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松坂桃李演じる特殊能力をもった探偵とその闇はテッパン設定か。新番組「視覚探偵 日暮旅人」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
1月22日放送開始『視覚探偵 日暮旅人』より松坂桃李、濱田岳、住田萌乃

視覚だけに頼る特殊探偵・日暮旅人とは

聴覚、嗅覚、味覚、触覚を失い、視覚だけを頼りに生きる日暮旅人(松坂桃李)。だが、彼には特殊能力があった。唯一残った視覚が発達し、見えないもの(味やニオイや、ひとの感情まで)を視ることができるのだ。

その能力をフルに生かして「探し物探偵」をやっている旅人は、6歳の娘(住田萌乃)をもつ育メンでもあった。

原作はシリーズ累計75万部超えの人気ミステリー小説で、現在番外編も入れて10作が発売されている。この小説が最初にドラマ化されたのは2015年11月。日本テレビ「金曜ロードSHOW!」の枠(ジブリアニメをよく放送している)でスペシャルドラマとして放送され、視聴率は13.5%と評判が良かった。それを受けて、いよいよ連続ドラマ化された。

ベースは、特殊能力をもった探偵・旅人が様々な事件を解決するもので、そこに、実は血がつながっていないワケありの娘・灯衣や、彼女の保育園の保育士(多部未華子)や、旅人の仲間(濱田岳、上田竜也)、刑事(シシド・カフカ)、ちょっとエロい主治医(北大路欣也)などユニークなキャラクターが絡んでくる。とりわけ、旅人と血の繋がらない娘との結びつきがほっこりさせられる。娘役の住田萌乃のおしゃまな感じもいい。

旅人が見つけるのは、物理的な捜し物だけでなく、人と人との見えないつながり。目には見えない感情を旅人が視ることで、どこかに置き去りにされていた人間性が取り戻されていく……というヒューマニズムにあふれたストーリーだ。なにかと保育園がでてきて、その優しくカラフルな色合いに安心して身を委ねていると、徐々にそこにあやしい影が差してくる。

旅人が視覚以外の感覚を失ったわけは幼い頃のとある事件によるもので、娘はその事件と関係があるらしい。その事件とは何か。さらに旅人の唯一の感覚である視覚も、やがて失われるらしく、ほんとうはあまり駆使してはいけないにもかかわらず旅人は事件解決のために使ってしまう、という、ほっこりから一転、ざわざわと皮膚の下が騒ぐストーリーが用意されている。

主人公の光と闇、錦糸町という猥雑な街と保育園の組み合わせの妙

また、旅人は単なる身を挺して人を救う善人なだけではなく、いわゆる“ブラック旅人”を宿しているという。こういう二面性はある種のテッパン設定ではないか。松坂桃李はきゅっと結んだ口元や陰影をつくりだす目元が怜悧で、こういう影のある役が合う。視覚以外失われているというヘヴィーな設定にリアリティーをもたらすのはなかなか困難だが、リアル過ぎず、かといって嘘だろーって白ける感じでもなく、程よい塩梅になっている。

わりとしっかりした土台を、あとはどれだけいろいろな仕掛けで盛り上げてくれるか。演出は、仕掛けにかけて天才的な堤幸彦。『金田一少年の事件簿』、『トリック』シリーズ、『SPEC』シリーズなどの異能探偵によるミステリーものを大ヒットさせてきた堤、小ネタもギャグも映像の斬新さも、日曜よる10時30分(初回だけ10時から)とちょっと遅めの時間帯でわりと自由度が高そうな枠は相性が良さそうだ。錦糸町を舞台にして、いろいろな人が住んでいるアンダーグラウンドの猥雑さとファンシーな保育園を共存させているのはさすが。

堤のセンスをわかりやすく言うと、彼の地元・愛知(主に名古屋か)の名物・小倉トーストやあんかけパスタのように独特な素材の組み合わせだ。いったいなぜこういうことを考えたか首をかしげつつ意外とハマってしまう。ただ、それがハイブロウに行き過ぎることもあって、昨年の原案もつとめた演出作『神の舌を持つ男』は得意の異能探偵ものだったにもかかわらず、視聴率的には残念な結果となった。『日暮旅人』はテンポも若干ゆったりしていて置いてけぼり感がなく、いい感じにいろいろなサービスを楽しめるようになっている。いわば、コーヒー一杯で茹で卵やトーストがいただける名古屋特有のモーニングは誰だってうれしいよね、みたいな感じだ(念のため、名古屋のドラマではありません、錦糸町が舞台です)。

第1話は、ラストに堤幸彦の真骨頂が

1話は、ヤクザの組長から金庫破りの犯人探しを依頼されるエピソードと、旅人の娘・灯衣の保育園で、保育士の陽子(多部)が昔埋めたタイムカプセルを探すエピソードが絡めて描かれる。連ドラから参加する亀吉(上田竜也)が旅人の助っ人になるが、ヤクザとトラブルを起こし、そこに灯衣と陽子が巻き込まれてしまう。のっけから、旅人の目がいつまで保つのかという不安感と、タイムカプセルに隠されたとある秘密で、ぐいぐい世界に引き込む。

1月18日に行われた一般視聴者を招待した第1話先行試写のあとの堤幸彦と松坂桃李のトークショーで、昨年の11月から行われた撮影の途中、よりにもよって異例の雪に見舞われてしまったが、強行したと語られた。その雪のシーンは、大寒の頃に放送される1話にはピッタリであり、不思議な叙情ももたらしている。

面白いのは、雪にたたずむ旅人は、見ている方には寒そう〜なのだが、彼には寒いという感覚がないことだ。だからこの人物、いつもわりと薄着なので松坂は寒いのを耐えて撮影に励んでいるらしい。寒いといえば、上田竜也の役はいつもタンクトップという設定。彼もまた、1話で、とっても寒い目にあって、それも見ていて、うわ〜となる。

この、う〜〜寒そう〜〜という視聴者の感覚を旅人とは共有できない切なさが、旅人の抱える果てしない宿命に少しだけ近づける橋になる。そして、1話のラストである仕掛けが。なんというか、〈感覚〉に訴えかけてくるようにつくっているのは、見えないものや未知なるものに肉薄しようという挑戦か。わかりやすさが求められるテレビドラマに、感覚で勝負するアートのような手法を持ち込むところが堤の唯一無二なところだ。

ところが、この『視覚探偵 日暮旅人』は、これまでの堤作品とは決定的な違いがある。

それについては、近々、堤幸彦インタビューをお届けします。

ドラマ、舞台、映画と組んだ仕事の多い堤と松坂の息の合ったトークショーは盛り上がった
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監督の話をしっかり相槌打ちながら聞く松坂は、観客の質問にも真摯に耳を傾ける
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1月22日スタート

日曜ドラマ『視覚探偵日暮旅人』(日本テレビ 日よる10時30分 *1月22日の第1話のみ10時から)

原作:山口幸三郎『探偵・日暮旅人』シリーズ メディアワークス文庫(KADOKAWA刊)

脚本:福原充則

演出:堤幸彦 ほか 

出演:松坂桃李 多部未華子 濱田岳 木南晴夏 住田萌乃 和田聰宏 /上田竜也 シシド・カフカ/

木野花 北大路欣也 ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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