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「かましてやります!」再起を期してトライアウトに臨む元西武・星秀和

菊田康彦フリーランスライター

福岡ソフトバンクホークスが3年ぶりの日本一に輝き、メジャーリーグではサンフランシスコ・ジャイアンツが2年ぶりにワールドシリーズを制して、2014年の野球シーズンは日米ともに終わりを告げました。しかし、“再起”をかけて、これから戦いの舞台に臨む選手たちがいます。

右ヒジ手術から復帰した元西武・星は、今シーズンはBCリーグの群馬でプレー
右ヒジ手術から復帰した元西武・星は、今シーズンはBCリーグの群馬でプレー

11月9日に静岡・草薙球場で行われる「日本プロ野球12球団合同トライアウト」に参加する元埼玉西武ライオンズの星秀和選手も、その1人です。前橋工業高校から2005年に捕手として西武入りした星選手に筆者が初めて会ったのは、2007年のオフのことでした。プロ入りから3シーズンが過ぎ、まだ一軍での出場経験がなかった星選手はその頃、同僚の木村文和投手(現在は木村文紀=外野手)らとともにハワイのウインターリーグに参加していました。

当時の星選手は内野手。身長180センチ、体重78キロという数字以上にスリムな印象がありました。バッティングもセンスの良さは感じられるものの、メジャーリーガーの卵たちを相手にしてしまうと非力な感は否めず。後にボストン・レッドソックスのセットアッパーとして活躍するダニエル・バードの時速100マイル(約161キロ)のストレートに必死に食らいつきながらも打球が前に飛ばず、最後は空振り三振に倒れたシーンが強く記憶に残っています。

ハワイがきっかけになった「肉体改造」

それから4年近く経ち、2011年から外野手登録になった星選手に再会したのは、神宮球場で行われた交流戦でのことでした。以前と変わらない人懐っこい笑顔で近づいてきたその身体は見るからに大きく、ビルドアップされています。

「ハワイで悔しい思いをしましたからね。あれから鍛え始めたんです」

体重を92キロまで増やしながら、体脂肪率はダウンという「肉体改造」のきっかけをそう話してくれました。フリーバッティングではハワイの時とは見違えるような力強い打球を、左打席からガンガン飛ばしていたのが印象的でした。

その翌年にはかつてのミスター・タイガース、掛布雅之氏を模した打撃フォームで話題になり、自己最多の71試合に出場して待望のプロ初ホームランも放ちました。ところが、2013年の一軍出場はわずか12試合。原因は前年から痛めていた右ヒジにありました。その手術を決断した矢先に受けたのが、球団からの戦力外通告です。手術をしたのは10月17日で、当然トライアウトに参加することはできませんでした。

「来年のトライアウトに向けて、ヒジが治り次第、独立リーグの群馬でプレーすることが決まりました!」

そんな知らせが星選手から届いたのは、それから2カ月近くが経った頃でした。そこに至るまでにはさまざまな葛藤もあったようです。野球以外の道に進むという選択肢もあったようですが、「やっぱりまだ野球やりたいなって」と現役続行を決めました。

故郷・群馬で復帰、そしてトライアウトへ

そして、今年6月からプロ野球独立リーグ、ルートインBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスに外野手兼野手コーチ補佐として入団し、44試合の出場で打率.294、1本塁打、11打点、14盗塁を記録。群馬は上信越地区チャンピオンシップを制して石川ミリオンスターズとのBCリーグチャンピオンシップに駒を進め、そこで久しぶりに星選手に話を聞くことができました。いつもと同じ人懐っこいその笑顔からは、故郷のチームでのプレーを楽しんでいる様子が窺えました。ただし──。

「楽しいですよ。ファンの方も熱心に応援してくれますし、応援団の方は地方にもバスツアーで来てくれますからね。でも、自分は多少なりともプロ(NPB)を経験させてもらってるわけですから、驕るわけじゃないですけど、この環境に慣れちゃいけないという思いはあります」

群馬は石川を下してBCリーグ優勝を飾ったものの、独立リーグ・グランドチャンピオンシップで徳島インディゴソックスに敗れ、独立リーグ日本一を逃しました。ただし、星選手にとってはその先に今シーズンの最大の目標が控えています。

「この1年間、トライアウトを目標にやってきましたから。もちろんトライアウトを受けるだけじゃダメなんで。あくまで目標はNPB復帰ですから」

そのトライアウトを目前に控え、改めて星選手に近況を聞いてみると、ヒジの状態はもう万全とのこと。古巣・西武に練習施設を借りるなどして、調整も順調のようです。あとは“本番”を待つのみ──。

「当日になったら緊張もするかもしれないですけど、今のところはヘンな緊張感や気負いはないです。もう思いっ切りやります。かましてやりますよ!」

9年のNPB経験があるとはいえ、まだ27歳。紆余曲折を経て、今も「野球小僧」のような情熱を持ち続ける星選手の行く末を、今後も見守って行きたいと思います。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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