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北朝鮮はすでにノドンに搭載できる核弾頭を保有している 破綻したオバマ米政権の「忍耐戦略」

木村正人在英国際ジャーナリスト

北朝鮮の核・ミサイル問題に詳しい米コロンビア大学東アジア研究所のジョエル・ウィット上級調査研究員は6日、ロンドンの英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で講演した後、筆者の質問に応え、「北朝鮮はすでに日本の一部を射程に収める中距離弾道ミサイル・ノドン(射程1000キロ)に搭載できる核弾頭を保有している」と明言した。

北朝鮮問題に詳しいジョエル・ウィット上級調査研究員(木村正人撮影)
北朝鮮問題に詳しいジョエル・ウィット上級調査研究員(木村正人撮影)

「ノドンに搭載できる核弾頭の保有数は」という問いには「わからない」と言及を避けた。しかし、「ノドンはたくさん配備されているので一斉に発射されたら、どのミサイルに核弾頭を積んでいるのか見分けることができない。ミサイル防衛(MD)は役に立たないのでは」という筆者の疑問に「まさに、そこが問題だ」と日米が誇るMDの傘にすでに穴が開いていることを認めた。

米国務次官補代理として大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)にかかわったことがあるIISS軍縮・核不拡散プログラム部長のマーク・フィッツパトリック氏は筆者のインタビューに「3回目の核実験の狙いはノドンに搭載できる核弾頭がうまく爆発するか確かめることだ」と解説していた。北朝鮮の核・ミサイル開発は日本にとって危機の段階に突入した。

ウィット氏はIISSでの講演で、北朝鮮がミサイル基地に大型の燃料タンクを建設しており、完成すれば、現在、発射できるミサイルの3~4倍大きなミサイルを発射できるようになると指摘した。最悪の想定では、北朝鮮は2016年までに50個の核兵器を保有しているという。

再選を果たしたオバマ米大統領は1期目の4年間、「忍耐戦略」と称して北朝鮮への経済制裁を強化して、金正日、金正恩体制の崩壊を待つ持久作戦をとってきたが、北朝鮮の核・ミサイル開発の進行を止めることはできなかった。

北朝鮮は米国に到達する大陸間弾道ミサイルの開発に5年内には成功しないと指摘されており、北朝鮮の核・ミサイルは米国本土の安全保障にとって直接の脅威にはなっていない。

ウィット氏の分析が間違っていなければ、韓国や日本はすでに北朝鮮の核・ミサイルの射程内にとらえられており、日本が頼みにするMDも、北朝鮮が約200基配備するノドンの前には、すぐに破れる障子紙に等しくなる。

2期目のオバマ大統領は、レガシー(遺産)づくりのためアフガニスタンからの撤収や、財政再建など内政問題に集中するとの見方が強く、1期目の「忍耐戦略」という持久作戦を継続すれば、北朝鮮の核・ミサイル能力はさらに強大化するのは必至だ。

オバマ大統領が対北朝鮮政策を誤った背景には5つの間違った「神話」があるとウィット氏は分析する。

その一、北朝鮮は破綻国家だ。核兵器と経済発展のどちらかを選ぶはずだ。

〈しかし、北朝鮮は核兵器を手にして、非常にゆっくりとだが経済発展も実現している。体制は意外に強固という分析もある〉

その二、北朝鮮は合意を守らない。

〈北朝鮮は「朝鮮半島エネルギー開発機構」(KEDO、1995年設立)の枠組みで米国との合意に応じて、最大で100個の核兵器を製造できる計画を一時、凍結するなど、北朝鮮が必ずしも合意を破るとは限らない〉

その三、北朝鮮は孤立した王国だ。

〈中国と緊密な関係を持ち、留学生や海外研修を実施している。平壌に最大のホテルを開くためドイツのホテルグループと契約した〉

その四、北朝鮮の指導者は理性を持たない。

〈核開発で協力を受けていたソ連が崩壊した1990年代は米朝合意に従うふりをしながら時間を稼ぎ、中国との関係を強化する一方で、密かに核開発を進めた。極めて合理的で、パワー・ポリティクスを実践するリアリストだ〉

その五、中国は米国のためには北朝鮮問題の解決に取り組まない。

〈米国が北朝鮮の核開発に関心を持っている以上に、中国は北朝鮮との国境周辺の安定に重大な関心を持っている〉

ウィット氏は講演の中で「北朝鮮の核・ミサイル問題は2期目を迎えたオバマ政権の最初の危機になる恐れがある」と予測、制裁の手を緩めることなく、シニアレベルの交渉を開始するなど外交努力や韓国との連携を強化、中国にも働きかけるなどして、北朝鮮の核・ミサイル開発に歯止めをかけることに全力を挙げなければならないと指摘した。

ウィット氏は米国務省に15年にわたって勤務、北朝鮮が核兵器の原料となるプルトニウムの生産が容易な黒鉛減速炉の活動を凍結・解体することを条件に、監視の目が届きやすくプルトニウムの生産が難しい軽水炉2基の建設と、年間50万トンの重油の供給を約束した「朝鮮半島エネルギー開発機構」(KEDO)にかかわった。

2002年、北朝鮮がウラン濃縮計画を認めたため、KEDOの枠組みは崩壊した。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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