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オバマを試す北朝鮮の4度目の核実験!?【日米首脳会談】

木村正人在英国際ジャーナリスト

東京・銀座のすし店「すきやばし次郎」で23日夜、「人生の中で一番おいしいすし」を堪能したアメリカのオバマ大統領。

24日の日米首脳会談後の記者会見では「北朝鮮の核による挑発に対抗する。日本人の拉致問題にも対処する。北朝鮮の無責任な行為を封じ、プレッシャーをかけ続ける」と断言した。

北朝鮮の金正恩第1書記は、オバマの覚悟を試そうと手ぐすねを引いている。

韓国国防省報道官は24日の定例記者会見で、改めて北朝鮮が韓国への軍事挑発を暗示するメッセージを出していることを明らかにした。

北朝鮮北東部豊渓里(プンゲリ)の核実験場では、実験準備の動きが活発化し、報道官は22日の会見でも、「北朝鮮は、4月30日までに大きなことが起きるというメッセージを発している」と発表していた。

オバマのアジア歴訪日程は次の通りだ。

23日 東京到着

24日 天皇陛下に謁見、日米首脳会談

25日 ソウル到着、米韓首脳会談

26日 マレーシア・クアラルンプールへ

27日 ナジブ首相と会談

28日 フィリピン・マニラに移動。アキノ大統領と会談

29日 ワシントンへ

オバマのアジア歴訪中に、北朝鮮が4回目の核実験を強行すれば、これ以上ない挑発となる。その可能性について、核問題に詳しい英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック部長に質問した。

米国務次官補代理として大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)にかかわったこともあるフィッツパトリック部長は知日派で、朝鮮半島情勢にも通じている。

「核実験に向けた準備は過去3度にわたる実験と比べた場合、最終段階に達しているとは言えない。しかし、準備が進められているのは間違いない。もし数日中にないなら、これから数カ月の間に北朝鮮が4度目の核実験を行うと確信している」

「3月30日に北朝鮮は新しい種類の核実験を否定しないと警告を発している。北朝鮮はこのところ、4月30日までに大きなことが起きるというシグナルを出している。こうしたレトリックが4度目の核実験を意味していることに疑いを差し挟む余地はない」

「議論が残るのは北朝鮮のロジックだ。中距離弾道ミサイルのノドンや短距離弾道ミサイルのスカッドに搭載できる信頼性の高い核兵器を保有する北朝鮮の決意は変わらない。軍部はこの目的を達成するため、さらなる核実験を求めている」

「軍部のロジックのほか、政治的なロジックもある。核実験は金正恩が権力の求心力を強め、張成沢の処刑で明らかになった内部対立を克服する助けになる。しかし、外交や経済的なロジックはどうなのか」

「中国は4度目の核実験でフラストレーションを高め、北朝鮮に対する経済制裁に傾くだろう。にもかかわらず、政治的なロジックが優先される。4度目の核実験を強行すれば緊張が高まり、外圧が強まる。それを口実として、金正恩は自分に対する忠誠を要求することができるからだ」

米ジョンズ・ホプキンス大学が運営する北朝鮮専門ウェブサイト「38ノース」は22日、「19日に撮影された写真を分析した結果、準備の初期段階で、核実験が差し迫ったという兆候はない」と分析した。

これに対し、商業衛星よりも精密な衛星写真を分析したという韓国国防省当局者は22日、韓国メディアに「ボタンさえ押せば良い状況だ」という認識を示している。どちらが正しいのかは、まだわからない。

米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)の23日発表によると、寧辺(ヨンビョン)にある5メガワット原子炉施設の拡張工事が完了し、遠心分離機の増設が始まった可能性が強いという。

施設からの排水も確認され、原子炉は稼働しているとみられている。この施設で製造される低濃縮ウランからは核兵器の原料となる高濃縮ウランをつくることができる。北朝鮮の核開発は休むことなく加速しているのが現実だ。

4月17、18日の両日、アメリカの国防総省で日米韓3カ国の防衛協力のため日米韓防衛実務者協議(DTT)が開かれた。日本の防衛政策局長、アメリカの国防長官首席補佐官、韓国の国防省国防政策室長らが膝を突き合わせた。

「北朝鮮を核保有国として認めない」ことを再確認し、北朝鮮の核・ミサイル開発など挑発行為を抑止するため緊密に連携していくことで一致した。4度目の核実験がDTTにとって試金石となる。

北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける限り、ご褒美はやらないというオバマの「戦略的忍耐」はまったく成果をあげていない。そんな中、ロシアは北朝鮮の債務を9割免除することで合意した。

ロシアのプーチン大統領はシリア内戦、米国家安全保障局(NSA)の機密ファイルを暴露したエドワード・スノーデン容疑者引き渡し、ウクライナ問題をめぐって、オバマとことごとく対立している。北朝鮮問題でも反目する危険性がある。

一方、中国は北朝鮮を追い詰めれば金正恩の挑発行為がエスカレートするとして、これまで通り、のらりくらりの対応に終始している。

先代の金正日総書記に比べ、権力基盤が怪しい金正恩は緊張をあおって、求心力を高めるロジックに走るのは間違いない。

オバマの手には、日米韓による軍事演習や、核爆弾投下可能な戦略爆撃機B52、ステルス爆撃機B2、最先端ステルス戦闘機F22を韓国に展開するというカードがある。こうしたカードで中国を動かせるか、どうか。

4度目の核実験は東アジアの不安定さを増すが、皮肉なことに、従軍慰安婦、靖国問題で暗礁に乗り上げている日韓関係を少しは修復するかもしれない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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