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【大阪都構想・否決】「これ以上できないというところまでやった」橋下市長は政界引退

木村正人在英国際ジャーナリスト

大阪市を廃止し、5つの特別区に分割する「大阪都構想」の住民投票は17日、賛成69万4844票(49.6%)、反対70万5585票で否決された。1万741票差だった。投票率は66.83%で、2011年の府知事・市長選のダブル選(60.92%)を上回った。

大阪市選管データより筆者作成
大阪市選管データより筆者作成

都構想を推進してきた橋下徹大阪市長は記者会見で、住民投票の結果を「大変重く受け止めます。大阪都構想は受け入れられなかった。間違っていたということになるんでしょうね」と述べ、今年12月の任期満了で政界を引退し、一介の弁護士に戻る考えを表明した。

橋下市長は「僕自身に対する批判もあるでしょうし、都構想についてしっかり説明し切れなかった」「70万人が賛成したが、負けは負け。戦を仕掛けて叩き潰すと言って叩き潰されたわけですから」と爽やかな表情で語った。

「住民の皆さんの気持ちを汲み取れていなかった。僕はワンポイントリリーフの実務家。政治家は嫌われてはいけない。僕みたいに敵をつくる政治家が長くやるのは危険。8年前は僕のような政治家が必要だったが、今ではそうではありません」

「大阪府知事になって2年目に都構想しかないと考えた」「現状に対する相当な不平や不満がなければ、なかなか変化に行かない。この7年半で皆さんに安定感を与えることができた。大阪府政と大阪市政の改革が進んだので、(逆に)強烈な変革を求められなかった」

明治中期、全国一の紡績都市となり「東洋のマンチェスター」と呼ばれた大阪がここまで衰退した原因について、橋下市長は「市域の拡張に失敗した。東京は東京市を廃止して都制を敷いた」と断言。大阪府を1つの都市の塊として発展させていこうと考えたと振り返った。

大阪「都」という制度にこだわり過ぎたという批判に対しては「政策や首都機能移転について考えるのは役所。だから器を先につくる必要がある」と都構想の意義を改めて強調。「権限と財源を取ってくるというのは政治闘争。地域政党の力がいる」と持論を展開した。

しかし、大阪市長ポストと大阪市議会、大阪府知事ポストと大阪府議会、さらには堺市長ポストと堺市議会など大阪市周辺の基礎自治体へと政治闘争を拡大させたことで、自民党や公明党など既存政党との対立を決定的にしてしまった。

筆者作成
筆者作成

大阪市の1人当りの所得はかつては東京都に次いで全国2番目だったが、今では他の政令指定都市の仙台市、福岡市、名古屋市にも抜かれている。リーマン・ショックのあと、大阪市の地盤沈下は一段と著しくなっている。

帝国データバンク資料をもとに筆者作成
帝国データバンク資料をもとに筆者作成

帝国データバンクの2012年調査では、02~11年までの10年間で大阪府から転出した企業の売上高合計は14兆683億円。転入してきた企業のそれを10兆6183億円も上回っていた。同時期、大阪府に本社機能を持つ企業は1154社も減ったが、兵庫県、奈良県、滋賀県はそれぞれ288社、152社、75社増やしている。

本社移転の増減ランキングでは大阪府は10年連続マイナスの全国46位。逆に兵庫県や奈良県は10年連続プラスで4位と6位につけている。大阪府の地盤沈下は関西の中でも断トツである。

自民党大阪府連の議員団は記者会見で「この7年半で大阪の地盤沈下が進んだのは、橋下市長が都構想という制度論に始終したからだ」と橋下市長と大阪維新の会の政治手法を批判した。しかし、大阪の地盤沈下は橋下市長が府知事選に出馬する前から始まっていた。

記者会見で、大阪府知事選出馬の際に背中を押してくれたやしきたかじんさん(昨年1月死去)について質問され、橋下市長は「これ以上できないというところまでやったという自負はある。たかじんさんも分かってくれると思います」としんみりと話した。

「(北野高校時代の)ラグビー、司法試験と比べても今回はやりきった」「昔の茶髪と色眼鏡に戻れと言われても、顔がしわくちゃでもう戻れない」「体調は絶好調ですが、政治家として顔に疲れが出始めている」「日本の民主主義は相当レベルが上がったと思う」「こういう言い方は不謹慎かもしれないが、政治家冥利に尽きる活動をやらせてもらった。本当にありがとうございました」

都構想が住民投票で否決されたことで、今後、大阪維新の会は自民党や公明党との話し合い路線に転換する方針だ。府と市の間に「調整会議」を設けて二重行政の解消を調整する一方、大阪市24区を「総合区」(区長は議会承認が必要な特別職)にして権限を拡大する方向で協議を進めるとみられる。

しかし、大阪は改革のエンジンを失った。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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