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『WBCで戦う危機管理の重要さ』

木村公一スポーツライター・作家

かつて「準備が大事」と説いたのは、野村克也元楽天監督だった。「ID野球とは、相手の情報を入手して戦うだけのことではない。その情報をもとに、どれだけ戦う前に準備が出来るか」。言い換えれば「ID野球、すなわち準備野球」であると。

今が、山本ジャパンの最初の「危機」

この準備というもの、(恐れ多いが)私流の解釈を加えさせて貰えれば「危機管理」だと言い換えても良いと思う。投手が好調で、打者もバリバリ打つ。それならコーチなど必要ない。監督だってただベンチに座っていればいい。大事なのは抑えられなくなったとき、打てなくなったときに、首脳陣がいかなる対処が出来るのか。とりわけ国際大会は時間がない。瞬時の判断が必要……。

以前には、そんな趣旨のこともこちらでは記した。だからこそ、監督は国際大会の経験がより豊富な人材、あるいは現職で“現場勘”が鈍っていない人がふさわしいと。

外から見る限り、大げさに言えば今回の山本ジャパンに最初の「危機」が今、訪れている気がする。だがそれは、誰が抑えをやるかどうかといった配置のレベルではない。現場では、合宿前から浅尾の状態の芳しくないことが伝えられていた。今でも摂津や牧田が抑えに廻るのではないか、といった観測も流れているが、大事なことは別にある。

結論から記せば、今の日本代表からはチームのビジョンというものが見えてこない。だから困ったとき、どうするのかという方向性も曖昧に見えてしまうのだ。与田、高代といった前回大会のコーチ経験者を登用したこと、主将を阿部にしたところまではいい。ところがその後が、見えてこない。どんなチームとして、どのような戦い方をするのか。それは監督の言葉で表すものではなく、グランドから立ち上がってくるべきことなのだ。しかし今回はそれが(今のところ)ない。

たとえば、まったくの私見ではあるが、抑えに田中マー君を据えていたらどうだったか。彼を据えただけで、チーム投手陣に一本の柱が立ったはずだ。彼は前回大会も経験している。昨日の対広島練習試合では、本人曰く、イマイチだったようだが、しかし彼なら大会までに修正してくると計算できる実績と信頼感がある。またマー君なら、かりに打たれ負けても誰もが「仕方がない」とも思えるはず。それは杉内であっても構わない。要は「いかに○○にバトンを渡すか」という方向性が、投手陣、ひいてはチーム全体に明確に伝わる。そうすればそこから逆算したリリーフ陣、先発という計算が建てられる。配置とは、とりわけWBCのような国際大会の起用とは、そういうものだと思う。

国際大会で大事な「配置」とは?

攻撃面でも、私は四番に阿部を据えることに懸念を感じる。代表の主将を任され、捕手を務めつつの四番。いつどこに破綻が来ても不思議ではない。私だったら主将は選手から信頼も厚い稲葉に任せ、負担を分散させるべきと思ったが……まあ起用や配置は監督の専権事項で言っても仕方がないことなのだが。それでも四番は別の選手がふさわしいと思う。四番阿部に固執するなら、捕手は他に任せるべきだ。それだけ国際大会での捕手は、想像以上の負担がある。まあ攻撃陣に関しては、機会があればまた改めて。

最終エントリーの発表は、当初の予定であった今日ではなく、20日に延びたという。だが2日延ばして選手の調子が急転するわけではない。結局、首脳陣が検討する時間を延ばしたと言うこと。言い換えれば、それだけ事前の準備……「浅尾がダメならこうする」というようなグランドデザインが、首脳陣の中で確立できていなかったと思わざるを得ない。

こんなときこそ、目先の対応策では意味がない。思い切った、そして「WBCはこう戦っていく」という方向性を示せるだけの、エントリー発表であることを望みたい。

スポーツライター・作家

獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテイターも。でもここでは国内野球はもちろん、他ジャンルのスポーツも記していければと思っています。

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