ロシア疑惑で逆ギレするトランプ「オバマが盗聴」という大ウソ
アメリカ大統領選の期間中にトランプ陣営のキーパーソンがロシア当局者に接触していたとされるロシア・スキャンダルにトランプ大統領が「オバマ前大統領は、私が勝利する前にトランプ・タワーを盗聴していた」とツイッターで逆ギレしました。
マイケル・フリン国家安全保障問題担当大統領補佐官が補佐官就任前にセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使とロシア制裁問題を話し合った疑惑で辞任したのに続いて、今度はジェフ・セッションズ米司法長官に駐米ロシア大使との接触をめぐって議会の指名承認公聴会で虚偽証言したとの疑惑が浮上したためです。
簡単にこれまでの経過を振り返っておきましょう。トランプ大統領の選挙アドバイザーを務めていたセッションズは1月の指名承認公聴会で「選挙期間中1度か2度、代理を頼み、ロシアとはコミュニケーションを取っていない」と証言していました。しかし、米紙ワシントン・ポストは1日、セッションズが昨年、駐米ロシア大使と2度接触していたことを明るみに出しました。
トランプ政権にはフリンらロシアのプーチン大統領と極めて親しい人物が参加しています。トランプ自身にもモスクワの豪華ホテルで乱痴気騒ぎした際のセックススキャンダルをロシア情報機関に握られ、プーチンの「アセット(協力者)」になっている疑惑さえ取り沙汰されています。
フリンに続いてセッションズまで辞任に追い込まれると、トランプ政権にとっては大打撃です。それだけにトランプの反撃ツイートもエスカレートしています。
3月3日のツイート
「ジェフ・セッションズは正直な男だ。彼は何一つ間違ったことは言っていない。彼はもっと正確に答えることができただろう。しかし、そうしなかったとしても明らかに故意ではなかった」
「こうした話のすべては、誰もが勝つと思っていた民主党が選挙に負け、その体裁を取り繕うためのものだ」
「民主党はやり過ぎだ。奴らは選挙に敗れた。今、奴らは現実を違えようとしている」
「本当の話は、機密扱いの情報などが違法に漏洩していることだ。これは完全な『魔女狩りだ!』」
「我々は今すぐにチャック・シューマー上院議員とロシア、プーチンとの関係を調査すべきだ。(セッションズだけを問題にするのは)完全な偽善だ!」
「シューマーの次はナンシー・ペロシ下院議長と親密なロシアとのつながりと、それに関する虚偽証言への調査を要求する」
3月4日のツイート
「ジェフ・セッションズが最初に駐米ロシア大使に会ったのはオバマ政権がセットした100人の大使のための教育プログラムでのことだ」
そして突然「オバマが盗聴」と告発
「恐ろしいことだ! 私が大統領選に勝つ直前、オバマ大統領はトランプ・タワーを盗聴していた。結局、何も見つけられなかった。これはマッカーシズム(第二次大戦後、アメリカ国内をヒステリー状態に陥れた赤狩り)だ!」
「ジェフ・セッションズが会った駐米ロシア大使はオバマのホワイトハウスを22回も訪れている。昨年だけで4回もだ」
「大統領選の投票前に現職の大統領が『盗聴』をすることが合法なのか。裁判所に退けられた。落ちたものだ!」
「極めて神聖な選挙のプロセス中、オバマ大統領はどれだけ長く私の電話を盗聴し続けていたのだ。これはニクソン大統領のウォターゲート(民主党本部への盗聴事件)だ。許せない奴だ」
3月5日のツイート
「民主党全国委員会(DNC)がハッキングされていることが分かった後、DNCは米連邦捜査局(FBI)にサーバーやその他の装置を調べさせなかったというのは本当なのか?そんなことが可能なのか」
「ロシアの大統領(メドベージェフのこと)に『ウラジミール(・プーチン)に伝えてくれ。選挙後(対ロシア外交で)もっと柔軟に対応できる』と密かにささやいていたのは一体、誰なんだ」
ホワイトハウスは米大統領選に対するロシアのサイバー攻撃をめぐり、オバマ前政権が調査権限を乱用したかどうか調査するよう上下両院の情報特別委員会に求めています。
全面否定するオバマ側
これに対して、オバマの報道担当者は「オバマもオバマ政権下のいかなるホワイトハウス関係者もアメリカ国民の監視を命じたことは絶対にない。いかなる示唆も明らかな間違いだ」と全面否定しています。
2014~17年、オバマ政権下の特別アシスタントと国家安全保障会議(NSC)欧州安全保障担当上級部長を務めたチャールズ・カプチャン米ジョージタウン大学博士も6日、英議会内で講演した際、トランプがツイートしたオバマ政権の盗聴疑惑について次のように否定しました。
「オバマも国家情報長官もFBI長官も(疑惑を全面的に否定する)声明を出している。私はオバマ政権下で3年も働いたのでバイアスがかかっているかもしれないが、オバマがしていないと断言したのなら信頼できる。その一方でトランプを信頼できるとは言えない。オバマは非常に信頼に足る人物だ」
インテリジェンスには大きく分けて、敵性国家に対する「諜報」と自国内でのスパイによる諜報を防ぐ「防諜」があります。自由主義と民主主義を金看板にする欧米諸国では外国のスパイ機関や国際テロ組織に関与している証拠がない限り、自国民への監視は行わないのが大原則です。
スパイ活動やテロを行う疑いのあるアメリカ国民と永住権を持つ外国人を対する電子情報の収集ついては外国情報活動監視裁判所の令状が必要です。
ジェームズ・クラッパー前国家情報長官(10~17年)は米NBCに対し「外国情報活動監視裁判所がトランプ・タワーを監視する令状を出したことはない」「大統領や次期大統領、候補者とその選挙活動に対する盗聴を行ったことなどない」と疑惑を一蹴しました。
ウソとデマをまき散らすトランプのツイッター政治にそろそろ差し止めが必要なのは言うまでもありません。
(おわり)