

実はMLBのジュニア層の育成活動はこの基金だけに留まらない。米国内でも貧困層が集中するインナーシティ(郊外に引っ越す余裕のない家族が住む都会にある貧困地区を指す)に住む子供たちが気軽に野球を楽しめる環境を創出するため、まず手始めにロサンゼルス近郊のコンプトン市に「アーバン・ユース・アカデミー」を2006年に創設している。その後もアカデミーは各地に広がり、現在ではヒューストン、フィラデルフィア、シンシナティ、ニューオーリンズへと拡大し、子供たちが無償で野球を続ける場所を提供しているのだ。

ぞれぞれのアカデミーは地元チームも積極的に運営に携わり、ここでも地域密着型の貢献活動を繰り広げている。各アカデミーともに、1年を通して選手たちも参加しながらアカデミーを活用したイベントも実施するなどして、地域コミュニティに野球を根付かせようとしている。その活動は着実に成果を上げ、アカデミー出身者が強豪大学チームやプロに進出し始めているという。

今や日本ではジュニア層における野球人口の確保は喫緊の課題になろうとしている。プロ、アマチュアで棲み分けできる時代はもう終わった。MLBのように野球界全体の取り組みが必要になってきていないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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