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中国は難民受け入れに最も前向き 日本は調査対象にもならず

木村正人在英国際ジャーナリスト
昨年9月、セルビアからクロアチア国境に向かう難民の少女(筆者撮影)

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが世界27カ国2万7千人に難民の受け入れについて質問をしたところ、80%の人々が難民を受け入れると答え、中国が最も難民受け入れに前向きな感情を持っていることが分かりました。アムネスティに確認したところ、日本は調査対象の27カ国に含まれていませんでした。

質問1:戦争や迫害から逃れるため人々は他の国に安らぎを求めることができるようにすべきでしょうか?

「同意」は全体の73%

「同意」が一番多かったのはドイツの94%

質問2:自国の政府は戦争や迫害から逃れてきた難民を助けるためもっと行動すべきでしょうか?

「同意」は全体の66%

「同意」が一番多かったのは中国の86%

質問3:個人的に戦争や迫害から逃れてきた人々をどれだけ身近で受け入れますか?

自宅10%、近所22%、自分の街や村15%、自分の国33%、拒否する17%

受け入れるという回答が計80%に達しました。中国では実に46%が難民を自宅で受け入れると答えました。

自宅や近所で受け入れると答えた人は100、自分の街や村で受け入れると回答した人は67、自国で受け入れるという回答者は33で計算して国ごとの「難民歓迎指数」を作ったところ、中国が85でトップ、2位がドイツで84、3位が英国で83という結果が出ました。

出所:アムネスティ・インターナショナル「難民歓迎指数」
出所:アムネスティ・インターナショナル「難民歓迎指数」

トルコから欧州連合(EU)域内に入国した難民を「不法移民」としてトルコに強制送還するEU・トルコ難民対策が施行され、人権上問題があると厳しく批判されています。国境に有刺鉄線の壁を築く国も相次ぎ、難民に向けて催涙ガスや放水銃を使用するなど、欧州の各国政府は難民受け入れに冷たい態度を示すようになっています。

「市民は難民を受け入れる心づもりがある」

これに対して、アムネスティ・インターナショナルのサリル・シェティ事務総長はこう指摘しています。「今回の調査結果は人々が難民を受け入れる心づもりがあることを物語っています。難民危機に対する政府の非人道的な反応は国民感情からひどく離れたものです」

「難民歓迎指数は戦争や弾圧から逃れてきた人々の命を天秤にかける近視眼的な政治を各国政府が恥ずべき方法で行っていることを白日の下にさらしました。各国政府はアンケートの結果に耳を傾けなければなりません。調査結果は大多数の人々は難民を自分たちの国に受け入れる準備があることを明確に示しています」

「各国政府は支持率を高めるため、排外主義的な反難民レトリックを本当に頻繁に使っています。しかし今回の調査は難民を受け入れようというサイレント・マジョリティに耳を傾けていないことを示唆しています」

日本の難民認定は昨年27人

今回の調査には是非、日本も加えてほしかったです。法務省によると、昨年、日本で難民認定申請をした人は7586人で過去最多。処理数は3898人で、難民認定されたのはわずか27人(アフガニスタン6人、シリア3人など)でした。このほか人道上の配慮を理由に在留を認められた人は79人です。

これがどれぐらい少ないのか――。

出所:難民支援協会
出所:難民支援協会

日本の認定NPO法人・難民支援協会が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)グローバル・トレンド2014をもとに作成した「難民受け入れ人数における貢献度ランキング」を見てみましょう。日本は1人当たり国内総生産(GDP、購買力平価)、人口1千人当たり、国土1千平方キロメートルで見ても、それぞれ107位、141位、111位と随分低いことが分かります。

出所:UNHCR
出所:UNHCR

日本が多いのはUNHCRへの拠出金で米国に次いで世界2位です。しかし難民の受け入れとなると「非人道的」と言わざるを得ない対応をしているケースが少なくありません。

300ページの資料でも不認定

難民支援協会は次のように指摘します。

「把握しているだけでも、難民認定されるべき人が不認定となったケースが多くありました。例えばシリアです。反政府活動に積極的に参加したことで自宅を攻撃されたために日本へ逃れたある人が先頭に立ってデモを率いた証拠を写真で持っているにも関わらず、不認定となりました」

「激しい拷問を受けた後、命からがら出国したウガンダの男性も約300ページの資料で証明を尽くしましたが、『迫害を受ける十分な理由がない』として不認定でした」

「現在、法務省で『誰が難民か』の見直しが進められていますが、そのプロセスにUNHCRなどの専門家が入っていません。UNHCRやNGOなどを交えて、国際基準に沿った難民認定のあり方が検討されることを期待します」

出所:UNHCR
出所:UNHCR

UNHCRによる2015年半ばのまとめによると、難民の受け入れはトルコ184万人、パキスタン154万人、レバノン117万人の順に多く、中国は30万人。日本の2419人はエリトリアやルーマニアより少ない数字で、上の「難民マップ」では点にもなっていません。中国では国民が政府はもっと難民を受け入れるべきだと考えていました。

難民支援協会は「世界難民の日(6月20日)」に合わせて、日本に暮らす難民28人のポートレート写真展を東京メトロ表参道駅のコンコースで開くそうです。頭がガチガチの日本政府はともかく、日本の人々が難民の受け入れについてどう考えているのか知りたいところです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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