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【尖閣の接続水域に中国軍艦】南シナ海より実は危ない東シナ海 中国は軍艦より巨大な公船投入へ

木村正人在英国際ジャーナリスト
再び緊張が高まる尖閣諸島 (2012年9月資料写真)(写真:ロイター/アフロ)

東シナ海に再び激震

6月9日午前0時50分(日本時間)ごろ、尖閣諸島・久場島(沖縄県)北東の接続水域に入った中国海軍のジャンカイ1級フリゲート(3963トン)1隻を海上自衛隊の護衛艦「せとぎり」(3550トン)が確認しました。基線から最大12カイリまでの領海の周りに設けられているのが接続水域(基線から24カイリ)です。

ジャンカイ1級フリゲート(防衛省HPより)
ジャンカイ1級フリゲート(防衛省HPより)

領海侵入ではありませんが、接続水域では警察、関税、衛生など法令違反を取り締まるため一定の権限を行使することができます。

これを受け、同日午前1時15分ごろ、石兼公博アジア大洋州局長が劉少賓(りゅう・しょうびん)駐日中国大使館次席公使に抗議。午前2時ごろ、齋木昭隆外務事務次官が程永華(てい・えいか)駐日中国大使を外務省に呼び出し、接続水域から直ちに出るよう求めました。

午前3時10分ごろ、ジャンカイ1級フリゲートは尖閣諸島・大正島北北西の接続水域から出て行くのを「せとぎり」が確認しました。中国公船(海上保安機関の船)は2012年9月の尖閣国有化以降、頻繁に尖閣周辺の領海や接続水域に入ってきています。

接続水域に中国の軍艦が姿を現したのはこれが初めてです。8日午後9時50分ごろ、ロシア海軍の駆逐艦など3隻も久場島と大正島の間の接続水域に入り、5時間15分後、外に出たのを海上自衛隊の護衛艦「はたかぜ」(4600トン)が確認しました。

ロシア海軍と中国海軍の連携した動きなのか、それとも偶発的な出来事だったのかは不明です。

活発化していた接続水域での活動

出所:海上保安庁
出所:海上保安庁

上のグラフは海上保安庁が公表しているもので、赤色の棒グラフが日本領海に侵入した中国公船などの毎月延べ隻数、青色の折れ線グラフが接続水域で確認した中国公船などの毎月延べ隻数です。

接続水域での活動は今年2月に21隻まで減っていたものの、3月以降、56隻、82隻、97隻と再び急増しています。6月も8日時点ですでに24隻です。

出所:防衛省
出所:防衛省

次に中国空軍の活動を見てみましょう。赤色が航空自衛隊の緊急発進の対象となった中国機の飛行経路のパターンです。東シナ海を中心に太平洋、さらには日本海まで飛行範囲を広げています。

出所:防衛省データより筆者作成
出所:防衛省データより筆者作成

中国は13年11月に東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定しており、航空自衛隊の緊急発進回数も中国機に対するものが増えました。中国の大型爆撃機、中型輸送機、ジェット旅客機が含まれ、中国機に対する緊急発進は11年度の156回から昨年度は571回に増えています。

米国は、尖閣は日米安保条約に基づく防衛義務の適用対象と明言。米中両政府は今月6~7日、北京で閣僚級の戦略・経済対話を開きましたが、南シナ海問題は物別れに終わりました。その7日には中国軍の殲10戦闘機が東シナ海の公海上空で米軍電子偵察機RC135に異常接近し、飛行を妨害する事件が起きています。

恫喝戦術

日米両国ががっちりスクラムを組む東シナ海で、中国はこれまで慎重に軍事衝突を避けながら、脅しのレベルを上げる戦術をとってきました。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の運営サイト「アジア・マリタイム・トランスパレンシー・イニシアチブ」によると、尖閣周辺の領海や接続水域に公船を送り込んでくる際も、船の大きさを14年の平均2200トンから昨年には3200トンに増やしたそうです。

3938トンの公船が最も頻繁に尖閣周辺に派遣されており、間もなく軍艦にも使われる76ミリ砲を備えた1万トン級以上の船「HAIJING 2901」が投入される予定です。事実上の「軍艦」と言える大きさです。

これに対して、海上保安庁の巡視船は20ミリ砲の1500トン級です。中国は、尖閣周辺の領海に入る公船のトン数を増やして日本への圧力を強めています。

「航行の自由」作戦への仕返し

ロシア海軍の駆逐艦の後を追うように中国の軍艦が尖閣周辺の接続水域に入ってきたのにはいくつかの理由が考えられます。

南シナ海で人工島の埋め立てと軍事要塞化を進める中国に対して、フランスも含め国際包囲網が構築される中、日本に圧力をかけて日本の世論を腰砕けにする狙いがあります。南シナ海でチョロチョロすると、尖閣諸島への圧力を増すぞという露骨な恫喝です。

ジャンカイ1級フリゲートはステルス性能を備えているため、夜間に行動した場合、どの時点で海上自衛隊の護衛艦が気付くのか試す軍事的な調査もしたでしょう。中国が領有権を主張する南シナ海の人工島周辺で米海軍のミサイル駆逐艦が「航行の自由」作戦を展開していることに対する仕返しの意味もあります。

今月2日、東シナ海の日中中間線付近で中国がガス田開発のため2基の施設に掘削やぐらを建設していることが確認されました。これで16基すべてのやぐらが完成したそうです。ガス田をめぐっては08年に日中で共同開発することで合意したものの、交渉は中断しており、その間に中国が一方的に開発を進めています。

中国の脅しに屈するな

中国は漁船からガス田の海上構造物、公船、最後は軍艦まで繰り出し、日本への圧力を増しています。領海に入れば海上自衛隊の護衛艦が出てくる可能性があるため、今のところ接続水域で寸止めしているというわけです。一番まずいのは中国の脅しに屈し、「法の支配」を守るよう中国に迫る国際協力の隊列から日本だけが離脱することです。

領有権を主張する中国の軍艦が尖閣周辺の領海に侵入した場合、日本は無害航行とは認めず、海上警備行動を発令して自衛隊の護衛艦を派遣して追い出す方針です。日中間の「海空連絡メカニズム」が正常に運用される見通しは今のところまったく立っていません。

ジョナサン・グリーナート前米海軍作戦部長は5月下旬、米誌フォーリン・ポリシーに「南シナ海で戦闘が起きる可能性は低いだろう。東シナ海は南シナ海より少しだけ危険だ」と指摘しています。日米の水も漏らさぬ連携が求められます。中国の不当な圧力に屈することなく、東シナ海、南シナ海、インド洋で「法の支配」が確立されるよう国際社会が一致団結する時です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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