今のままなら500年で最大6.63m海面上昇 東京湾も影響 日本も温暖化対策急げ
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が地球温暖化の科学的な評価と対策を盛り込んだ第5次統合報告書を公表した。温室効果ガスの排出が今のまま続けば2500年には世界の平均気温は約7度、海面水位も最大で6.63メートル上昇するという。
15年末にパリで開く第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で2020年以降の新たな国際枠組みの合意を目指すが、日本国内では議論が盛り上がらない。福島事故の後遺症で原発再稼働のメドが立たず、温暖化対策の数値目標どころではないからだ。
ロンドンにあるシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で3、4日の両日、気候変動の国際会議が開かれた。国際枠組みのためのさまざまな工夫や温暖化対策の方法が熱心に議論された。
言わずもがなのことだが、日本も温暖化による異常気象と無縁ではいられない。
経済開発協力機構(OECD)が2007年に、地球温暖化による異常気象が都市に与えるリスクを予測したことがある。
100万人以上が暮らす世界136の都市について2070年代までに年超過確率100分の1の(一定の規模を超える現象が発生する確率が毎年1%ある)異常気象に見舞われた場合の被害を算定し、ランク付けした。
それによると2070年代時点で最も危機にさらされている都市は―。
(1)米国・マイアミ、3兆5130億ドル(07年時点、4162億ドル)
(2)中国・広州市、3兆3577億ドル(841億ドル)
(3)米国・ニューヨーク、2兆1473億ドル(3202億ドル)
(4)インド・コルカタ、1兆9614億ドル(319億ドル)
(5)中国・上海、1兆7711億ドル(728億ドル)
(6)インド・ムンバイ、1兆5980億ドル(462億ドル)
(7)中国・天津市、1兆2314億ドル(296億ドル)
(8)東京、1兆2070億ドル(1742億ドル)
(9)中国・香港、1兆1638億ドル(359億ドル)
(10)タイ・バンコク、1兆1175億ドル(387億ドル)
(13)大阪・神戸、9689億ドル(2156億ドル)
(17)名古屋、6234億ドル(1092億ドル)
日本からは東京、大阪・神戸、名古屋の3都市が地球温暖化による海面上昇や台風、高波などの異常気象にさらされる危険な都市のトップ20に入っている。
海面上昇や洪水などる異常気象の危険にさらされているのは南太平洋のキリバスやツバル、バングラデシュだけではない。世界中の主要都市が大きなリスクを抱えている。
ゼロメートル地帯が広がる三大湾(東京湾・伊勢湾・大阪湾)で海面が 60センチ上昇するとゼロメートル地帯の面積は559平方キロメートルから861平方キロメートルに、影響人口も388万人から576万人に、それぞれ5割拡大する。
台風による高波のリスクもある。
海面が60センチ上昇、室戸台風級の台風が東京湾を直撃し、水門がすべて開放されたままで閉鎖できない最悪シナリオの場合、どうなるか。国土交通省港湾局が詳細に検討している。
浸水面積は約280万平方キロメートル。浸水区域内の人口は140万人。浸水が2週間以上続く面積は約51平方キロメートル。死者は最大約7600人(避難率0%)に達し、孤立するのは最大約80万人。
避難率を80%まで向上させれば、死者は1500人に、孤立者も約16万人に減少させられるという。しかし、一番大切なのは日本が自発的に温暖化対策に取り組むことだ。
福島事故で石油・天然ガスを使った火力発電が増えた日本は、昨年ポーランド・ワルシャワで開かれたCOP19で、「2005年度比3.8%減」という20年までの削減目標を発表した。京都議定書の基準年(1990年)でみると実質「3.1%増」となり、「いくらなんでも消極的すぎる」という批判の声が上がった。
温室効果ガスの削減目標を早く出してたたかれるより、様子を見ながら来年の半ばぐらいに出せばいいという見方もあるが、日本の姿勢からは当事者意識はまったく感じられない。
ドイツのHans Joachim Schellnhuberポツダム気候インパクト調査研究所教授は筆者の取材に「東京は世界経済のハブ。東日本大震災で世界のサプライチェーンが止まりました。異常気象が東京湾を襲ったら、それ以上の影響が出る。大変な時期だということはわかりますが、温暖化をスローダウンさせる取り組みが不可欠です」と話す。
欧州連合(EU)首脳会議は、2030年までに温暖化ガス排出量を1990年比で40%削減する目標で合意した。さて、日本は。排出大国の米国と中国の出方を見ながら決めるのが賢明なのか。
日本は少なくとも中国より積極的な姿勢を示すべきだと思うのだが。
(おわり)