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アジア大学ランキング 東大が首位死守も、中国がトップ100内の大学数で日本抜く

木村正人在英国際ジャーナリスト

英国の高等教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション」が10日、2015年アジア大学ランキングを発表した。東京大学はアジア首位の座を死守したものの、トップ100に入った大学数で初めて中国が日本を追い越して1番になった。

2015年アジア大学ランキングから筆者作成
2015年アジア大学ランキングから筆者作成

トップ10は、日本、シンガポール、香港、韓国、中国の5カ国・地域が占めた。トップ100では、中国は昨年の18大学から21大学に増え、日本は逆に2013年22大学、昨年20大学、今年は19大学と減り、アジア第2位に滑り落ちた。

韓国は13大学で第3位。台湾は13年17大学、昨年13大学、今年11大学と下がり続けている。インドは9大学で、昨年より1大学減った。

トップ100に入った日本の大学は下の表の通りだ。

筆者作成
筆者作成

大阪市立大学と北海道大学が順位をぞれぞれ20と15下げたのをはじめ、首位を死守した東京大学(スーパーグローバル大学トップ型)と、順位を上げた早稲田大学(トップ型)、神戸大学、岡山大学(グローバル化牽引型)の計4大学を除くと軒並み順位を下げている。

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トップ100大学の詳細はこちら。

日本を初めて上回った中国は今年は新しく3大学がトップ100に食い込んできた。北京大学4位、清華大学5位がトップ10に入った。

香港大学は3位を維持、香港科学技術大学は9位から7位に上昇した。香港の6つの大学はすべてトップ50にランクイン。

韓国はソウル大学が順位を2つ下げて6位。韓国科学技術院(KAIST)は8位のまま変わらなかったが、浦項工科大学がトップ10から転落。成均館大学(SKKU)が順位を11上げて16位に入ってきた。

台湾の国立台湾大学は14位から17位に下がっている。シンガポールは、南洋理工大学が初めてトップ10入りし、シンガポール大学は2位を維持した。

中国をはじめアジアの大学の台頭が著しい中、14年度から始まった文部科学省のスーパーグローバル大学は苦戦を強いられている。その理由は何か。アジア大学ランキングを編集したフィル・バティ氏に電話インタビューした。

――日本の大学が苦戦しているが

バティ氏「日本はアジア大学ランキングで下降を続けている。日本はかつてアジアの進展を主導して来たが、最大のライバル、中国に対抗するためには多くを投資しなければならない。これまでの評価に安住している時ではない。衰退を阻止するには、迅速に行動しなければならない」

「日本の大学が抱えている大きな問題は内向きということだ。伝統的に日本の大学は素晴らしい評価を得てきた。が、もし国際化を進めなければ、アジアの大学を主導する立場を失うだろう。他のアジアの大学の追い上げが激しいからだ。シンガポール、中国、韓国は大学への投資を増やしている」

OECD「図表でみる教育2014年版」より筆者作成
OECD「図表でみる教育2014年版」より筆者作成

「大切なのは学生が多文化の中で国際的に学べる環境をつくることだ。国際的なネットワークを広げ、成果を共有すれば研究でも大きな利益を受けることができる。東京大学は依然、アジア首位だが、いずれシンガポール大学に抜かれる可能性がある」

「日本の国公立大学の教員の給与は安いので、良い才能を大学に引き留めるのが難しくなっている。科学では日本はまだ優位を保っているが、長期にわたる経済の低迷で大学への財政支出も増えなかった。他のアジアの国はどんどん増やしている」

――中国はどんな状況か

「中国はワールドクラスの大学をつくるという明確な目標を掲げて大規模な投資を行っている。今年3月に北京を訪れたが、研究の質を上げるため欧米から多くの科学者を招いていた。中国は政治的には世界で孤立しがちだが、世界中から才能を集めることが中国の大学の強化につながることを理解して実践している」

「これまで海外の大学に流出していた中国人研究者に好条件を提示して中国の大学に呼び戻している。多くの中国人研究者が中国に戻っている。人権問題は残されているが、巨額の資金を大学に投資してインフラや研究環境を整えている」

「中国の大学が次のレベルにステップアップするためには学問の自由や表現の自由を保障する必要がある。オープンな討論、自省や自己批判が研究レベルを向上させていくからだ。それが課題になっている」

――日本のスーパーグローバル大学についてどう思うか

「日本政府が選ばれた大学への投資を増やそうとしているのは良いことだ。外国人教員の枠を増やし、世界に向けて日本の大学を宣伝しようとしているのも良い。ただ、大学内で民主的に選ばれたリーダーが改革を避けて保守的な選択をするのが問題だ。日本の大学は行動力のある強いリーダーを必要としており、政府は大きな権限をリーダーに与えるべきだ」

――アジア全体ではどうか

「世界はアジアがヨーロッパ、北米に次いで、世界的な高等教育大国になることを期待している。新しいデータはアジア大陸の数多くの大学がすでに欧米における最高の大学と対等に競争していることを示している。現在、中国は持続的な投資と国際化の報酬を獲得しつつある」

OECD「図表でみる教育2014年版」より抜粋
OECD「図表でみる教育2014年版」より抜粋

経済協力開発機構(OECD)の「図表でみる教育2014年版」によると、国内総生産(GDP)比でみた高等教育機関への支出は日本はOECD平均と同じ1.6%、韓国は2.6%となっている。日本は公的支出(棒グラフの灰色部分)が少なく、私的支出(青色部分)の負担が大きくなっているのが特徴だ。

アジア大学ランキングは、タイムズ・ハイアー・エデュケーションが世界の大学のランキングと同じ信頼できる方法に基づき、13のパフォーマンス指標を使用、各大学の教育、研究、知識の伝達と国際見通しについて大学の力量を調査している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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