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新型ミサイル発射、金正男毒殺!?それでも先制攻撃より米朝首脳会談の方がまだマシ

木村正人在英国際ジャーナリスト
北極星2の発射実験成功を喜ぶ金正恩委員長(労働新聞より)

北朝鮮が日米首脳会談最中の12日に新型ミサイルの発射実験を行ったばかりなのに、13日にクアラルンプール国際空港で、北朝鮮の金正恩委員長の異母兄、金正男氏(45)が毒殺されたという衝撃的なニュースが飛び込んできました。

金正男とみられる男性は背後から女性に液体を染み込ませた布で顔を覆われ、病院に運ばれたあと死亡したと報道されているほか、女性の2人組に毒針で刺されたという情報もあります。「邪魔者は消せ」ということなのか、今のところ真相は分かりません。

しかしミサイル開発は着実に進んでいます。

北朝鮮が発射した北極星2(労働新聞より)
北朝鮮が発射した北極星2(労働新聞より)

米国防総省のジェフ・デービス報道部長(13日)

「北朝鮮が発表したビデオを見ると、発射されたミサイルの排出物質が明るくて白いことから、固体燃料が使われたとみられる。ミサイルは過去に北朝鮮が潜水艦から発射したものに極めて酷似している。地上用に応用したバリエーションのように見える」

英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック・アメリカ本部長のブログ(13日)

「北朝鮮のミサイル発射実験は技術的には重大だが、トランプ大統領がツイートしたレッドライン(越えてはならない一線)は越えなかった。トランプの反応は政策オプションが惨憺たる場合、慎重になる意思を示している」

米国本土を狙える大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験は最終段階に達したと宣言した金正恩の新年演説に対し、トランプは大統領就任前の1月2日「北朝鮮は米国本土を攻撃できる核兵器開発の最終段階にあると宣言した。しかしそんなことはさせない」とツイートしました。

日本の安倍晋三首相と首脳会談を行っていたトランプは冷静に北朝鮮に国連安全保障理事会の決議を守るよう求め、北朝鮮のミサイルの射程内に入っている日本に対する支援を改めて確認しました。これまで北朝鮮の核・ミサイル開発を止められなかった歴代大統領と同じように日本や韓国といった同盟国との結束と国連を通じた制裁強化を踏襲しました。

発射されたミサイルは金正恩が新年演説で予告したICBMではありませんでした。ミサイルに対する見方は分かれています。

(1)射程1200キロメートルのノドンか、改良型(韓国国防部合同参謀本部の速報)

(2)射程3千キロメートルの中距離弾道ミサイル、ムスダン改良型で固定燃料エンジンを装備。昨年6回テストが行われた(合同参謀本部の第2報)

(3)固定燃料型の中長距離弾道ミサイル「北極星2」(朝鮮中央通信などの北朝鮮メディア)

(4)ICBMのファーストステージだけを試した(北朝鮮専門サイト 38 North)

発射までわずか5分

フィッツパトリック氏はブログの中で「北極星は昨年8月24日にテストされた潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に付けられた名前で、地上用に改良されたミサイル発射実験の成功は新しく、極めて重要な進展だ。固定燃料のミサイルは(移動できるので)探知するのが難しく、先制攻撃によって無力化するのが一層難しくなる」と指摘しています。

ノドンは発射までに30~60分かかりますが、地上用の北極星2は5分しかかからず、探知して破壊するのが極めて困難です。

北朝鮮は自らの力を誇示するためミサイル能力を誇張することは珍しくありません。今回発射されたミサイルが高度550キロメートルに達し、北朝鮮の東500キロメートルに着水していることから、フィッツパトリック氏は射程1200キロメートルと推定しています。北極星2は形状もSLBMの「北極星1(KN-11)」そっくりで、地上用に改良されたものとみられます。

ミサイルはトランプと首脳会談を行っていた日本に向けて発射され、北朝鮮の機関紙、労働新聞には金正恩がミサイル部隊の兵士たちに囲まれて笑う様子が掲載されています。ミサイル発射には指導者としての力を誇示し、日米を挑発する政治的な狙いもありますが、フィッツパトリック氏は「北朝鮮はアメリカ本土を攻撃できる核ミサイル能力を獲得するという強い決意を持っている」と指摘しています。

アメリカ大統領選最中の昨年1月から10月にかけ、北朝鮮は20回以上の弾道ミサイル発射実験を行いました。トランプの任期中の4年内には北朝鮮はアメリカ本土を攻撃できる能力を十分備えたICBMを開発する可能性があるとフィッツパトリック氏は警鐘を鳴らしています。

在韓米軍司令官も先制攻撃能力求める

韓国紙の朝鮮日報によると、在韓米軍のヴィンセント・ブルックス司令官は「現在の防御は北朝鮮のミサイル脅威に対処するのに十分ではない。北朝鮮のミサイル基地を標的にして破壊できるさらなる能力が必要だ」と先制攻撃能力の構築を強調しています。

これまですべての対策が講じられてきましたが、北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることはできませんでした。選択肢として残された先制攻撃はしかし、韓国や日本への報復攻撃、朝鮮戦争の引き金となり、絶対に回避すべき選択肢です。

国連安全保障理事会は13日、ミサイル発射を「強く非難」する報道声明を全会一致で採択しました。中国を巻き込んだ北朝鮮への制裁強化、北朝鮮の船舶を対象にした海上阻止行動のほか、トランプが選挙中に述べた米朝首脳会談も最悪の選択肢ではないとフィッツパトリック氏は指摘しています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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