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オスカーナイト〜宅配ピザに群がったスターとハリウッドの進化

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

舞台袖にはピザをチンする電子レンジが!?

すべてはMC=エレン・デジェネレスの企みだったことが、アカデミー賞授賞式のプロデューサー・コンビ、ニール・メロンとクレイグ・ゼイダンがハリウッド・リポーターの取材に対して答えたコメントで判明した。そう、今年のオスカーナイトで最も話題になった携帯写メのツイートとデリバリーピザの件だ。2人によると、授賞式を控えたある日、エレンがセレモニーの最中に客席に下りて行き、何人かのスターと絡むことを提案。その時点で彼女のアイディアを耳打ちされていたのはメリル・ストリープくらいで、メリルは「いいんじゃない」と軽く同意したのだが、まさか、一緒に写メを撮ることになるとは本人も、そして、一緒にカメラに収まったその他多くの豪華スターたちも知らされていなかったのだという。勿論、シャッターを切ったブラッドリー・クーパーも。さらに、あのピザもぶっつけ本番で、4時間の長丁場でスターたちは腹ぺこに違いないというエレンの読みが当たり、みんななりふり構わずピザをパクついたという訳だ。因みに、ステージの袖には宅配中に冷めたピザをチンする電子レンジがちゃんと用意されていて、出番待ちのジェニファー・ガーナーやウィル・スミスがホットなピザと番組スポンサーであるペプシとを両手に持ち"ながら食い"していたとか。

ここで僕らが学んだことは、ハリウッドスターは見た目ほど気取ってないということと、エレン・デジェネレスが経験上、退屈と空腹を癒やすためには、どんなステージ上の演出や笑えるジョークより、席の移動と食事が効果的だと知っていたこと。それが、オスカーナイトの唯一の拠り所であるスターパワーが希薄になった昨今、結果的に他のどの演出よりセレモニーをショーアップしていたのは皮肉な話ではあるけれど。

受賞結果が指し示すハリウッドの未来像

さて、本題である。今年のオスカーは「ゼロ・グラビティ」の7冠と「それでも夜は明ける」の一発逆転の作品賞受賞に象徴されるように、ハリウッドがその王道である映像技術の進化と、逆に苦手な人種の壁撤廃に向けて進歩したという、以上の2点に集約されると思う。勿論、「ダラス・バイヤーズクラブ」の2人が悲願の主演、助演男優賞に輝いたこともエポックだった。「評決のとき」(96)で華々しい脚光を浴び、そのルックが酷似していることから"ポール・ニューマンの再来"と呼ばれてから実に18年、公私共に紆余曲折を経て遂にオスカーに辿り着いたマシュー・マコノヒーと、マコノヒーとたった2つ違いでやはり美形俳優のレッテルを貼られ、それを自ら剥ぎ取るように麻薬患者、狙撃犯役等に挑戦し、同じ栄光を勝ち取ったジャレッド・レト。2人にとって、こびり付いたイメージを払拭するためなら減量なんて全くリスクの範疇ではなかっただろう。

「それでも夜は明ける」のスティーブ・マックイーンがアフリカ系として初の作品賞受賞監督になったことも忘れてはいけない。信じられないことだが、これも事実である。そして、「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロンも、ラテン・アメリカ出身では初のアカデミー監督賞受賞者となった。かつて、アレハンドロ・コクザレス・イニャリトゥもギレルモ・デル・トロもなし得なかった快挙である。そして、「それでも~」で助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴはケニア人だが生まれはメキシコシティー。翌日のメキシコが歓喜の渦に巻き込まれたことは言うまでもない。

それにしても、ムーブメントの主役はアフリカ系イギリス人のマックイーンとメキシコ人のキュアロンである。この結果をオスカー会員の大多数はどう受け止めているのだろうか。

「それでも夜は明ける」3月7日より、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国順次ロードショー!

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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