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米プロスポーツ初のトランスジェンダー選手登場。昨年末に出場資格規則も整備。

谷口輝世子スポーツライター
写真と本文は直接、関係はありません。(写真:ロイター/アフロ)

昨年10月、NWHL北米女子プロアイスホッケーリーグに、米プロスポーツ界では初となるトランスジェンダー選手が誕生した。(トランスジェンダーとは、生物学上の性と、性自認が一致しない、心と体の性が一致しない人)

バファローのフォワード、ハリソン・ブラウン選手。カナダ出身の23才だ。

ブラウン選手は、体の性は女性であり、昨シーズンは、ヘイリー・ブラウンとしてNWHL(北米女子プロアイスホッケーリーグ)でプレーした。

しかし、今シーズンの開幕時に、米スポーツ専門局ESPN電子版の取材を通じて、「自分は明らかに男性である」と、トランスジェンダーであることを公表。複数の米メディアによると、米プロスポーツ界で、トランスジェンダーであることを公表した現役選手は、ブラウン選手が初めてだという。

ESPNの記事によると、ブラウン選手は、カナダの学校から米国のメイン大学に編入。大学時代にもアイスホッケー部のコーチには自身がトランスジェンダーであることを告げていた。卒業後には性別適合手術を受けるつもりでいたが、NWHLでプレーすることになったため、手術を先延ばしすることにしたという。女性から男性になった選手が、女子リーグでプレーすることは難しいと考えたからだ。

ブラウン選手は、女子選手としてプレーしていても、心は男性である。氷から降りて、自分のことを男性と認めてくれ、そのように接してくれる友達といるとリラックスできたそうだ。そこで、今シーズンの開幕にあわせて、トランスジェンダーであることを公表し、名前も男性名として選手登録することを決断。ゴールを決めたときの場内アナウンスも、男性名になった。

米プロスポーツ初のトランスジェンダー選手の登場を受けて、NWHLは昨年12月27日に、トランスジェンダー選手の出場資格について発表した。

「NWHLは男性・女性と2つに分けることだけでなく、アスリートが彼らのジェンダーを表現することをサポートする」と宣言。

参加規則は国際オリンピック委員会IOCのトランスジェンダー規則とほぼ同じで、以下のような内容だ。

1.自認する性に関わらず、女性として産まれた人。

1.1 競技者はテストステロンのホルモン療法を受けることはできない。女性から男性へのトランスジェンダーアスリートでホルモン療法を受けている人は出場資格を失う。

2.男性から女性へのトランスジェンダー選手は以下の条件を満たしていれば、出場できる。

2.1 競技者の自認する性は女性であると宣言していること。この宣言はスポーツのために少なくとも4年間は変更できない。

2.2 競技者のテストステロンレベルが、一般的な女子選手の限度内にあること。

2.3 競技者のトータルなテストステロンレベルは、女子選手として競技することを希望する期間中、一般的な女子選手の範囲にあること。

2.4 これらの条件は検査によってモニターされる。検査を拒否した場合には12カ月の出場停止処分を科す。

この規則は発表と同時に施行された。

ブラウン選手は、この参加資格の1に相当する。自身は男性であると認識しているが、女性として産まれた選手だということになる。女性から男性になるためのホルモン療法は受けていない。

また、女性から男性になった選手だけでなく、男性から女性になったトランスジェンダー選手も条件を満たしていれば、出場資格を得ることができる。ホルモン療法を受けていても、男性から女性になった人は、一般的に他の女性より背が高く、より筋肉の密度が高い。しかし、出場資格の条件を満たしているならば、個人差として受け入れられなければいけない。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、ブラウンの名前が入ったグッズの売り上げは、NWHLで第3位だという。1位と2位は米国代表チームのスター。カナダ人のブラウン選手が3位に入っているということは、トランスジェンダーであることを公表した同選手を応援しているファンが多いことを示唆している。

厳しい財政事情で興業をやりくりしているNWHLにとっては、トランスジェンダーを含むLGBTを排除しないことは、差別の解消だけでなく、より多くのファンを獲得することにもつながっていくのかもしれない。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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