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PC遠隔操作 ブラックハットの片山被告をホワイトハットに

木村正人在英国際ジャーナリスト

パソコン(PC)遠隔操作事件で、保釈を取り消された片山祐輔被告(32)の公判が22日、東京地裁で開かれた。片山被告は起訴事実をすべて認めた上で、誤認逮捕された人たちに謝罪した。

他人のPCを遠隔操作してインターネットの掲示板などに殺害や爆破の予告を書き込む手口は悪質で社会への影響も大きく、「愉快犯」では済まされない性質のものだ。

NHKのニュースサイトによると、佐藤博史弁護士は記者会見で「被告に自分がしたことの重大さを感じさせるためには、一連の事件の被害者を証人として出廷してもらうことが極めて重要になる」と述べたそうだ。

発信力のあるブログを集めたサイト「BLOGOS」に掲載された筆者のエントリー「PC遠隔操作の片山被告が残した教訓」にMain Endoさんが下さったコメントが興味深い。

よくサイバー犯罪に手を染める人々の特徴として、「高い知能と低い社会性」などと言われます。(略)(1)片山氏の技術は、実際どの程度のもの?少なくとも本人の主張よりは高い技術を持っていたらしい。それを活かした更生は可能なのでしょうか。

第二の片山氏は、社会にゾロゾロいるのでは、という気がします。(略)片山氏のような人材を、逆の発想で利用できないか、というのが主旨です。もちろん違法行為を防ぐことは大前提として。オタク文化が栄える、日本ならではの受け皿のような物が作れるのではないかと思いました。

インターネットでは、原稿が掲載されて仕事が終わるのではなく、それから始まるのだと良く言われるが、その通りだと思う。読者の中には自分より知識や経験、見識を持った方がたくさんおられるからだ。

Endoさんのコメントを読んで、スピルバーグ監督、レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスがコミカルに共演した2002年公開の米国映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』を思い浮かべた。

映画は、偽造小切手を使った世紀の詐欺師フランク・アバグネイル氏の実話をもとに製作された。アバグネイル氏は21歳で逮捕されたが、その後、詐欺や偽造の天才的才能を生かして米連邦捜査局(FBI)の学校で講師を務めたり、金融犯罪対策のコンサルタント会社を経営したりしている。

日本でサイバーセキュリティに従事する技術者は約26万5千人で、約8万人の人材が不足している。しかも、約26万5千人のうち、十分なレベルに達しているのは10万5千人強しかいないという。

スノーデン事件で悪名を馳せた米国家安全保障局(NSA)のアレクサンダー前長官は「すべてを収集せよ」の台詞で一躍有名になったが、人材確保にも非常に熱心だった。

ハッカー会議「Def Con」などで「皆さんは世界のサイバーセキュリティコミュニティの最高の人材だ。米国の重要インフラの脆弱性を指摘してもらえると助かる」と呼びかけた。

NSAは大学と協力してハッキングコンテストも開催している。もちろん、ハッカー側からは市民監視プログラムのお手伝いをするのは真っ平御免という意見が噴出しているのだが。

ブラックハット(悪意をもって攻撃を行うハッカー)をホワイトハット(サイバーセキュリティ向上のため高度な技術を駆使するハッカー)に転向させ、育ていく視点も欠かせない。

事件も逮捕、起訴して裁いて終わりではなく、更生、犯罪防止を実現していかなければならない。ブラックハットだった片山被告がホワイトハットになってくれれば、と願うのは甘っちょろい議論だろうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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