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下半身スキャンダルで失脚した政治家からアメリカが見えてくる話題のドキュメンタリー映画!?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
どうしても下半身に目が行く「ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ」

ヒラリーに決定的な打撃を与えたスキャンダル!

ドラルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に就任するのは来る1月20日。トランプ政権が世界の勢力図をどのように塗り替えていくのか?そこに注目が集まる中、あの熾烈を極めた選挙戦の最中、対立候補だったヒラリー・クリントンに決定的な打撃を与えたと言われるFBIによる私用メール問題再捜査の裏側に隠された、アメリカ人なら誰でも知っている、日本人は意外と知らないスキャンダルの全貌を再検証するドキュメンタリー映画が公開される。それが「ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ」だ。

これが話題のアンソニー・ウィーナー!!
これが話題のアンソニー・ウィーナー!!

そもそも、FBIがクリントンの私用メールに再度切り込むことになったのは、別件捜査がきっかけだった。クリントンの側近として知られるフーマ・アベディンと夫の元米議会議員、アンソニー・ウィーナーが共有する端末から押収された送受信データを調べる過程で、新たな疑惑につながるメールが発見されたのだ。これに対し、クリントン陣営は事実をすべて公開するようFBIに要求。結果的に、FBIはクリントンの追訴見送りを発表するが、投票日を2日後に控えた正式声明は、混迷を極めた選挙戦をトランプ有利に動かした最大の要因にもなった。

ウィーナーは"懲りない男"だった!!

さて、FBIはなぜ、フーマ・アベディンとアンソニー・ウィーナーの夫婦間メールを漁っていたかと言うと、ウィーナーに未成年とされる女性と性的なテキストメッセージをやり取りした疑惑が再浮上したからだ。これには前段があって、2013年のニューヨーク市長選挙に立候補した際、若き中産階級の代弁者として対立候補をリードしていたウィーナーが、TwitterやFacebook等を利用して下半身を露出したエッチなセルフィを女性に送りつけていたことが発覚。当然、ウィーナーは市長選に敗北。フーマとはその後に離婚している。

メディアにもみくちゃにされるウィーナー!!
メディアにもみくちゃにされるウィーナー!!

驚くのはまだ早い。信じられないことに、ウィーナーが生来の悪い癖でせっかく築き上げたステイタスを棒に振ったのはそれが初めてではない。それから遡ること2年前の2011年、当時体制批判の急先鋒として高い人気を誇っていた下院議員時代、ウィーナーがTwitterの公式アカウントから自分の卑猥な写真を女性フォロワーに送りつけていたことが、なぜか公にリークされ、あえなく議員辞職に追い込まれているのだ。アメリカで携帯電話でショートメールをやり取りすることを意味するtextingとsexを掛け合わせた"ウィーナーのセクスティング・スキャンダル"と呼ばれた事件の発端である。ニューヨーク市長選に敗れ、妻を経由してヒラリーにも多大な影響を与えることになったのは、そんな2年前の"ミソギ"が明けた直後の失態だった。こうして、ニューヨークのブルックリン出身で、リベラルの若きリーダーとして将来を嘱望されていたユダヤ人の青年政治家と、ヒラリー・クリントンとは国務長官時代から信頼関係にあったイラン人の美人妻は、夫の風変わりな性癖のせいで、共に奈落の底へと落ちていくこととなる。

来るオスカーの最有力候補か?

話題のドキュメントは、メディアから"懲りない男"、"2度あることは3度ある"と散々揶揄されても、堂々と記者会見を開いて厳しい質問に応じ、やがて、トークショーに出演して自虐ギャグを炸裂させるウィーナーの、文字通り懲りない姿を最後まで追っていく。セックス・スキャンダルが浮上した人気タレントがすべてを放棄して姿を消す日本とは、タレント自身も大衆も、内包するメンタルの構造が少し違うのかも知れない。政治家、または政治家を目指す者に共通する目立ちたがり屋願望と、それを煽りまくるメディア、及び大衆の習性に於いては、アメリカも日本も大差ないと思うのだが。

スキャンダルによって失脚して行く若き政治家とその周辺を描くことで、アメリカという国の構造を的確に言い当てたことが評価され、本作はすでに数々の映画賞のドキュメンタリー部門を制覇し、2月のアカデミー賞(R)でも最有力候補に目されている。下半身スキャンダルをマジに考察する作風が、押し殺した笑いを提供してくれる珍品である。

『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』

2月18日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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