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英国に亡命中だったロシア人の富豪ベレゾフスキー氏、死亡 ―巨額負債を抱えたことが苦に?

小林恭子ジャーナリスト
ボリス・ベレゾフスキー氏の死亡を伝えるBBCのニュースサイト

ロシア人の富豪ボリス・ベレゾフスキー氏が、23日、亡命先英南部バークシャー州の自宅で死亡していたことが分かった。

死亡にいたる状況については、同日夜時点では判明していない。一部では自殺説が出ている。

ベレゾフスキー氏(67歳)はロシアのいわゆる「新興財閥」(オルガリヒ)の一人だった。自動車製造業から始まって、大手石油会社「シブネフチ」(シベリア石油会社)、航空会社アエロフロートなどを次々と設立、買収し、巨額の富を築いた。テレビ、経済誌、新聞、週刊誌なども手中に押さえ、メディア王にもなった。

しかし、アエロフロートにかかわる買収疑惑で追及され、国外に脱出せざるを得なくなった。2000年から英国に住みだしたベレゾフスキー氏は、プーチン政権の批判者だった。

英民放チャンネル4のサイモン・イスラエル記者によれば、ベレゾフスキー氏は自宅浴槽の中で亡くなった。家族の友人が死亡を公表したのは午前11時。警察に連絡が行ったのは午後3時過ぎであった。

BBCの外交記者ブリジット・ケンドール氏は、BBCテレビのニュース番組の中で、「死因は推測できないが、ベレゾフスキー氏が最近かなり気落ちしていたのは事実」と述べた。

ケンドール記者によると、気落ちのきっかけは、同じくオルガリヒの一人で、英国に住むロマン・アブラモヴィッチ氏との裁判に負けたことだという。

ベレゾフスキー氏は所有していたシブネフチの株をアブラモヴィッチ氏(サッカーのチェルシークラブの所有者としても知られる)に売却を余儀なくされたが、売却価格が「ほとんどただ同然」だったのはアブラモヴィッチ氏が自分を脅したからだとして、30億ポンド(約4億3100万円)の損害賠償を求める訴訟を起こしていた。

昨年8月、英国の裁判所はこの訴えを退け、ベレゾフスキー氏に3500万ポンドに上るアブラモヴィッチ氏の裁判費用の支払いを命じた。ベレゾフスキー氏自身の裁判費用は「1億ポンド近い」とオブザーバー紙(24日付)が報じた。

今年年頭には、元パートナーが同氏に対し、二人が昨年まで住んでいたロンドン郊外の物件売却金の一部を支払うことを求めて裁判を起こした。ベレゾフスキー氏の裁判費用は25万ポンドに上っていると見られている。

インディペンデント紙によると、ベレゾフスキー氏は今月、芸術家アンディー・ウオーホールの作品を高額で売却した。負債を減らすためであったようだ。

2006年、同氏と近い関係にあった元KGBのアレクサンドル・リトビネンコ氏がロンドン市内で毒をもられる事件があった(後、病院で死亡)。ベレゾフスキー氏は毒殺にはプーチンが背後にあると主張していた。

BBCのモスクワ支局員スティーブ・ローゼンバーグ氏によると、「ロシアの国民は、オリガルヒが生きてようが死んでいようが、同情心は持たない」(BBCニュースサイト)。ソ連崩壊時の混乱が続いたロシアで、何百万人もの国民が貧困に陥ったときに、ベレゾフスキー氏のような一握りの人々が巨額の財を成したからだという。また、政界にも強いコネを持ってきた同氏が自分の利益のためだけに動く人物だと見ているからだ。

ベレゾフスキー氏は、エリツィン政権(1991年- 1999年)の黒幕の一人として記憶されるだろう、とローゼンバーグ記者は記している。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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