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北朝鮮の核・ミサイル開発の隠れミノに使われたタックスヘイブン

木村正人在英国際ジャーナリスト
北朝鮮の金正恩第1書記(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の武器輸出や核兵器・弾道ミサイル開発にもタックスヘイブン(租税回避地)の一つである英領バージン諸島のオフショア企業が使われていたことが、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出したいわゆる「パナマ文書」で分かりました。英紙ガーディアンが報じています。

米財務省は2013年6月、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの開発に関与したとして、平壌の大同信用銀行と同銀行のフロント企業でバージン諸島にあるDCBファイナンス、大同信用銀行の会計責任者キム・チョルサン(45)らを経済制裁の対象に加えました。

このほか武器取引の窓口であるコリア・マイニング・ディベロップメント、金融取引に使われていたタンチョン・コマーシャル・バンクも制裁の対象にされています。キム・チョルサンは北朝鮮の金庫番とも言える存在で、関連口座を使って数百万ドルを動かしていました。

カギを握る人物は大同信用銀行の総支配人を務めていた英国人のナイジェル・コウィ氏です。コウィ氏は韓国語と中国語が堪能で1995年に北朝鮮に渡りました。香港の投資会社ペレグリン・インベストメンツ・ホールディングスで働いていましたが、98年のアジア通貨危機で会社が倒産します。

中央がナイジェル・コウィ氏(フェニックス・コマーシャル・ベンチャーズHP)
中央がナイジェル・コウィ氏(フェニックス・コマーシャル・ベンチャーズHP)

その時、北朝鮮のコリア・デソン・バンクとのジョイント・ベンチャーの事後処理を担当した関係で、大同信用銀行の総支配人を務め、2006年にコンソーシアム(企業連合)を率いて大同信用銀行の株の70%を取得します。同年夏に法律事務所「モサック・フォンセカ」を通じてキム・チョルサンと一緒にバージン諸島にフロント企業のDCBファイナンスを設立します。

北朝鮮は中国の特別行政区マカオにある銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)を使っていましたが、米財務省は05年9月、資金洗浄に関与した疑いの強い金融機関に指定しました。これを受けてマカオ当局はBDA内の北朝鮮関連52口座2500万ドルを凍結しました。

当時、DCBファイナンスを設立したのは、米財務省の追及や経済制裁の波及をかわすのが狙いとみられています。

法律事務所「モサック・フォンセカ」は10年にバージン諸島の金融調査庁から問い合わせを受けて初めて北朝鮮との関連に気づいたそうです。本当ですかね。関連先の住所は平壌になっているのに、怪しいとはまったく思わなかったそうです。コウィ氏は翌11年に大同信用銀行の持ち株を中国のコンソーシアムに売却しています。

実は筆者は06年7月にコウィ氏と電子メールでやり取りをしたことがあります。「北朝鮮は国際信用がないので外貨決済しかできない。金融制裁で数百万ドルの口座が凍結され取引高は半減した」と大同信用銀行の状況を説明していました。

06年9月、国際金融都市ロンドンで「朝鮮開発投資ファンド」がつくられ、欧州、中国などの大口投資家などから総額5千万ドルを集めたとして話題になりました。北朝鮮の核兵器・弾道ミサイル開発はあれから格段に進みました。日米欧はスクラムを組んで中国に協力を迫り、核兵器・弾道ミサイル開発に関連する「人・物・金」を完全にシャットアウトする必要があります。しかし度重なる経済制裁にもかかわらず、北朝鮮の核兵器・弾道ミサイル開発はどんどん進んでいるのが実態です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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