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南相馬市のコメの汚染は東電から出た放射性ダストが原因

木野龍逸フリーランスライター
コメの汚染は福島第一原発の作業が原因と説明する小泉教授(2016年1月17日)

2017年1月17日、京都大学大学院医学研究科の小泉昭夫教授によるコメ汚染に関する報告会が南相馬市で開催された。小泉教授は共著者とともに、2013年8月に発生した南相馬市のコメ汚染を調査。昨年末に、国際的な科学雑誌「Environmental Science & Technolory」に論文が承認され、掲載された。共著者の中にはSPEEDIの開発者や核実験後のプルトニウムやストロンチウムの挙動に詳しい専門家らが含まれている。

論文は、13年に発生したコメ汚染は福島第一原発の3号機のガレキ撤去作業で飛散した放射性物質が原因と指摘。SPEEDIをさらに進化させたシミュレーター「WRF-Chem」の計算結果と実測値の照合、放射性物質の粒子径を複数にした試算、採取されたダストのストロンチウムとセシウムの比率などが、福島第一のガレキ撤去作業由来という仮定を裏付けていると結論づけている。

南相馬市のコメ汚染に関しては、規制委が福島第一の作業由来ではないという報告書をまとめ、他方で飛散対策をするなどして3号機の解体作業などが再開した経緯がある。規制委の見方を真っ向から否定する論文が、査読を経て学術誌に掲載された影響は大きい。

講演の中で小泉教授は、福島第一の作業由来を否定する規制委の見解は「科学論争として受け入れられない」などと、田中俊一委員長の対応を強く批判。規制委は自身の見解を示すだけではなく、査読論文のような形で第三者の評価を仰ぐべきだと強調した。

論文はここで全文が読める。

Post-Accident Sporadic Releases of Airborne Radionuclides from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Site

http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.est.5b03155

なお規制委の田中委員長は1月27日の定例会見で、コメ汚染の再調査の可能性を否定。汚染原因の調査は「農水省なり、そういうところがきちっとやればいい。我々の所掌ではない」と説明した。

https://www.nsr.go.jp/data/000137491.pdf

【参考】

2014年11月26日 規制委議事録(https://www.nsr.go.jp/data/000091635.pdf

田中委員長発言

コメ汚染について福島県などで福島第一原発の作業由来という議論があることに関して、「何かの原因だという誤った押し付けをしてしまって、 あとは知りませんというのは、多分住民の方から見ると何の解決にもならないし、困った ことになりますので、今回はそういう意味で行政によって、私どもが工夫してこういう形 で出させていただいたということ」。

2014年11月26日規制委配付資料「3号機ガレキ撤去作業(平成 25 年 8 月)に伴う放射性物質の敷地外へ の降下量について」

フリーランスライター

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況等を中心に取材中。ニコニコチャンネルなどでメルマガ配信。連載記事「不思議な裁判官人事」で「PEP(政策起業家プラットフォーム)ジャーナリズム大賞2022 特別賞」受賞。著作に「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)他。

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