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スイスの新聞が難民による紙面を発行 ー自分たちの体験談をつづる

小林恭子ジャーナリスト
スイスの鉄道駅に到着したシリアからの難民をエスコートする警察官(写真:ロイター/アフロ)

スイスのドイツ語新聞「 Blick」(ブリック)が、難民たちに紙面を制作させた号を発行し、話題を呼んでいる。

欧州にやってくる難民の数が急増し、世界各地から記者がハンガリー、セルビア、クロアチア、ギリシャなどに派遣されている。

そんな新聞の1つがスイスの大衆紙「 Blick」(ブリック)である。派遣された記者による報道が続いてきたが、難民たちの日々の生活のほんの1場面しか紹介することができない状態に、ブリック紙の編集長レネ・リュチンガー氏は焦燥感を抱いていた。

リュチュンガー編集長が英ウェブサイト「 Journalism.co.uk. 」(22日付)に語ったところによると、「では、難民たちに、新聞を作ってもらってはどうか」というアイデアがひらめいたという。

ブリック紙の9月18日号
ブリック紙の9月18日号

こうして、9月18日付の新聞はスイスに滞在する13人の難民たちが制作したものになった。その大部分が出身国ではジャーナリストやカメラマンだった。

制作の様子を見ていて、編集長は感動したという。中にはもう何年にもわたり、ジャーナリズムの世界から遠ざかっていた人もいたからだ。

新聞は約65万人の読者にいつものよう届けられたという。

編集部は、国内のメディア組織やジャーナリズムを教える教育機関を通じて、難民の中で「ジャーナリズムの経験がある人」を探してもらった。最終的に集まったのは、シリア、スリランカ、イラン、キルギスタン、エリトリアの出身者で、ほとんどがジャーナリストかカメラマンだったが、通訳と電気工事関係者もいた。

紙面では難民たちが最終ゴールとなる国に行きつくまでの旅の様子、生まれ育った国を離れた時の思い、異なる文化の下で暮らす生活の体験がつづられた。

難民たちが作った紙面を受け取った読者は驚いたようだが、反応は大半が「前向きだった」と編集長は語っている。「今回の新聞で難民に対する読者の意識が変わることを望んでいる」、「なぜ難民たちが国を離れざるを得なくなったのか、どんな体験をしたのかを知ってほしい」。

スイスは欧州連合(EU)に加入していないが、人口比でスイスの2014年の難民認定件数はスウェーデン、マルタに次ぎ欧州で3番目に多いと言われている。

「スイスインフォ」の記事(18日付)によると、今年初め、スイス政府は今後3年間で3000人の難民受け入れを決めている。シリアの内戦発生から4年間で、約9000人のシリア難民を受け入れてきたという。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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