これがグーグルの採用術だ!「学歴は関係ない」人事トップが語った10の鉄則
1千倍の狭き門
年に200万~300万人から求職が寄せられるグーグルの人事トップ、ラスズロ・ボック氏が『Work Rules!(筆者仮訳:グーグルの働き方)』 の出版に合わせ、18日、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で講演した。
1998年にラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏がグーグルを創業した際、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにすること」という会社の目的を掲げた。
ボック氏は新著で「グーグルはこれまで一度たりともこの目的を達成していない。なぜなら整理する情報は常に増殖し、それを活用する方法も増え続けているからだ」と指摘している。
グーグルの使命は会社の利益や市場、顧客、株主、ユーザーについて触れておらず、グーグルそのものについても説明してない。グーグルにとって大切なのは、ビジネスのゴールより価値観だからだ。自動運転車の開発に取り組むなど、グーグルの探究心には限りがない。
グーグルの今年1~3月期決算は、売上高が前年同期比12%増の172億5800万ドル、純利益が4%増の35億8600万ドル。社員数は3月末時点で約5万5400人。グーグルに採用されるのは求職者1千人につき、たった1人という狭き門だ。
グーグルがイノベーションを持続させるため世界中から最高の人材を採用する秘訣、才能を「見つける」「育てる」「キープする」10の鉄則をボック氏の講演や著書から紹介しよう。
仕事を苦痛に感じている人は世界中にいったい、どれぐらいいるだろう。大半の人が「仕事は人生の墓場」「惨めな経験」と嘆いているかもしれない。しかし、人は1日のうち一番長い時間を仕事に割いている。
ボック氏はこう記す。
「コンスタントにイノベーションを起こし、新しい地平に進んでいく動機をグーグルの使命は作り出している」
「もし使命が市場のトップを目指すことだったら、いったん達成されてしまったら、新たなインスピレーションはほとんど生み出さない。グーグルはスピードメーターよりコンパス(方向性)を大切にしている」
大卒は社員の半数
グーグルは当初、著名大学を卒業している若者を優秀な人材と考えて採用してきた。しかし2006年、人事のプロとしてゼネラル・エレクトリック(GE)のグループ企業からグーグルにやって来たボック氏と人事チームはデータを集め、社員の学歴とグーグルでのパフォーマンスの相関関係を調べた。
その結果、大学のブランドと仕事のパフォーマンスにはまったく関係がなかった。大学の成績も参考にならなかった。過去の「A」は現在のパフォーマンスがAであることを意味しない。「たくさんのデータを集めると、労働市場がこれまでと違う顔を見せ始める」(ボック氏)
今でも多くの企業が採用時の面接で、徹底的なインタビューを繰り返し、難問を求職者に突きつける。しかし、日々の仕事を通じて自分自身を動機付けていくことができる人材の芽を、古い固定観念や偏見に凝り固まった面接で潰してしまっている。
グーグルにとって大切なのは過去の「A」より瑞々しい好奇心だ。好奇心を持った人は仕事から学ぶため、入社後の社内トレーニングをあまり必要としない。グーグルの採用にはあらゆるデータが活用されている。
米紙ニューヨーク・タイムズの著名コラムニスト、トーマス・フリードマン氏によると、グーグルの社員の半数は大学の学位を持っていない。
奇妙な男と女のセオリー
例えば、こんな奇妙なグーグルの採用セオリーがある。エンジニアの求職者が男性で5点中、最高の5点と自己採点した場合、採用しない。4点をつけた男性は自分のことを客観的に評価でき、チームで仕事ができる資質を備えている。自信過剰の男性は禁物だ。トラブルのもとだ。
しかし女性の場合は話がまったく違ってくる。自己採点で5点をつけた女性は大化けする。女性は常日頃、社会的な圧力にさらされているため、控え目で、慎み深いからだ。5点でも実際にはそれ以上のパフォーマンスを発揮する可能性が大きい。
(1)社員に働く意味を与えよう
もし地球上で最も才能あふれる人を集めたかったら、彼らを鼓舞するゴールを設ける必要がある。誰もが働くパーパスを求めている。企業のパーパスが強力な磁力となる。
(2)社員を信頼して任せよう
透明性を高めること。社員がオーナーのように考えて行動するよう勇気づけよう。社員が正しいことをすると単純に信頼できたとき、社員の成し遂げられることにあなたは驚くだろう。
がんじがらめにコントロールされた衣服工場より労働者が自主的に運営する工場の方が労働者の自由度と生産性が上昇するだけでなく、賃金は上昇し、コストは下がるという法則がある。
(3)あなたより優秀な社員を採用しよう
最も優秀な人材を見つけようと思ったら、待たなければいけない。基準を高めて、採用する人材の質については絶対に妥協しないこと。間違った採用は有害だ。
(4)報酬を研究・開発のインセンティブにしてはいけない
研究・開発を促進するため報酬をインセンティブにすると、一時的にモチベーションを上げることはできる。しかし、インセンティブがなくなると、モチベーションは急速にしぼんでしまう。報酬と研究・開発の話を一緒にすると、社員は学習しなくなる。
(5)最悪と最高の2つに注目すること
パフォーマンスの低い社員には学習や新しい仕事を見つける手助けをすることを伝えよう(それでもダメな場合は解雇)。社員を驚かせてはいけない。また成功した社員についてはなぜ成功したかを分析しよう。
(6)つましく、寛大であれ
社員にとってあなたができる最も意味のあることは自由にさせることだ。または自由に近づけることだ。それが避けて通れなくなるまで厳しいチェックは置いておくこと。
(7)報酬は公平にしないこと
平均的な社員より突出して価値のある優秀な人材には、それが実感できる報酬を与えよう。そうでないと彼らに辞める理由を与えることになる。
(8)小さなことを大切にしよう
小さなシグナルは大きな行動の変化をもたらす可能性がある。世界で8つの病院を経営する米国の外科医アトゥール・ガワンデ氏は2007~08年、手術前に安全を確かめるチェックリストを加えただけで、患者の死亡率を半減させた。
(9)高まる期待をマネージしよう
人は複雑で刺々しく、ややこしい。すべての人を満足させることはできないが、消極的になってはいけない。あなたの回りの人たちに期待の均衡を取るよう試みていることを伝えよう。
(10)楽しもう。終わったら最初に戻ってもう一度トライしよう
急いではいけない。コンスタントな学習と試行錯誤、改善を求める素晴らしい企業文化と環境を作り出そう。それは価値あることだ。
ボック氏はLSEでの講演で、日本を例に引き、「あまりに伝統すぎる日本の文化はグーグルの文化と異なっていた。どこの国であってもグーグルの文化は不変だ。だから日本のグーグルには変更を求めた」と打ち明けた。
才能にあふれた人はどんどん移動し、インターネットを通じてつながっている。だから企業にとっても見つけやすくなっている。企業のパーパスが才能を吸い寄せる。社員に自由を与え、才能に見合った報酬を与える企業しか優秀な人材をつなぎとめることはできない。
(おわり)