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「震災月命日の11日に、川内原発を再稼働とは」福島の原発災害は終わらない

木村正人在英国際ジャーナリスト

ハチに刺されて無縁仏になった除染作業員も

[福島県南相馬市発]「働き手がいなくなります。南相馬には子供が3分の1しか戻って来ません。小学校が要らなくなり、教育が最初にダメになります」。福島県南相馬市で建設会社「石川建設工業」を営む石川俊社長は複雑な表情を浮かべた。

「石川建設工業」の石川俊社長(筆者撮影)
「石川建設工業」の石川俊社長(筆者撮影)

石川社長の会社の売り上げは除染作業や災害公営住宅など東日本大震災の復興事業で売り上げが年7億円から40億円に膨らんだ。大手ゼネコンは全国から作業員をかき集め、山間部から山内深く分け入り、除染作業を進めている。

福島県南相馬市のJR常磐線小高駅で除染作業をする作業員(筆者撮影)
福島県南相馬市のJR常磐線小高駅で除染作業をする作業員(筆者撮影)

「山中でハチに刺されて死ぬ作業員もいるそうです。遺骨の引き取り手がないので無縁仏として地元の寺院にまつられています」

石川社長のデータより筆者作成
石川社長のデータより筆者作成

石川社長によると、福島県土木部一般会計当初予算は1997年度は2339億円もあったが、2011年度には990億円まで削減された。しかし東日本大震災の復旧・復興のため再び12年度2529億円、13年度2475億円がつぎ込まれた。

建設業で亡くなったのは福島県内で13年17人、昨年が11人だ。

捜索・復旧作業で被ばく

石川社長は震災直後、行方不明者の捜索や道路の復旧作業に参加し、内部被ばくした。福島第1原発から20キロ圏内での捜索も行い、最大で重機70台、ダンプ80台を投入したという。

瓦礫の撤去、仮設住宅、災害公営住宅建設など、復旧・復興事業は絶え間なく続く。作業時の安全を確保するため、医療者用アラーム計を作業員全員に貸与し、ガイガーカウンターや空間線量計、個人用線量計も取り寄せた。

20キロ圏内作業は全身を覆う防御服着用を義務付けたほか、ヘルメット、防護マスクは必ず着用するようにしている。

石川社長の会社では災害後も使命感や責任感、家族や地域への強い思いから、全員が南相馬市にとどまった。その後しばらくして56人が南相馬市立総合病院で体内の放射性物質を体外から計測するホールボディカウンターの検査を受けた結果、7人からセシウム134、137が検出された。

精密検査が必要な基準値を超える人はいなかった。原発事故時の被ばくではなく、放射線付着物をかぶったコメや野菜などを食べたか、作業中に放射線付着物を吸ったのが原因とみられるという。今では全員からセシウム134、137は検出されなくなった。

南相馬市の除染対象区域の人口は1万3300人、面積は6100万平方メートル。除染の同意取り付けは8割方終わり、来年度の除染終了を目標にしている。除染特別地域全体を見渡しても除染が終了した区域はまだ限られている。

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環境省・国直轄除染の進捗状況

「東京は責任を感じて下さい」

石川社長は「まず医療・生活環境の再生が不可欠です。福島の原発災害は終わったわけではありません。さまざまな課題が山積しており、まだ進行中なのです。福島の復旧・復興を進行させるには『働きたい』というインセンティブを作っていく必要があります」と言う。

震災後、南相馬市を離れた人の中には、原子力と聞くだけで強烈な拒絶反応を示す人もいる。石川社長は心の中では原発はもう懲りごりだ、できればなくなってほしいと思っている。

しかし、南相馬市を見捨て出て行くわけにはいかない。どうにかして災害前と同じように住めるまちにしたい。復興需要が消えた後は人口減少と高齢化に拍車がかかる恐れがある。復興のペースも宮城県や岩手県に比べて、福島県の遅れが目立ち始めている。

「私たち南相馬市の住民は福島第1原発(東京電力)の電気を使っていたわけではありません。東京の人は責任を感じてほしい。もっと関心を持ってほしい、持ち続けてほしいと思っています」。石川社長は絞りだすように語った。

九州電力は10日、川内原子力発電所1号機(鹿児島県)を11日午前10時半に再稼働させると発表した。地元では「よりによって川内原発の再稼働を震災月命日の11日に設定する無神経さに、福島では無力感を抱いています」という声が聞かれた。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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