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北朝鮮 4度目核実験は2発同時か【オバマ・アジア歴訪】

木村正人在英国際ジャーナリスト

米ジョンズ・ホプキンス大学が運営する北朝鮮専門ウェブサイト「38ノース」のニック・ハンセン研究員は24日、アメリカの政府系メディア、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、4度目の核実験は同時多発の可能性があると指摘した。

スタンフォード大学国際安全保障・協力センターのアナリストも務めるハンセン研究員は、北朝鮮が「新しい種類の核実験」に言及していることについて、「2つの核爆弾を同時に爆発させるか、それに極めて近い可能性がある」と分析している。

同時多発実験は過去にパキスタンも実施している。過去3度の実験が行われた北朝鮮北東部豊渓里(プンゲリ)の核実験場では2本のトンネルが完成しており、この2つのトンネルを使って2つの核爆弾を同時に爆発させることができるという。

北朝鮮は1度目と2度目でプルトニウム型、3度目は高濃縮ウラン型を実験したとみられるが、4度目はプルトニウム型と高濃縮ウラン型を同時に行うつもりなのかもしれない。

1発より2発を同時に爆発させた方が国際社会、アメリカのオバマ大統領、韓国の朴槿恵大統領に与える衝撃が大きくなる。それが北朝鮮の金正恩第1書記の新たな「瀬戸際戦略」なのだろうか。

米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト所長はVOAのインタビューに、「北朝鮮が核弾頭を(弾道ミサイルに搭載できるよう)小型化するために、さらなる実験を行う必要はない」と述べ、「北朝鮮は小型化核弾頭をパキスタンか中国からすでに手に入れている可能性があるからだ」との見方を示している。

一方、「38ノース」のジャック・リュウ研究員は24日、前回22日の「19日に撮影された写真を分析した結果、準備の初期段階で、核実験が差し迫ったという兆候はない」という分析を変更、23日に撮影された衛星写真の分析から、2~3日中にも4度目の核実験が行われる可能性を強く示唆した。

完成した2本のトンネルの入り口付近で車両や資材搬入の動きが活発化している。昨年2月に行われた3度目の核実験では、実験の2~3日前、準備活動はピークを迎えていた。

今回も同じ経緯をたどれば、オバマの訪韓中かその直後に4度目の核実験が行われる恐れがあるという。核実験場と別の施設を結ぶ車両も前回同様、確認され、トラックがトンネルと支援エリアの間を移動しているという。

北朝鮮の核兵器について、アメリカの情報機関はISISのオルブライト所長の見解と異なり、「弾道ミサイルに搭載できるような小型化には成功していない」とみている。小型化までには、まだ大きな壁があるとの認識だ。

米紙ニューヨーク・タイムズのデービッド・サンガー記者の報告によると、表向き北朝鮮を事実上の核兵器保有国とは認めていないアメリカ政府だが、実は、核兵器能力を持った敵国と北朝鮮をみなした上で、有事作戦計画を立てているという。

北朝鮮有事に備えてアメリカと韓国が策定した作戦計画5029では、北朝鮮がおそらく船舶かトラックで核爆弾を搬送してくることを想定しているようだ。

前回のエントリーでも指摘したように、オバマの「戦略的忍耐」はまったく機能していない。アメリカの国家安全保障会議(NSC)で政策を再検討した結果、「戦略的忍耐」以外の政策をとるとしたら、さらに状況は悪くなるという。

そもそも戦略の出発点が間違っていたのだろう。核兵器を持つ破滅の道を進むのか、それとも核兵器計画を捨てて経済的な繁栄を選ぶのか。オバマ政権は北朝鮮が合理的に後者を選ぶと考えた。

しかし、北朝鮮は破滅を覚悟の上で、核兵器を選んだ。そこにアメリカの対北朝鮮政策の致命的な判断ミスがあった。

大量破壊兵器計画を捨て欧米諸国と協調したものの、最後は見捨てられたリビアのカダフィ大佐。その哀れな末路を金正恩は胸に刻んでいる。核開発をめぐり対話路線に転換したイランには経済制裁が効いたが、北朝鮮の背後には中国が控えている。

安倍晋三首相は25日、「力による現状変更に反対する。沖縄・尖閣諸島は日米安保条約5条の適用範囲である。集団的自衛権については(米国が)歓迎し、支持する。この3点を書き込めた」と胸を張った。

オバマの訪韓中に金正恩が4度目の核実験を強行するとしたら、そこに中国の意図も働いていると考えるのは筆者の勘ぐり過ぎだろうか。中国が日本を揺さぶるカードは尖閣だけではない。

北朝鮮の核・ミサイル開発に加え、貿易・経済、天然資源へのアクセスに対する妨害、戦後賠償、通信衛星・サイバー攻撃、歴史カードなど中国の持ち札はいくらでもある。日米首脳会談の成果に浮かれるのは早すぎる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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