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【検証】なぜ日本では大谷投手のWBC出場辞退が“騒動”になってしまうのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今回の大谷選手のWBC出場辞退が日本では大騒動になってしまった(写真:アフロスポーツ)

日本ハムがキャンプ地のアリゾナから大谷選手の投手としてのWBC出場辞退が発表されてからというもの、メディアも先頭に立ち社会問題でもあるかのような大騒ぎになってしまっている。だが今回の一件が本当に国中を騒がすような問題だったのか、いささか疑問を抱かずにはいられない。

メディアの中には、大谷選手の出場辞退は日本ハムではなく、侍ジャパンを組織するNPB側が発表するのが筋だという意見がある。確かに“形式”や“慣例”に従えばそうなるのだろうが、それは平時の時にそうした手順を踏むもので、非常事態や不測の事態の際にこだわってしまうと、かえって面倒になってしまうものだ。ちょっと例えが大袈裟かもしれないが、東日本大震災で発生した福島原発事故の民主党政権の対応の不味さをみれば一目瞭然だろう。

今回はまさに不測の事態だった。それに対処するのにポイントは2つに絞られていた。日本ハム側からすれば侍ジャパンに迷惑をかけないよう、1日も早く出場か、辞退の決断を下ささなければならなかったこと。一方のNPB側はすでに発表前に日本ハムから情報を掴んでいるのだから、不測の事態を粗相して代替選手を1日も早く決めるということだった。それさえ迅速に処置できれば良かったはずだ。

大谷選手に関しては、日本ハムは「選手を万全な状態で送り出す」責任があり、NPBは「選手をケガなく所属先に戻す」責任があった。この責任の比重に優劣などないし、本来はどちらが先に出場辞退を発表するかなんて何ら問題ではなかったはずだ。ここまで話がややこしくなったのは、メディアも含め皆が“平時”の形式に囚われすぎたためではなかろうか。

すでに日本ハムは発表前にNPBにある程度の状況を伝えていたのは紛れもない事実だ。たとえ発表が唐突だったとしても出場辞退の可能性はゼロではなったのだから、NPB側は「連絡の行き違いがあるのは確か」とか「詳細をまったく把握してない」と真っ先に反応するのではなく、単純に「すでに日本ハムからある程度の話を聞いていた。さらに情報収集しながら早急に対応したい」と皆が同様の発言をしていたのなら、ここまでの騒ぎにはなっていたかどうか。これもNPBが形式に囚われすぎた発想しかできなかったからのような気がしてならない。

海を渡った米国では、あれだけWBC出場が注目されていたマックス・シャーザー投手の出場辞退を発表したのは、米国代表のジョー・トーリGMではなく、所属チームのナショナルズからだった。それでも誰1人として「形式を踏んでいない」などと問題視していないし、大会開催前のこの時期だからこそ、選手の体調管理の責任を持つ所属チームからの発表に何の違和感も抱いていない。

そもそも米国代表はWBC出場選手をまだ正式発表してもいない。WBC側に登録選手を申請する2月6日(日本時間の2月7日)以降に発表する予定になっているようだ。残念ながら侍ジャパンが何からの都合で事前に出場選手の正式発表を決めてしまったのも、騒ぎの要因の一端になってしまったと言えるだろう。

すでに登録選手申請前に代替選手も決まった。とりあえず大谷選手の出場辞退に伴う措置はすべて完了した。今は問題をさらに検証すべき時ではなく、侍ジャパンの選手たちが大会に集中でき、気持ちよく戦える環境を整えることに集中してほしい。それがファンを楽しませてくれる唯一の道なのだから…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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