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福活を目指せ ハリケーン・カトリーナ10年に学ぶ「福島復活」ファンド

木村正人在英国際ジャーナリスト
「カトリーナ」襲来から10年、 米大統領が被災地訪問(写真:ロイター/アフロ)

回復するニューオリンズ

米国のオバマ大統領が、10年前に超大型ハリケーン「カトリーナ」に直撃された米南東部ルイジアナ州ニューオリンズを訪問、「あれから前進はあったが、黒人家庭の収入は白人家庭よりも少なく、黒人男性は失業に苦しめられている」と演説した。

ジャズ発祥地として有名なニューオリンズは石油産業と観光業に依存し、被災前から若者を中心に人口減少が続いていた。カトリーナは死者・行方不明者2541人、総額100億~250億ドルの被害を出し、ニューオリンズの人口は約45万人から約23万人にまで減少した。

あれから10年、ニューオリンズはどうなったのか。米べシンクタンク、ブルッキングス研究所大都市圏政策プログラムとニューオリンズ地域データセンターが今年7月末に共同出版した「10年目のニューオリンズ指標――ニューオリンズ大都市圏の繁栄に向けた前進」のデータを見てみよう。

10年目のニューオリンズ指標より抜粋
10年目のニューオリンズ指標より抜粋

就業率の回復(上のグラフ)は全米平均に比べて、ニューオリンズの方が高くなっている。年収を示した下のグラフを見ると、直近こそ落ち込んでいるものの、ニューオリンズはハリケーン・カトリーナを境に急激にキャッチ・アップしている。その理由は何か。

同

起業が復興の原動力

起業が復興の原動力になったのだ。被災をきっかけに全米から経営学修士(MBA)を持つ学生や若い専門家が集まった。下のグラフは10万人当たりの起業率だが、ニューオリンズが全米の中でも群を抜いて高いことがわかる。

同

起業経験者のティム・ウィリアムソン氏は非営利団体「アイデア・ビレッジ」を共同創業し、2000年からニューオリンズで起業家支援を開始。05年のカトリーナ襲来で全米から支援が集まるようになり、「アイデア・ビレッジ」の運営資金も年10万ドルから250万ドルに増加した。

一方、ニューオリンズのあるルイジアナ州も起業家やハイテク企業、バイオ関連の研究・開発への優遇税制を導入。ニューオリンズも非営利団体(NPO)や民間企業と積極的に連携した。10万人当たりのニューオリンズの起業家の割合は全米平均より56%も高くなった。

残された課題

10年に発生したメキシコ湾原油流出事故で英石油大手BPの巨額賠償金がルイジアナ州に支払われたのも大きかったという。しかし、オバマ大統領が演説の中で強調したように課題も残された。下のグラフを見てみよう。

同

真ん中の黒人家庭の収入(中央値)が左の白人家庭、右のヒスパニック家庭に比べても著しく落ち込んでおり、全米平均を下回っている。ニューオリンズは起業の力で回復したものの、これからはその成長力をいかに黒人家庭と共有していくかが課題になっている。

東日本大震災も来年3月で5年

東日本大震災と福島第1原発事故から来年3月で5年を迎える。起業で被災地の復興を後押ししようと、東北のベンチャー・中小企業を支援する「MAKOTO」(マコト、仙台市)と、福島銀行は、日本初の再チャレンジ投資ファンドを設立した。

日本では倒産後、再チャレンジを果たせる率は13%(2002年中小企業白書)。多くの経営者は一度、失敗すると、再チャレンジのチャンスを得られないまま埋もれている。

「MAKOTO」の竹井代表理事(提供写真)
「MAKOTO」の竹井代表理事(提供写真)

「失敗経験を持つ経営者を見捨ててしまっては、貴重な人材を使い捨てていることになります」と「MAKOTO」の竹井智宏代表理事(40)。欧米では失敗の経験をバネに再チャレンジする。成功するまでチャレンジし続けることが大切だ。失敗は成功の一部なのだ。

起業家が何度でも復活できる環境を福島県につくることによって、「福島を、あきらめずにチャレンジする人間のフロンティアにしたい」と竹井さんは意気込む。福島で復活。その名も「福活ファンド」だ。出資総額は10億円、1件当たり最大1億円の投資を想定している。

応募条件は(1)倒産などの経験があり、これから再起を計画中の元経営者(2)倒産などの経験があり、すでに再起業した経営者(3)まだ倒産していないが、企業が実質的に倒産状態であり、再起を計画中の経営者――のいずれか、というから徹底している。

東北は日本のフロンティア

竹井さんはこう語る。「今回のファンドには、2つの意義があります。日本初の再チャレンジに特化した投資ファンドであるということ。2つ目に、福島県に全国から起業家人材を呼び込み、福島創生を加速させることです」

東北大学の生命科学研究科博士課程を修了した竹井さんは産学官連携コーディネーターやマーケティングセールスを経験。07年からベンチャー企業への投資や支援に携わった。

しかし東日本大震災で「ベンチャーキャピタルでは投資対象のハードルが高く、支援できる範囲が限られている。もっと自分にできることがあるはず」と考え、11年7月、被災地の起業家や経営者を支援する「MAKOTO」を設立した。

翌8月、ニューオリンズを単身で訪れ、「アイデア・ビレッジ」のウィリアムソン氏らを訪問し、起業家支援による災害復興を目の当たりにした。ウィリアムソン氏を被災地に招き、交流をする中で、福活ファンドの意義を確信したという。

昨年12月、「真面目にがんばっている人を真面目に応援する」という福島銀行と出会い、再チャレンジ経営者の支援で意気投合した。「福島の問題は世界に通じます。課題を抱える地域にアントレプレナー(起業家)を呼び込む。そして、日本に再チャレンジの仕組みをつくります」と竹井さん。

「東北は日本のフロンティアです。日本に変化をもたらすのは東北だと確信しています。あきらめずにチャレンジする人間のフロンティアを作りたい」と目を輝かせた。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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